夏のクオリア
クオリアシリーズ 夏編その1です。
真夏の昼下がり、プールから帰った私のふやけたその身体に、夏蒲団がやさしく包み込む。
まどろむその意識の中で、蒲団がそっと触れるその瞬間に、この世のやさしさが詰まっていると思う。
その年はひどく暑い夏だった。照り付ける太陽と焼かれたアスファルトの匂い。
頬を滴る汗をぬぐい、ひたすら歩く。水泳で25メートルを泳げた試しはないけれど。
汗でへばりついた服を、剥ぐように脱ぐ。スチロール製の大きいすのこが、身体の重心が動く度にカタカタ云う。
人もまばらな更衣室の片隅で、服の下に水着を着ていてよかったなと思い、毎年その事実に妙に納得しながら
冬には忘れていることがほぼだけれど。
プールに入ると、ひたすら潜るのに徹するのが私のセオリーであり、なぜかと問われれば
単純に照り付けた太陽から水面に差し込む薄明光線が好きだからだ。
その折、ふと行きがけにアイスの自販機があったことを思い出す。
水との戯れもそこそこに切り上げ、着替えを済ませると、帰路につく。勿論自販機のアイスはソーダ味を買った。
行儀は悪いが、食べながら歩く。服に滴るのは致し方ない。
見慣れた家屋が目に入る。安堵の気持ちと、疲れがどこからかどっと湧いてくる。
そのまま、整然と並べられた靴を踏まぬよう、雑に靴を脱ぐ。
縁側にごろりと横になると、
気が付けば現実と夢の境目が曖昧模糊になってゆく。
ふっと夢か現か、夏蒲団の柔かい感触があった。
ふわっ、とふり。
これが幸せの感触なのかと、まどろみの中に思う、夏の昼下がりの出来事だった。
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