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その温もり  作者: 夢都
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廊下

寝不足のせいで、朝から頭痛が酷い。いつもなら気にならない周囲の笑い声さえ、妙に耳に響いてイライラして、唇を強く噛んでしまう。そんな明らかに機嫌の悪い私に、ビクビクと怯えながら、休むように言う周りのその態度にも、更に苛ついてしまう。このままでは勉学にも支障をきたしてしまう。気は進まないけれど、言われた通りにひとまず保健室で休んだ方が良いのだろう。教室を出て行く背中越しに、周囲の安心した空気が流れたのを何となく察した。


廊下を足早に歩きながら、私が保健室で休むと言うとあからさまにホッとしていた周りを思い出して、また更に頭痛が酷くなった気がした。あれは、心配していたから安堵したのではなく、確実に私がいなくなることに安堵していた。


「凛城?」


ふと、後ろから凛とした声で名前を呼ばれる。振り返ると、怪訝そうにこちらを伺う東堂さまが立っていた。それとなく彼の周りを確認してみると、珍しくお一人のようでさっきまでの気分が少しだけ上がる。いつもなら、周りに誰かしらいるのに。廊下とはいえ、2人きりなんだといざ思い出すと、何だか少し緊張した。


「ごきげんよう。東堂さまから声をかけてくださるなんて、珍しいですね」


ズキズキと未だに痛む頭を無視して、無理矢理顔に笑みを貼り付ける。その途端、彼の先ほどまでの怪訝な顔が一気に無表情に変わった。いつもの私に向けるその表情は、一気に私たちの間に強固な壁を作り上げる。あの怪訝な顔だって、普段は私に見せることはない表情だった。それだけ先程の私は彼から見ても様子がおかしかったのだろう。私を見つめて何か少し考えた後、彼が徐に口を開く。


「雪音を見なかったか?」


その言葉を聞いた瞬間、何とかまわっていた思考が一気に頭痛に飲み込まれそうになったのが分かった。視界がグラグラと揺れる。足元がおぼつかない。それでも、この人の前で醜態なんて晒せないから、慌てて腹にグッと力を入れて立つ。

なんて残酷な人だろう。彼女の名前をどこの誰からでも聞くことさえ嫌なのに、ましてや貴方の口から聞かされるなんて。


「さぁ?私は見ていません」


ちゃんと私は笑えているだろうか。

ちゃんと私は立っているだろうか。


先ほどから頭の中がズキンズキンと響いている。目だってグワングワンして視界が歪んでいる。今、自分がちゃんと立っているのかさえ分からない。それでも手に爪を立てて、しゃがみ込みたくなるのを必死に堪える。

彼は暫く私を見つめると、仕方ないと言うように被りを振って、


「そうか。ならいい」


と、あっさりそれだけ言い残して、彼はどこかへ足早で歩いて行った。

あの人は、私が彼女を嫌がらせをしていた主犯だなんて考えもしない。だからこんな簡単に、何の含みもなく、彼女の居場所を私に聞ける。

この気軽さのたびに思う。東堂さまは随分と鈍感で残酷だ。私が関与してないものもあるが、大抵は私が主導していた。彼女への数々の嫌がらせを別個に考えて、それぞれ解決してるつもりなんだから本当に甘い。学園の2トップである東堂さまと奈月さまは、彼女の最大の味方であり抑止力だ。彼女を彼らから見てくだらない理由で傷つけた場合は、どんな報復が待っているか分からない。それにも関わらず、嫌がらせが終わらないなら気づくべきだ。裏に誰かがいると。それだけ執念深く人を憎めるということを、悪意を持てるということを彼は知らない。それに加えて、彼女以外の他人には全く興味などないから、そういった感情に疎いのだ。だから、悪意(わたし)になんて気づけない。


みんな証拠は無くても薄々気づいてるのに。彼らに歯向かえるなんて学園でも私だけなんだし。たくさんの子を切り捨ててきた。でも、少し反論させてもらえるなら、私はちょっと背中を押してあげただけ。私を理由にして彼女を実際に傷つけたのは彼女たち。それを選んだのも彼女たち。それなのに、なぜ私が助けてくれると思うのか不思議でしょうがなかった。この学園で気づいていない人なんて、東堂さまと彼女だけ。奈月さまは気づいているだろうけど、きっと彼は動かない。私を悪者にすことで、彼らとつるむ彼女に悪意をむける子がいなくなるんだから。寧ろ、可哀想と上辺だけの同情を浮かべた味方が増える。彼はそうやって私を利用している。だから、奈月さまは決して私を止めない。そのせいで私が孤立していると分かっていても、彼女への行為を私は辞めない。


先ほどより酷くなった頭痛に足はおぼつかない。それでも、仮眠をとろうと保健室へ向かう。やっぱり、野々宮 雪音なんか大嫌いだと思いながら。


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