違和感
白銀真響さまは、楸瑛学園3年の生徒会長であり、国内外に多くのホテルを展開するシロガネ・ホーリディングの一人娘であり、中学生の頃まで海外を転々としていたと聞いたことがある。
「私は、それでも火のないところには煙は立たないと考えます」
彼女は、噂や情報だけでは他人の性格は分からないと仰ったけれど、それでも噂が情報として扱われる事があるのは、中には真実が多少なりとも含まれている事があるからだ。
「確かにあなたの言うとおりだと思うわ。でも、あなたのいろいろを篩にかける暇も興味も無かったのよ」
そう言って彼女は、「ごめんなさいね?」と明け透けもなく笑った。
「随分とはっきり仰るのですね。そのようなお話をなさる為に、わざわざ私に声を掛けたのですか?」
あまりの言われようように、少し険が強くなってしまう。
「あれ?そうだった?言葉を選んで話したつもりだったのだけれど。これでも、随分とめんど...じゃなくて、遠回しに伝えれるようになった筈なのよ?」
彼女は、それはそれは驚いたように目を見開くと、腕を組んで「おかしいなぁー」と口を少しだけ膨らませた。その様子に何となく察してしまった。
「......。それで、私に何かご用件があってお声をかけたのでは?」
「え?ないわよ。そんなもの。まぁ、強いて言うなら、可愛い子がいたからお話して見たいと思って?」
彼女は不思議そうに首をコテンと傾げた。それで確信する。この方とは、一生分かり合えないと。長い溜息を吐きそうになって、慌てて口をつぐむ。
「可愛い子ですか?」
何だ。その女の子を口説くような軟派なセリフは。眉間に皺が寄る。
「あら?自分では気づいていないの?あなた、とっても可愛いわよ!」
ぐっと拳に力を入れて念を押すように言われるけれど、そういう事ではない。自分の見目が良いことは、知っているし分かっている。ただ、私が自分の容姿を好んでいないだけで。
「それに、すっごい私のタイプなのよね!もうドストライクなのよ!!そのふわふわの髪も、ちょっと垂れ目がちなぱっちりとした丸い大きな眼も!全体的に色素が薄いところも!!あとあと、華奢で小さくて儚い雰囲気もそそられるわ!あ、でもちょっと細すぎて心配になるわ。あなた、ちゃんと食事は取っているの?でも、こればっかりは体質もあるだろうし難しいわね。あ!勿論、今の貴方でもすんごいすごーい可愛いから、そこは安心して頂戴!!」
そこからは、一気に捲し立てるように言われ、そんな彼女の頬は紅潮に染まり、瞳を爛々と輝かせていた。私からしてみれば、彼女自身も充分美しい人であり、また、とても変わっているとしか言いようがない人なのは分かった。思わず一歩足を引いたところで、ヒールの音が小さくカツンと鳴る。
「あ!一応言っておくけれど、可愛い子がいくら好きと言っても、同性は恋愛対象じゃないわ。でも、正直あなたとなら恋愛できそう!いえ!できるわ!!あら?でもちょっと待って?あなたの相手が私で本当にいいのかしら?もっとお似合いの方が絶対にいる筈だわ!誰かいるかしら?あら?でも、希夜華ちゃんは東堂さまがお好きなのよね?えー?ちょっと解釈不一致だわー!でも!でも!希夜華ちゃんには幸せになってほしい!!でも、でもー...」
何か、1人で百面相しながらぶつぶつと呟き始めた。この人が、あの白銀真響さま?この姿を見て、彼女が憧れだと話していた水野さまはどう思うのだろう。それでも好きと言うのだろうか。分からないけれど、この場に水野さまが居なくて良かったわ、と少しだけ思う。と言うか、いつの間に名前でしかもちゃん付けで呼ばれているのか。この感じ、少し美百合に似ているかも知れない。こんなに明け透けではないし、馴れ馴れしくもないけれど。
「......取り敢えず、私を好いてくださっていることは、とても伝わりました。えぇと...、ありがとう、ございます...?」
未だに1人でぶつぶつと何か呟いている真響さまを見上げて、一応、お礼を伝える。気分は複雑だけれども。そんな私を見て、一瞬だけ真顔になった彼女は、次の瞬間「きゃー!何その上目遣い!?可愛すぎだわ!!何なの?何なの?私を殺す気ですの?は!でも、まだ死ねないわ!!もっと希夜華ちゃんを堪能したいわ!!気をしっかり保つのよ!私!!」と、最後にはその美しい顔を無駄にキリッとさせて、何かを決意していた。
「真響さま。少々、宜しいですか?」
その時、真響さまの後ろから声が掛かる。いつのまにか、至近距離にいた真響さまに被り、姿がよく見えない。
「あら?何かしら?えぇ、そう。はぁ、分かりました。しょうがないですわね。ちっ、あいつ、折角の時間を邪魔してやがって...後悔させてやります...」
その声に振り返って、何やら話していたかと思ったら、最後の方にボソッと少し物騒な言葉が聞こえる。
「じゃあ、残念だけれどまた後でね!希夜華ちゃん!」
私には、パッと明るい笑顔で別れを告げた彼女は、私の返事を聞く事もなく、颯爽と声をかけてきた給仕の方と何処かへ去っていった。
結局、最後まであの勢いにはぐらかされてしまった。何がしたかったのだろう。本当に私と話をしたかっただけ?それだったら、なぜあんな無駄に人を警戒させるような事を、最初に仰ったのかしら。考えても答えが出そうになかった。私は、考えることを諦め、頭を小さく振り一度リセットすると、今の出来事は一旦忘れることにした。




