憤慨 side水野 紫織
私には、幼い頃からとても仲の良い友人がいた。その子は、とても可愛らしくて、優しくて、お姫様みたいな子で、周りにはいつも沢山の人が集まった。その中でも、自分が1番その子と親しいと思っていた私は、なんとなく優越感を覚えていた。それは、今はもう勘違いだったって分かってしまったけれど。
チラリと、後ろの少女を見る。背が小さくて、全体的に色素の薄い彼女は、口元を綻ばせて私たちの後ろを黙って着いてくる。でも、よく見ればその瞳の奥が全く笑っていないことは一目瞭然だった。一見、隠しているようで隠していない不満は、私の隣を歩く男に注がれている。
「お前、何であんなろくな噂がないような奴と親しくなったわけ?」
視線を隣の男に移す。先程まで彼女に対して悪ぶっていた姿は嘘のように、眉間に皺を寄せながら、とても低い小さな声で呟いた。
「別に、親しいというわけじゃないわ。ただ、恩があるの。勘違いしてた恥ずかしい私を、気づかせてくれた恩」
男が、意味不明だと怪訝な顔をして此方をじっと見つめる。私の言葉の真意を探るように。
「ふふ。晴人には分からないわ。勿論、教えてもあげない。私は、凛城さまに信頼されたいから。それに、あなたが聞いたという噂ほど、凛城さまは悪い方ではない気がするの」
そう言うと、晴人は「ふん」と鼻だけ鳴らして後ろを振り向いた。自然と、私も凛城さまも足を止める。
「これは、『白い花の願い』という絵で、題名のとおり白い花と星を描いてます。作者である僕が解説しても良いけど、そんなの面白くないし、そもそも芸術と言えない。凛城さんは、この絵、どう思う?」
彼は、一枚の絵に視線を誘導させると、黙ってその絵を見た凛城さまに問いかけた。それは、まるで何かを試しているようだった。
「...別に、儚くて美しい絵、だと思います」
凛城さまは、ポツリとそう零された。その答えに、私は首を傾げる。儚い?この絵が?寧ろ、凛と咲く一輪の白い花と、周りで輝く星の絵は、華やかであって、儚いとは対照的なような気がする。
「儚い?この絵を見て、そういう感想を持つなんて珍しいね」
晴人は、腕を組むと興味深げに笑った。私は、凛城さまにそんな態度をとる彼に少し焦る。でも、そんな焦りなんて必要ないと言うように、彼女は諦めたようにため息を一つついただけだった。
「珍しいかどうかなんて、そんなこと知りませんけれど、ただ、星も白い花もどちらも目立つのに、この絵は変にまとまりがあって美しいから。どちらの輝きが弱くなっても強くなっても、ただの平凡な星と花に成り下がる気がしました。そんなのいつ壊れてもおかしくないと思うから、だから、儚い、とそう思っただけです」
凛城さまは、一息にそう話し終えると、恥ずかしそうに視線を晴人から外した。
「ふーーん。僕、そこまで考えてないけど、ただ、願っている白い花自身も、願いである星もどちらも輝いてないと、叶えられるものも叶えられないと、そう思っただけなんだよね。うん、なんでしおりんが君に懐いてるのか何となく分かったよ。そして、なんでしおりんが君を心配してるのか。凛城さん、君、いつか壊れるよ。てか、壊れかかってる?」
「ちょっと!!!!何を言っているの!!!?!いくらなんでも酷いわ!!!もういい!!凛城さま、帰りましょう!ここに来た目的も、こんな奴の絵を見るためでは始めからないですし!またの機会を、私が作ります!絶対!!!だから、帰りましょう!!いいですよね!?」
晴人が、私を心配して守ろうとしてくれるのは分かったから、凛城さまと話せば分かってくれると思った私が馬鹿だった。晴人の言葉に動揺して、目を揺らした凛城さまの手を慌てて握って、攫うように出口へ向かう。後ろで驚いたように、息をつめる気配がした。この時、凛城さまが何を思ったのか、家に帰ってから少し冷静になった私は、頭を抱えこむのだった。




