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11.「和解」

「よっきゅうしゃ、って何かしら」


 夜空ちゃんが聞いてくる。

 街道をあてなく歩きながら話す。通り抜ける風が気持ちいい。カタカタと風車が回る。


「機械神の手先というか、信者というか。神から力を貰う代わりに世界を終わらせようとしてる人たちですね。救世班にとっての天敵みたいな」

「とりあえず、悪い奴なの?」

「他人も世界も投げ捨てて、自分の欲望を選ぶ辺りをどう感じるかは人それぞれですが、問題を起こす人はちらほら居ますね」


 ちらほらというかまぁ大体そうだけど。

 夜空ちゃんはそれで納得する。と、黙っていた藍鉄さんも話に加わる。


「当然のように出てきたけど……救世班って?」

「救世班は……読んで字のごとく、世界を救うために頑張ってる人たちです。神様が中心に動いていて……そうですね、時折、騎士王隊にも指令が入るでしょう? 確率神様とか。そこら辺ですね」

「……へぇ、偶にうちの隊員が動いていたのは知ってたけど、それだったの」


 実は俺もよく知らない。藍鉄さんが納得してくれてよかった。


「……あなたもその、救世班って奴なの?」


 どう……だろう。


「“幻想の鍵”、は……便利な末端、みたいなものですかね。救世班と深い関わりがある事は、間違いないですが」

「そう」

「そんな訳で、俺と敵対する欲叶者がこの街に居るわけですが、まぁそれはこっちでどうにかしておくのでお気になさらず」


 面倒だけど。騒げばそのうち向こうから寄って来るだろ。俺殺せばゲームクリアらしいし。いえ、と、藍鉄さんが言う。


「私たちの目的は禍津鬼を倒す事だけじゃないわ。この世界の平和の維持がその根幹。一般人が手に負えない相手だって言うんなら、それを騎士である私たちがどうにかするのは当然の義務」


 彼が手を差し出してくる。


「欲叶者とやらの捕縛、私たちも協力するわ」

「……そうですか。ありがとうございます」


 いい人だな。手を取った。


「あなたはどうでも良いですが平和の為なら仕方ありませんね!」

「ありがとー天勁ちゃん、つんでれだねー」

「多分違います!」


 と、とたとたと雫が帰ってきた。


「おやつ買ってきたー!」


 雫が持ってきた紙袋の中身は……ドーナッツ? まんまるの茶色の塊、香ばしい油の匂いと甘い香りが袋から漂ってくる。雫がそれをずいと差し出してくる。


「いいの?」

「うん!」


 紙を一枚手にとり、包んで一つもらった。齧りつくと、固めの茶色の中から、真っ白ふわふわの生地が出てくる、まだ熱々で湯気が立ち、口の中ではふはふと転がし、味わう。甘い、固い、細かな塊が舌の上で溶けていく。


「おいしい!」

「でしょー?」


 料理は下手だが舌は正確だな。


「みんなの分もあるよー! 夜空おねーさん、要る?」

「貰うわ。ありがとう」


 夜空ちゃんも手に取り、はふはふと食べている。


「天勁ちゃんも、欲しいー?」

「私もお姉さんなのに呼び方が違うのですが。まぁくれると言うなら貰いますよ」

「ふーくんと仲良くするならいーよ」

「ぐぬぬ……仕方ありません、ドーナツの為です」


 俺への嫌悪感ドーナッツで拭えるんだ。天勁ちゃんも受け取る。


「藍鉄おにーさんも! どうぞ!」

「私にもくれるの?」

「うん!」

「……そう」


 彼が雫の頭に手を伸ばし、わしわしと撫でる。


「いい子ね」

「えへへ……」


 彼も受け取り、食べ始める。 と、お姉さまもむにゃむにゃと起きてきた。



「良い匂い……」

「お目覚めですか? 丁度おやつの時間ですよー」

「眠い……食べる……食べさせろ」

「じゃあ、一旦どこかに座りましょうか」


 適当なテラス席を見つけ、座る。お姉さまも座らせたが、ふらふらと夢うつつだ。


「お姉さまーおやつですよー」

「ん……」

「あ、ほら、紙で包まないと手が汚れちゃいますよー」


 ……。純白が鷲摑みで取り、もそもそと食べ始める。


「うまうま……」


 手が汚れるが……後で拭けばいいか。席を立ち、騎士王隊の三人の方に。


「疲れたので俺たちはそろそろ帰りますね」

「あんたらほんと自由ね……」


 藍鉄さんが呆れている。


「あはは。まぁ俺らなんてこんなもんですよ」


 根なし草の風来坊、大した当てもなくやる事もなく。それが集まっただけ。と、じっと、彼が俺を見つめる。しばらく彼は黙っていて、何を考えているのかなー、と考えていると、


「悪かったわね、昨日は」


 藍鉄さんが言う。


「いえ、傍から見ても俺は怪しい奴でしたし。気にしてませんよ」

「一日中見てれば分かった、あんたらはただの呑気なばかども。あんたの仲間だとかいうもう一人も、きっとそうね。

私たちの任務には関係ない。なら、もう無理には聞かないわ」


 ふむ。ならばついでに頼んでおこう。


「もし、黒いドレスを着た、桃色の煙を漂わせた少女を見かければ、保護しといてくれません? 煙は触れると発情しますが、本人は至って純真無垢な女の子なので、間違って襲ってしまわないように。藍鉄さんなら大丈夫だとは思いますが」


 彼がゆっくりとこちらを見る。


「それが、もう一人の仲間だっていう子?」

「えぇ。俺たちが付けているこの、同じ柄の紐が目印です」


 藍鉄はその組紐をじっと眺めていた。穏やかな顔だった。


「そう……覚えておくわ。任務の敵だと間違えて、倒してしまわないようにね」

「えぇ、お願いします」


 と、天勁ちゃんが口を開く。


「それ事件の犯人じゃないんですかね」

「違うっつってんだよ」

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