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14.「あたたかいコート」

「街に行きましょー!」


 部屋を開けると純真が着替え中だった。黒の下着、かわいいね! ごぶぇっ!



「久しぶりに四人揃って出かけられるからって気分が上がってたんです。てか初めてじゃないですかね、だから仕方ないと思います。でも俺が悪いですよね。俺もそう思います」

「異性の部屋に入る時はノック」

「はい。心に刻みました」

「なら、執行猶予」

「ありがとうございます」


 立ち上がる。


「という訳で皆で街で遊びましょう!」

「眠たい」

「……変態」

「あははざまぁみろ」

「皆が言う事を聞く権力が欲しいな」

「冗談だ、ほら、乗せろ」


 お姉さまがのそのそとベッドの端に寄り、ぽんぽんとベッドを叩く。


「……なんだ少年、にやついて、気持ち悪い」

「なんだか、すっごい久しぶりな気がするんです」


 本当に。もしかしたらもう二度と、とも思っていた。


「そうか。じゃあ今日は純真に頼もう」

「なんで?」

「重いから嫌よ」

「重くない」

「体がだらしなくて持ちにくいわ」

「だらしなくない。マシュマロボディは需要有るんだぞ」


 ふん、と純真が鼻を鳴らす。


「あなたのそれはただの不摂生でしょ? 需要があるだなんて免罪符掲げて気を緩めるとどこまでもぶくぶくと太っていくわ、気を付けないと」

「おやおや僻みか? 僻みなのか? お前はどれだけ太っても出てくるのは腹だけなのだろうな、きゅっきゅっきゅか、きゅっぼんっきゅの二択。まぁいいんじゃないか?自分のやれる中で最善を尽くしているようで、身分相応な賢明な判断だ」

「ねぇ、そう言えば突然下着付け始めた時あったわよね。あれなんでだっけ」

「その話はやめようか他の話にしよう他の話に。やっぱり胸は大きさより形だよなみんなちがってみんないい」


 お姉さまがちらちらと俺を見てくる、純真がお姉さまの服の紐を引っ張ろうとしているのに気を取られて聞いてなかった。隣の雫に聞く。


「何の話?」

「消し炭にしてやるよ」

「なんで?」



「どこに向かってるんだ?」


 お姉さまが聞く。


「服屋です」

「そうか。しずく、行きたい所はあるか?」

「服屋かな」

「そうか。純真、この街でお勧めの店とかあるか」

「服屋ね」

「……」


 彼女が背中でむすっととする。


「……なぁ、最近、顔見知りが出会う度に同じ言葉をかけてくるのだが。私の名前は“アツギシロヨ”では無いのだぞ」

「そうですか。厚着しろよ」

「なぁお前らだよなそれ広めたの」


 お姉さまがゆるゆると首を絞めてくる。非力。そりゃ厚着しないと風邪引くしね。


「見に行くのは、私の服か」

「と、思うじゃん?」

「……違うのか?」

「そうですけど」

「今の時間は何だ?」


 声のトーンが少し落ちる。


「私は、すぐ服をダメにしてしまう」

「お姉さまに合ったものを探しましょう、見つかるまで」

「そう都合よく、あるものか」

「無ければ作ればいいんです」

「……しかし金が掛かるだろう、それでは」


 ……え? お金の心配?


「私がやっている事と言えば、日がな一日部屋でゴロゴロして居るだけ。私が欲しいものは君たちが持ってきてくれる、私が体を崩せば忙しなく動き回る、私の為に。……私は君たちに何もしてやれていないのに」


 彼女がぎゅっと、俺の体を締める。


「その上金が掛かるとあっては……」


 彼女なりに、色々考えているのだな。


「あなたもちゃんと、罪悪感とか覚えられるのね。感心したわ」

「……私はこれでも真面目に悩んで言ったのだぞ」

「そう」


 純真は素っ気なく流した。


「お姉さまの事は、金のかかるペットぐらいに考えてるので大丈夫ですよ」

「おい」

「だいじょーぶだよおねーさん、私だって大したことしてないから。まぁ私は迷惑も掛けてないんんだけど」

「君は偶に混乱に乗じて人を殴るよな」


 純白の肩の力は抜けていた。


「お金の事なら心配ないですよ、“幻想の鍵”は死亡率が高いので結構なお給金が出るんです」

「一言伏せて欲しかったな」

「危険度に対してお金が出るのなら、俺の傍に居る皆にも危険は及ぶ、つまり皆もお金を得る権利がある。俺の傍でただゴロゴロしてる、お姉さまにもね」

「……そうか。それは、楽でいいな」


 命を天秤にかけて、吊り合っていいものかはさておき。


「服を探すとは言いましたが、実は既に目星は付けてるんですよ。魔物の蚕が生み出す魔法のシルク、それでお姉さまの外套を作りましょう。生地も高価でオーダーメイドと、大分予算は必要でしょうが、まぁ神様にごねれば余裕ですよがはは!」



「へぇ?」

「すみませんでした」


 神様は薄目で冷たく俺を見下ろす。ここは彼女の世界、空と鏡の空の狭間。


「それは救世の役目に、必要な物かい?」

「勿論です! 外套が無ければお姉さまが風邪引いて死にます!」

「普通の外套を着せなよ」

「着たものを片端からダメにしてしまうので、長期的に見れば費用は変わらないかと」

「……ふぅん? 魔織布とやらは良いとして、わざわざシルクを使う必要は?」

「あの人肌が弱いので、絹じゃないと」

「……」


 彼女はしばらく俺を見つめていたが、やがて虚空に手を突っ込み、ジャラジャラと金貨を取り出す。


「好きなだけ持って行くといい、救世主に貢ぐお金ならいくらでもある」

「ありがとうございます!」


 どっから出したし。


「本物ですよね」

「合法だよ、安心して」

「やった! 合法金貨!」


 彼女の手の山から数枚抜き出す、おっも。


「……おや、それだけでいいの?」

「これで服は作れますね」


 余ったらおやつ買おう。へぇと、彼女はジャラジャラと余った金貨を背中にやる。


「ところで神様、何か悲しい事でもあったんですか?」

「……ん、ちょっとね」


 彼女は言葉を濁す。


「それから……一つ、聞きたい事があるのですが」

「……いいよ、何でも聞き給え。僕に答えられる事ならいくらでも教えよう、破滅の未来も、不可避の災厄も、死の運命も、結末も」



「完成しましたよ! どうですかー?」


 お姉さまがそれを着る、真っ白なダッフルコートだ。純白の衣の上から羽織ると、すっぽりとその体を覆う。


「暑い」

「風が冷たい時でいいんですよ、着るのは」

「うむ。中々いいな、気に入った」

「それは良かったです」


 内生地に魔法のシルクを使っている。彼女がくるくると回り、自分の体を見下ろす。


「なぁ、これ、太ももから下は隠せてないのだが。君の趣味か?」

「いつもそんなだろ」


 つられて、純真が自分の太ももを確かめている。君も割と際どいよね。


「はい、純真の分もあるよ」

「……私?」

「桃色の煙、出しっぱなしだと色々面倒だからね。俺たち以外には」


 彼女に渡したのは真っ黒なマント。フード付きのやつだ。


「それは君の力を吸収してくれる特殊素材」

「……いいの? 嬉しい……!」


 早速被り、鏡の前を独占するお姉さまと押し合いを始める。それから、しずくに目をやると、目が合った。


「しずくにもあるよ。はいこれ」


 紙袋を渡す。


「なにこれー」

「コロッケ」

「わーいコロッケ! ってなんでやねん!」

「あげても気に入った服以外着ないじゃん」

「まぁ……そうだけど」

 

 なんか複雑だなぁと、彼女はぼやく。練ったジャガイモを揚げたコロッケ的な謎料理を頬張りすぐに笑顔に変わる。安い女。

 と、服を引っ張られ、振り向くと純真が、


「ねぇねぇ、どっちの太もものがいい?」


 どういう話の流れでそうなった。二人が裾をまくり、もちもちのと、すらりとしたのが、眩しい肌色が並んでいる。片方は褐色、片方は目に毒なほど白く。目が吸いこまれる。


「どれ、よく見せてみなされ」

「んふふふー!」

「なに? しずくも見て欲しいの? 仕方ないなー」

 

 もぐもぐごっくんと、彼女は口の中のものを飲み込み、


「消し炭にしてやるよ」


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