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10.「捜査協力」

「いやぁ、今日も天気がいいですねー。風の街だけあって、ずっと風が吹いていて気持ちがいいですし。ほら空を見てくださいよ、綿雲があんなに早く進んでます。いい風ですねー」


 前を歩く彼らに話しかける


「……どうして平然とあなたが付いてきているのかしら」

「あれ、言いませんでした? 事件解決の為の協力は惜しまないって」

「ねーねーふーくん、あれ食べたーい」

「耳元で騒ぐな……くぁあ……」


 うちの自由な二人に目を落とす。


「……その子たちは」

「この非常時に目を離すのも不安なので」

「そう。もう一人の仲間は、放置するのにね」

「あっちは強いですからね。二つに分断されたとして、危ないのはむしろ残された俺たち方でして」

「……はぁ、もう何でもいいわ。付いてきてもいいけど、邪魔はしないでくれる?」


 彼は手をひらひらとさせる。


「もちろん!」

「付いてくんな! ごみが!」

「隣でチワワ吠えてますよ」


 という訳で、三足す三の謎チーム。



「最近あった変な事? そーだなー……」


 街道に面した屋台の一つ。何の肉かは知らないが、美味しい肉の串焼き肉。今日も焼き立ての香ばしい匂いが通りを漂よっている。

 とりあえず聞き込みらしい。地味だが地道に。

 と、店のおじさんの視線が俺に来た。


「……え、俺ですか?」


 皆の視線が俺に集まる。僕は悪い怪しい奴じゃ無いよ。


「そこの水色の子と真っ黒な子が付き合ってて、そっちの少年が背中の真っ白なねーちゃんの従者で、で、この前少年と真っ黒な子が抜け駆けしてデートに来た事かな」

「あぁ何だその事か」

「また随分ぐちゃぐちゃした関係性ですね」

「ねぇふーくんどういう事? 私の純真取ろうとしてるの?」

「しずくは私のだぞ」

「誰か止めなさいよ」


 ガハハと店主が笑う。


「それ以上に変なことは無かったな! まぁ、妙な噂も流れちゃいるが、噂は噂、気にするまでも——」

「一応、どんな噂か聞いてもいいかしら」


 藍鉄さんが引き止める。


「お、おぉ? 楽しい話じゃねーぞ?」

「えぇ」


 一つは事件についての噂だった。年若い男女が行方不明になり、今も見つかっていないというもの。もう一つは、


「恋の、キューピット?」


 うへぇ。


「そうさ。何でも、恋人が欲しいって相談をするとな、その人に見合う人間が居る所まで連れて行ってくれるらしいんだ」

「連れていく、だけですか」

「らしいなー、でも、それがきっかけで付き合いだした人間は、どれも嘘みたいに上手くいってるって話」


 はぁ。


「聞いた感じだと、実在する誰かに聞こえますが」

「あぁ、居るぞ?」


 噂は噂でも流行りの噂か。


「多分、探せばすぐに会えるんじゃないか?」

「この街で、ですか?」

「あぁ、アイガちゃんって子だ。可愛い女の子だぞー?」



「アイガだよー、おにーさん達も、恋人を探して欲しくて来たのー?」


 酒場の一角に、“アイガの恋人相談所♡”という紙が置いてある。酒場はがやがやと騒々しい、それに負けじと店員さんも声を張り上げている。


「いえ、俺は自分で探したい派なので」

「きょーみない」

「zzzzz……」

「……いえ、仕事があるので」

「誰か調査で来たって言いなさいよ」


 彼女が首を傾げる。


「変な事があったかどうかー? おにーさん達、たんてーさんか何かー?」

「俺は違うよ」

「私も違う」

「すぴー……」

「私も違いますね」

「誰か一言全員違うって言いなさいよ」


 藍鉄さんが聞く。


「んー、心当たりと言われても、私の所にはいっぱい人が来るし……」


 へぇ、意外と需要有るんだね。


「アイガちゃんは、何でそんな事してるの?」


 彼女は元気に答える。


「ん! 幸せそうなカップルを見るのが好きだから!」

「そっかー」

「おにーさんたちもどおー? あなたとかモテなさそうだしー」


 あははぶっとばすぞがきこら。


「自分の欲しいものは自分で手に入れたい主義だから」

「そうー? 過程とか関係なくないー?」

「そこら辺は諸説あるね。とにかく俺はそうなんだー」

「そっかー」


 残念そうに彼女は引いた。


「あ、そう言えば、この街に禍津鬼が居るらしいんだけど知らない? 人型が一人、なんだけど」


 この前この街の近くで助けた彼のことを聞く。先に街に行くと言っていたが、会えるだろうか。


「まがつき? まがつきがこの街に居るのー?」

「うん、えっと、とにかく顔が美形の青年でー……俺よりも先に、この街に来たはずなんだー。色んな人を見てるなら、見てないかなーって」

「あ、もしかしてミズキさん?」

「ミズキ……確かそんな名前だったような……」

「きっとそーだよ、この街に居る禍津鬼は、その人しか居ないもん」


 先日助けた、っていうかまぁ、討伐しかけたんだけど。


「その人、今どこに居るか知ってる?」



「よぉミズキ! 禍津鬼の討伐を専門とする騎士王隊の皆さまを連れてきてやったぞ!」


 ダッと逃げ出そうとしたミズキの襟首を掴む。

 彼が入ろうとした路地裏は暗く、狭く、けれど手入れは行き届いているようで汚さは感じられない。


「ちょっ、まだあなたに許されてないんですか私!」

「まぁまぁ、どうせマーカー持ってないんでしょ?」

「……マーカー?」

「俺は安全な禍津鬼だよっていう印。騎士王隊に発行してもらえる。でないと見敵必殺」

「え……」

「その反応……禍津鬼である事、隠してたな?」

「あ……はい」


 彼らを振り返る、一番ちょろそうな夜空ちゃんに、


「という訳です。マーカー的なやつください」

「くれ、と言われてもあげられないけど。私たち自身の目で、その人の安全性を確認しないと」

「だってさ。しゃーねー討伐すっか」

「気が早いわよ、ほら、そんなに怯えてないでこっちに来なさい、問答無用で斬りかかったりしないから」


 夜空ちゃんが彼の手首に何かを巻く、“要観察”……かな。


「詳しい話は後で聞く……にしても、概略くらいは聞きたいわね。何があったの? この人は?」

「忘れた」


 ミズキが俺を諦めた目で見て話し出す。


「私がその人たちに襲い掛かって……でも、純真さんが温情で助けてくれたんです。……純真さん、今日は居ないんですか?」

「今日は居ないねー。まぁでもそのうち会えるよ」

「そうですか、残念です……」


 お姉さまにぺしぺしとせがまれて、彼に近づく。


「やぁミズキ、先日ぶりだな。私たちには会えて嬉しいの一言も無しか?」

「え、あっ、も、もちろん嬉しいですよ!」


 お姉さまの言葉に彼が慌てる。雫もおずおずと、


「この前はあんまり仲良く出来なかったなーって後悔してたんだけど……私だけ、だったかな」

「もももちろん私もそう思ってました!」

「人の顔見るなり逃げ出すなんて無いよな」

「再会の喜びを吹き飛ばしたのはあなたですね」


 わちゃわちゃ。


「聞き捨てならない事が聞こえたんだけど……一回襲ったって?」

「あぁ……はい」


 ミズキが途端に肩を落とす、それ以上何も言わない。


「“枯鬼”って知ってます? 最初、見つけた時ミズキは飢餓状態だったんです。血をあげれば大人しくなったので、定期的に血を与えさえすれば無害かと」

「……そう。まぁまた後で聞くわ」


 良かったなミズキ、とりあえず見逃されたぞ。


「すみません、事件とは関係ない事に付き合ってもらって」

「いいわよ、友好的な禍津鬼の保護も仕事の内だもの」


 ミズキに振り返る。


「そうだミズキ、最近何か気になったことは無い?」

「気になった事? さっきの脅迫の衝撃が強すぎて記憶が……」

「全力で思い出せ」

「……あ、そうだ、変な服の人、珍しい格好をした人を見かけましたね」


 視線がお姉さまに集まる。


「そっちじゃないです。それもですけど」



「はやてさん! お久しぶりです!」

「久しぶり! 元気そうだねー」


 やってきたのは薬屋の中。大小さまざまな小瓶が並び、化学室みたいな独特な薬品の臭いがする。


「はい、薬屋さんに雇ってもらえたんです!」

「頭良さそうだもんねー」


 ミズキから特徴を聞いてピンと来た。この子はクロノ、彼女もこの街の近くで助けた子だ。もしかしたら顔が変わっているかもと思ったが、前見たのと同じ顔だった。薄汚れた研究服は、綺麗な薬師の服へ。

 と、奥の店主らしき人がニコニコとこちらを見ている、良くしてもらっているようだ。


「ありがとうございます! そちらはどうです?」

「元気元気、もらった旅道具もめちゃくちゃ助かった」

「それは良かったです! あ、しずくさんも! お久しぶりです! ろくに別れも告げず居なくなってすみません……」


 と、雫がニコリと笑い掛ける。


「別れる直前にクロノちゃんがふーくんに何したか知ってるよ」


 がき、とクロノの顔が固まる。


「あああれは違うんですよお礼に何かしなきゃって気持ちで別に彼に手を出そうとしたわけじゃ」

「ふーん。まぁ別にいいけどね」

「うぅ……あ、お礼で思い出しました」

 

 クロノが俺の顔を見る。


「一応、清潔なのを用意していますが、どうします?」

「ん? 何がー?」

「履いてる下着をくれって言ってたじゃないですか」


 場の空気が凍る。雫の視線はじりじりと熱い。じゃあ丁度いいね! そんな訳あるか。


「……あー、あはは、そんな事も言ったかもしれないね。でも大丈夫、あれは何かお礼がしたいならって話で、あの時は他に貰える物なんて無くて仕方なくって感じだったし、もう他に貰っちゃったからこれ以上貰う訳にもいかないし……ね!」

「そうですかー」


 ……恐る恐る隣を見る。


「そっちは初耳だなー」


 満面の笑みを浮かべた雫ちゃん。それを見ていると、あれ、心臓の鼓動が乱れて……おかしいな……これが恋って奴かな……冷汗が止まんないや……じゃあ恋じゃないわ。


「そ、そんな事よりこの街で何か気になる事は無かった? ちょっと今色々調べて回っててね!」

「気になる事、ですか? ……すみません、街に来てからというもの、知らない世界で生きるのに必死で、全てが新鮮に映って……だから、どれが気になるも無くて……」


 うん、上手くやっていけているようで良かった。


「そっか! じゃあ俺はこれで! あと“正義”が君を探してたから捕まらないようにねそれじゃ!」

「えぇ!?」


 口早に締めようとすると止められる。


「あ、待ってください! 一つ、伝えたい事が!」

「……伝えたい事?」


 振り向くと、クロノは少し躊躇った後、


「最初は……私自身の、残り香かと思ってたんです。でも、いつまで経っても消えなくて……嫌な気配……あの機械神の気配が、いつまで経っても薄まらない……ずっと感じるんです、この街で」


 彼女が言う。


「“欲叶者”が居るかもしれません」


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