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その温もり  作者: 夢都
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リビング

ある日、習い事から帰ると両親とお兄さまが揃って、リビングで談笑していた。


家族がこの時間に揃うなんていつぶりだろう。お兄さまが大学を卒業して以来だろうか。3人共にそれぞれお忙しく、こうしてゆっくり寛ぐのも、今となっては珍しい光景だ。

私の一歩後ろにいた佳奈恵さんに、持っていたピアノのレッスンバックを渡し、3人の座っているソファーに近づく。

リビングにある大きなソファーはL字型に置いてあり、ちょうど両親の真後ろにいた私に気づいたのは、横側に座っていたお兄さまだった。


「おかえり、希夜華。習い事の帰り?お疲れさま」


和やかに笑うお兄さまはソファーから立ち上がり、私の腰に手を添えると自分の隣に座るよう誘導する。

お兄さまと私の喧嘩(私の一方的なものだけど)は、お父さまとお母さまの前にいる時は、一時休戦となるのは暗黙の了解であり、お兄さまも後でその時の事を蒸し返したりしない。

私が席についても、両親からは目を向けられることも声をかけられる事もない。


「ただいま帰りました」


一言、自らそう声をかけるも横目で一瞥されるだけで、何も言われない。横で私の手を握っているお兄さまが、その様子に一瞬だけ眉間に皺を寄せた。

暫くはお兄さまが両親とお話したり、私とお話したりして、時間は過ぎていった。その間、お兄さまの手は私の手を握ったままだった。


「希夜華」


ふいにお父さまの無機質な声が私を呼ぶ。顔はやはり、こちらに向けてはくれない。お母さまはお父さまの横で私を通り越してお兄さまを見つめていた。

思わず肩が揺れる私に気づいたお兄さまが、握っていた手を少しだけ強く握った。

チラリと握られている私たちの手を見たお父さまが、徐に息を吐いた。


「お前のアレは未だ治ってないのか?」

「お父さまっ!!」


まるで責めているようなその言い方に、私の代わりに普段は穏やかなお兄さまが声を荒げた。無意識だろう。私の手を痛いほど握りしめて。

そっと、反対の手で私の手を握っているお兄さまの手に触れる。幼い時から唯一、私を安心させてくれる温かい手。あの頃より大きくなったその手は、いつだって私を守ってくれる。


「周りには誰にもバレていません」

「当たり前だ。そういう事を聞きたいんじゃない。ただでさえ役立たずなんだ。わかっているんだろうな」


分かっている。お兄さまに比べ、私は不出来な妹だった。見た目でさえ、望まれる形ではなかった。お兄さまような黒い髪に生まれたかった。お兄さまのような真っ直ぐな髪に生まれたかった。お兄さまのような綺麗な黒い瞳が羨ましい。何より、女性の平均より低い自分の身長はもっと嫌だった。最初から期待など、されてはいなかった。

みんなより少し勉強ができたからって、みんなより少し運動できたって、みんなより少し手先が器用でも、到底お兄さまには敵わない。そんな私が凛城家で役に立てるのは唯一、凛城家が縁を結びたい相手と結婚すること。それなのに、私のアレのせいで、それもままならない。


「もう遅いですし、僕は部屋に戻ります。希夜華も習い事で疲れたようなので、僕が部屋まで連れて行きますね。おやすみなさい」


私がお父さまに返事するより早く、お兄さまが立ち上がり、やや強引にそう述べると私の手を引っ張りリビングから出て行く。その様子に私も口を出せずに、去り際に両親に頭を下げることしかできなかった。

そんな私たちにお父さまはどこまでも無関心で、一瞬だけ見たお母さまの顔は、とても不快そうで最後まで背中に視線が刺さっている気がした。





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