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何処までも続け -幻想憧憬-  作者: 藍染クロム
1-0 .プロローグ
1/53

0.「おうさま」

「お願いがあります」


 ……久方ぶりに顔を見せたと思えば。

 広い謁見の間で、男はかしずき頭を俯かせて言う。


「……なんだ」

「しばらくの間、息子の面倒を見ていただけないでしょうか」


 ほう、貴様の息子の面倒を。この私が、か?


「断る」

「……」

「それで話は終わりか」


 それきり男は何も言わない。しかし動きもしない。何かを待つように、じっとそこに居る。がらんどうの巨大な空洞を静寂が支配する。


「……何か、理由があるなら言ってみろ」

「私には、救世の役目があります」


 ……世界を救う役目。いつもは胡乱な男が、今日ははっきりと物を言う。


「手放しで育つ息子なら良かったのですが……我が息子は、自分の身を顧みず無茶をする所がありまして。あいつもまた救世の役目を抱え、身に余る疲労を抱えたまま、今日も世界の為にと前進しております」


 ……ふん、蛙の子は蛙だな。


「世界の為にと一人異界の地に赴き、頼る人間もおらず、自分の面倒も見切れないままに身の丈以上の災難に飛び込む、齢十四のちっぽけな少年です。ですが……我が息子だから分かりましょう、その命は最早風前の灯火……このままでは、その命は風と消えていきましょう」

「……私に、何をしろと?」


 俯いたまま男は言う。


「あいつの無茶を止めて欲しい。そうまでしなくとも、ただ見ているだけでいいのです」

「そうか」

「どうか、私の願いを聞き届けては貰えないでしょうか」

「くだらん」


 頭を垂れたままの男にはっきり言ってやる。


「死にたい奴は勝手に死ねばいい」

「……」

「放っておけないのならその救世の役目とやらを取り上げろ。それでそやつは死なんのだろう。話はこれで終わりだ」


 彼はまたしばらく、頭を垂れたままでいた。やがて、口を開いて言うには、


「……それでは、私は失礼いたします。鍵は開けたままにしておきますので、使わなければ締めておいてください」


 彼が立ち上がり、そのまま去って行こうと、


「ま、待て、もう行くのか」


 目を逸らしたままの男の顔は、いつも通りの優しい、どこか悲しい感情を浮かべていて。


「私には、救世の役目がありますので」


 そう言って、去って行った。

 また、静かな、冷たい静寂が、私の小さな城を支配する。


 少しくらい、私と遊んでいけよ、ばか。


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