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5.「青空教室」ii

「独楽を斬るように弾け、風を斬るように避ける。珍しい型ですね。ですが、極めて回避力に長けている、良い型です」

「ありがとう……ございます……」


 砂浜に突っ伏しながら呻くように答えた。

 修行二日目。所変わって今日は砂浜。ここは、魔物のシャチが出るという地元民も近づかない超危険スポット。きらりをぶつけるには丁度いいという事で選ばれた。いくらきらりと言えど体長が二三倍は違う魔物はきついだろうし行くなら一人で行って欲しかったのだが、悠然と空中に水の流れを作り泳いできたシャチをきらりが叩き落としたからもうどうでもいい。

 雫は昨日に引き続き魔法の習得、きらりはそんな感じ、そして俺はヨウ先生と剣の稽古。


「ただし、攻撃性には著しく欠けていますね。回避盾という奴なのでしょうか。まぁ、パーティーを組んで戦うのなら大した欠点にはなりませんが」


 俺は疲労困憊だが、彼は今も涼しい顔して立っている。伊達にソロで冒険者をやっているわけでは無いようだ。勇者の娘の家庭教師をやっているわけだし、只者では無いのだろうけど。


「ただ、回避盾にしては耐久性に難ありですね」

「一応、アタッカーのつもりです……」

「にしては、一度も攻撃に転じませんでしたが」

「うぐぐ……」


 出来てたらするが。


「その様子だとしばらく動けなさそうですね。私はしずくさんの方を見てきますので、あなたは一度休憩にしましょうか」

「手合わせありがとうございました……」


 彼がざくざくと去って行く。


「すごかったねー、はやて」


 顔を上げると、きらりがしゃがみ込み俺を覗きこんでいた。太ももが際どい奥の方まで覗いて、彼女が来た方向に目を逸らせば、力なく海岸に打ち上げられた巨大海獣の群れが横たわっている。

 よろよろと立ち上がる。


「これだけぼろぼろで、凄いも何もないだろ」

「一回も攻撃当たってなかったでしょ? オレがやったら、いつもボコボコに当たるのに」


 容赦ないな先生。魔人の体の丈夫さなら平気なんだろうけど。


「まぁ、避けるのだけはな」

「十分すごいよ。いいなー……」

「魔人の破壊力に比べたら、俺の回避能力なんて塵に同じだけど」


 彼女が曖昧に笑った。


「魔術の訓練はしないのか?」

「……うん」

「理由は聞いてもいいか?」


 きらりが、隣に座り込んだ。


「……はやてはどれくらい聞いてるの?」

「禍津鬼の事なら元々知ってるよ、師匠から詳しく」

「あぁそっか。空の賢者の弟子だもんね。そりゃ……知ってるか」


 目の前には海がある。青空と青海は、地平線まで続いている。ベージュの砂浜を、波が色を塗っていく。心地よい波音が沈黙を埋める。


「あんまり、出来てないかも」

「……魔術が? 出来ないから、したく無いのか?」

「カッコ悪いとこ見せたくなかったってのも、ある」


出来なくてカッコ悪い、ねぇ。


「あいつを見て、まだそんな事を思う?」


 振り向けば、先生が見守る中、彼女がばっしゃばっしゃと水球を生み出しては、地面に落としている。綺麗な球ではない、欠けた、歪な球だ。まだまだ未熟な彼女の腕だが、表情に曇る所は無い。楽しそうである。


「そう……だね、うん。それに……怖い、っていうのもある」

「怖い?」

「我を失って、周りの皆を傷つけちゃわないか」

「……そうか」

「今までにもね、何回か、やってみた事はあるの。でも……一度、魔術を使ったら眠っちゃうみたい」

「魔術を使うと、眠る……」


 眠るか、理性を失って暴れ出すでもなく? なら、危険性も低くていい事だろうけど。


「ずっとそう。何回やっても……」

「肝心の魔術の方は、成功してるのか?」

「……多分」

「なら、いいんじゃないか? 一回しか使えないのはあれだけど、魔術を複数回使う相手なんてそうそう居ないし」

「そう……かな?」

「おう。それにきらりは素手でも強いだろ」


 と、目を覚ましたのか、のそのそと這いずり海の中に帰って行くシャチ。


「実は魔法も使えるんだぜ」

「もう魔術要らないじゃん」

「えへへ。まぁ先生には威力高すぎて使いにくいって言われてるけど」


 彼女が立ち上がる、ばっばっとお尻に着いた砂を払う。


「見てて」


 彼女が手のひらを海に掲げる、彼女が呟いた言葉は、たった一言だった、それだけで。


「アルト・バースト!」


 目の前の海が丸く蒸発した。熱風が肌を撫でていく。


「えへへ、どう? すごい? すごいでしょ?」


 空いた穴はすぐに波が埋めた。よく見れば、水中だったはずの砂が少し溶けて固まっている。


「これは使いにくいというか使えないね」

「え?」



 *



 爆音がとどろく。


「先生、今の何ですか?」

「あれは見てはいけません。あれは魔法使いを志す者の心を壊します」

「先生あれは何ですか?」


 先生が渋々答える。


「あれは、アルト流という流派の魔法です。特徴は発動速攻、威力極大。それらのしわ寄せは全て膨大な魔力消費に。魔力の消費が多すぎて普通の人間に習得は無理ですが、逆に言えば習得さえ出来れば超高威力の魔法が気軽にぽんぽん使えるという事。そして現在アルトさんと彼女しか使えません。見なかった事にしましょう」

「あんなのと比べたら、私の魔法なんておままごとじゃないですか」

「あなたの魔法は世間一般的に見てもおままごとですよ」

「先生今慰めるとこですよ」

「続けますよ」


 冷てぇ。

 

「しずくさんの原魔法も、そこそこ形になって来ましたね」

「威力しょぼいですけどね」

「しずくさんの習熟速度は世間一般から見たら速い方ですよ」

「世間一般? 先生から見たら?」

「私は一日で習得しました」

「先生の自慢は要らなかったです」


 ばしゃばしゃと、握った魔石に魔力を流し込んでは丸い水の塊を生み出す……つもりで居る。出来たのはちょっと歪な丸。


「未だに、魔石なしで魔法を使うというイメージが湧かないんです」

「湧いたら使えてますしね。まだ洗練の段階です、焦らなくていいですよ」

「そーですか」

「魔法の練習に飽きてきたのなら、一旦座学でも挟みます?」

「何を教えてくれるんですか?」

「そうですね……魔法の色々な使い方について」

「話したまえ」

「偉そうですね」


 離れたところに移動して座る。


「一口に魔法と言っても色々な種類があります。難易度で分けるなら初級、中級、上級等、用途別では生活魔法、戦闘魔法、さらに戦闘魔法の中でも、攻撃用に補助用など。しずくさんはカッコ良く魔法が使いたいとの事なので、今回は攻撃魔法について詳しく話していきましょうか」

「お願いします」


 海鳥がみゃあみゃあと鳴いている。


「魔法使いが使う魔法というのは、概して大規模、高威力な物が多いです。さっきのきらりさんの魔法をより広範囲に、低密度にした感じですね。しかし、けれどそれは、今しずくさんの中で形作られている傾向とは真逆」


 私が作る水球は、せいぜい両手で覆えるほどだ。


「私は……魔法使いには、向いてない?」

「普通の魔法使いには、そうですね」

「そう……なんだ」


 楽しくて続けてるけど……先は、無いのかな。


「けれど、小規模の魔法を活かした戦闘法、というのもあります」

「小規模を、活かす?」

「接近して魔法を直接ぶち込んで戦う魔法格闘、それから剣に魔法を纏わせる魔法剣。それらは魔法の中でも繊細なコントロールや速度が求められ、小さな魔法の方が適しているのですよ」


 魔法剣?


「あなたが無意識的に作ったその大きさが、あなたの適正規模です。ならばあなたが覚えるべきはあなたの持ち味を生かせる戦い方。普通の魔法使いでなくともいいんですよ」

「魔法剣ってさっき先生が使ってたやつですか!」


 ふーくんをぼこぼこにしてたやつ!


「おや、魔法剣に興味がおありですか? 私は専門なので詳しく教えてあげられますよ」

「私も使いたいです! 出来ますか!」

「習得難度や手間の割にあまり強くは無いしデメリットも多いですがしずくさんならきっと出来ますよ」

「やったー!」


 ……ん? 今なんか言った?

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