無礼な男
「あの方ですよ。画家の咲夜さん」
そう耳元で囁かれて、水野さまの視線の先を辿れば、何人かに囲まれた隙間から少しだけ男性の顔が見えた。どうやら、あの人が今回の個展を開いた咲夜という画家らしい。
「私たちもあいさつに行きましょうか」
そう言った水野さまの後ろをついて、彼の元へ向かう。近づくと丁度よく咲夜さまを囲んでいた人が途切れて、すかさず水野さまが声をかける。
「咲夜さま。ご招待して頂きありがとうございます。こちらもし宜しかったらどうぞ」
「ああ。しおりんじゃん。これはこれはわざわざどうも」
先程までは紳士的な笑みを浮かべていた彼は、水野さまを見るなり、一気に軽薄そうな空気に変わった。そして、とてもわざとらしく、大袈裟に頭を下げながら、フラワーアレンジメントを受けとる。思っていたより若い。水野さまへの親しげな様子を見ると、わたし達と同年代だろうか。
「...紹介しますね。こちら、お友達の凛城 希夜華さまです」
その様子に水野さまは一瞬だけ眉をピクっと動かすと、彼女にしては珍しい無表情で淡々と私を彼に紹介した。
「初めまして。凛城 希夜華です」
「ああ。あの...噂は聞いてるよ。僕なんかの絵で君を満足させれるか不安だけれど、楽しんでくれることを祈るよ」
「ちょっっ!!!」
噂とは何か。大方良い噂ではないのは、なんとなく想像はつくけれど、それにしても失礼な男。芸術科ぽいといえばそれまでだけれど、人間として終わっている。水野さまが慌てて、彼にコソコソと(ぜんぜん隠れられていないけれど)注意しているのを傍目に、ニッコリと微笑む。
「あら。そんなに自信がなくては、とてもじゃないけれど、誰も咲夜さんの絵に振り返ることなんてないですよ。謙遜なんて似合わないですわ」
「り、凛城さまぁ...」
私と彼の間で、見えない火花が散った。その様子に、水野さまが涙目になって震えている。そんな彼女がなんとなく可哀想な気がして、大丈夫よと伝えるために、彼女の手に一瞬だけ触れる。
「ふん。何が目的か、なんとなく分かるけど、まぁ、しおりんに免じて何も言わないでおくよ。ちょうど、挨拶とかひと通り終わったし、僕が直接案内してあげる」
本当に無礼。私だって、水野さまがいなかったら、さっさと帰ってる。彼はさりげなく、水野さまの手を引いて、自分の近くに寄せるると、直ぐに背中を見せ、ろくに説明もせずに歩き出した。
「ちょっ、凛城さま、行きましょう?」
水野さまが手を引かれながら、振り向いて私に笑いかけた。私はひとつ、息を吐くとその後に続いた。




