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その温もり  作者: 夢都
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不明瞭

それから、楽器店で何となく楽譜を見ながら過ごしていると、時間はあっという間に経って運転手がすぐに迎えにきた。


「おかえりなさいませ。今日は、楽しかったですか?」


家に帰ると、佳奈恵さんが笑顔で出迎えてくれた。その少し口調が砕けているのと、表情が柔らかいところから、今、両親はいないのだと分かった。


「まあまあよ」


そう一言だけ返して、バックとコートを佳奈恵さんに渡して、さっさと部屋へ歩く。「そうですか」と、小さく呟いた佳奈恵さんは、後ろを黙って付いて歩く。


「お父様たちは、今日遅いのかしら?」


「大事な会食にお呼ばれしたそうで、遅くなると聞きました。遥陽さまもご一緒だそうです。遥陽さまが、希夜華さまを一人にさせて申し訳ないと。何でも好きな物を頼んで食べてるといいと、カードをお預かりしましたが、いかがなさいますか?」


「...別に家にあるものでいいわ。それに、あまり食欲がないから、適当につまめるものでも部屋に持ってきてちょうだい。...お兄さまには佳奈恵さんが適当に言っておいて」


「ですが...いえ、分かりました」


何か言いたそうする佳奈恵さんを睨んで黙らせると、彼女は困ったように笑いながら部屋を出ていった。最近、佳奈恵さんには、そんな表情ばかりさせてしまっている。

 あの後、東堂さまは結局、個展に来たのだろうか。会えなくて残念だったけれど、今日は会わなくて良かったのかもしれない。あの咲夜という男、画家らしく鋭い観察眼を持っていて、東堂さまが気にいるのも分かるけれど...


「壊れてるか」


別に不思議なことじゃない。隠していることでもない。でも、だからって表に出してるわけでもない。ああ、でも東堂さまにも指摘されたことがある。咲夜みたいに棘も疑問もなく、妙に確信めいた言葉で包もうとしてくれた。


『凛城、もっと自分を褒めてやれ。大切にしろとまで言わない。その方法を、知らないだろうからな。教えたところで、今の凛城には理解はできても難しいだろう。だから、凛城。お前はお前を大切だと言ってくれる人の言葉を信じろ。それで、ちょっとだけ自分を労われ。それだけでも、世界は広がる。まだ、諦めるなよ』


『何を、言っているのかわかりません。私は、何も諦めていませんわ』


そう答えると、東堂さまは口角を少しだけ上げて、それは穏やかに「それなら良い」と笑った。あの時の優しい笑みと声が忘れられない。今でも、東堂さまの言っている意味はよく分からない。でも、何となく、暖かかった。あの瞬間、私は彼がほしいと思った。これはちゃんと私の意思で、誰かに言われたからとかじゃない。


「私は、まだ諦めてない...何も」


胸の辺りをギュッと強く掴んで呟く。遠くで、誰かが泣いてる声が聞こえた気がした。

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