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その温もり  作者: 夢都
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表と裏

あれから直ぐに、ぽつぽつと生徒が登校してきたので、騒ぎになる前に3人はそれぞれ自分の教室へ去っていった。

結局、彼らは最後まで私に挨拶することも視線を向けてくれることもないままだった。東堂さまはともかく、奈月さまは態とだろう。相変わらずお人が悪い。


「それで凛城さまは、その、お勉強会とやらに参加するおつもりで...?」


昼休みに、学園のいくつかある中庭の一つを散歩していると、隣で朝の出来事を聞いていた舞衣が珍しく眉間に皺をよせた。


「いいえ。その気はないわ。あまり話したことのない方たちとお勉強会に参加しても、気まずい上に、私だけ除け者になりそうで怖いもの」


当然よ、とにっこり笑って見せる。大体にして、野々宮さまとその周りに勉強を教えるなんて冗談じゃない。パーティの参加資格のこともあるし、敵に塩を送るなんて、そんな愚かしい行為をするほど馬鹿ではないわ。


私の返答に安心したように笑った舞衣は、


「あ。でも、そのお勉強会には、東堂さまと奈月さまは参加されないんでしょうか?」


と、いかにも今気づきましたという顔をして言った。それが何となく白々しく感じられて、その質問の意図は何か、それとなく様子を探ってみるが、それ以上の情報は出てきそうになかった。


「参加されないそうよ。それに、お二人が参加されるなら、そもそも勉強を教えてもらいたいからと、私を誘う思考回路にはならないと思うわ。私より、お二人の方が頭がよろしいから、東堂さまと奈月さまに教えて貰えればそれで十分じゃないかしら?」


彼らが参加するなら、誘いにのることも悪くないなと考えたが、今朝の様子を見る限りでは、参加する気配は特にしなかった。


「そうなんですね...」


少し残念そうに舞衣が呟く。

今の様子で何となく察する。大方、彼らが参加するなら、私をダシに自分も勉強会に参加するつもりだったのだろう。そうでなくても、私から彼らの情報は貰える。なかなか強かに生きているようで、私は嫌いではないわ。

でも、決して面白くはない。

何も反応せずに、ただ黙って微笑むだけの私に何かを察したのか、


「でも、私も野々宮さまが言われたように、機会があれば凛城さまに、ぜひお勉強を教わりたいものです」


と、声をワントーン高くあげて、急に私をおだてはじめる。

彼女の美点は、美百合もだけど今までの取り巻きたちと違い、空気が読めるということ。何より頭の回転が早く賢い。


「あら?あなたにだったらいつだって教えてあげるわよ。そうね...。早速、今日の放課後にでもどうかしら?」


そんなわかりやすい彼女のおだてに気づかないふりをして、わざとらしくにっこり笑ってみる。舞衣は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに笑みを深くした。


「ありがとうございます!でも、残念なことに今日は予定があって...。また、次の機会にぜひお願いしたいです」


華麗にスルーされてしまう。予定があるなんて、きっと嘘だろうし、何ならこのまま、この話を流す気だろう。


「そう?いつでも大歓迎だから、その時は遠慮なく声をかけてちょうだい」


お互いお世辞だと理解してしている。それが分かるから、引き際もあっさりしたもので、私も彼女も仮面は分厚い。

でも、最近の舞衣は、どうもその分厚い仮面が外れかけている節があった。それではいけないわ。これでも私は、あなたとこれからも一緒に仲良くしたいと思っているのよ。どちらが先に裏切られるのか、とても楽しみにしているのだから。

機嫌よく笑う私に元気よく「はい!」と、返事をした舞衣は、つられたようにニコニコと嬉しそうに笑っていた。


中庭を一周した私たちは、そのまま自分たちの教室へと帰る。教室に着くと丁度、昼休みの終わりのチャイムが鳴った。

前方の席を何となしに見れば、美百合は既に自分の座席に着席していて、次の授業の準備をしていた。彼女は、必要がある時以外は私に近づかない。私や舞衣以外にも仲の良い友人もいるみたいだが、それでも彼女は気づくといつも一人でいる。

美百合とは、高等科に上がってから初めて話すようになったので、たった2,3か月くらいの仲でしかないけれど、それでも何となく連むのはあまり好きではないということは、すぐに分かった。

だからか、表向きは人懐こい舞衣も必要以上に美百合に絡みにはいかない。それでも、案外舞衣は美百合に本心から懐いているように見える。彼女たちは、初等科のころから仲が良かったと人伝に聞いた。

もしかしたら、舞衣は美百合を守るために私に近付いたのかしらね。あの子、意外と情に脆そうだもの。

美百合は、傍目には分からないがとても危うい存在だ。芯がしっかりしているように見えて、意外と傷つきやすく、とても繊細だ。なぜ、今まで無事でいられたのか不思議なほどに。

どれだけ、舞衣に助けられてきたのかしら。それを無自覚にしているのだから、美百合の鈍感さは筋金入りだわ。情に脆そうな舞衣の性格が捻くれるのもよく分かる。


美百合、あなたはいつまで純粋でいられる?

その、いっそ狂っているほどの純粋さはどこまで育つ?


それまで、私と舞衣が大切に丁寧に、あなたを守ってあげるわ。そうすれば、きっと、面白いものが見れそうだもの。

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