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その温もり  作者: 夢都
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パーティー

彼女は来るかしら。

手のひらに頭痛薬をふた粒出し、ペットボトルに入った水で飲み込む。鏡に映る自分の眼の下には、よく見ると化粧で隠しきれなかった隈が薄らと存在を主張していた。

パーティーの会場はとても明るい照明で照らされていて華やかなはずだ。みんな気分も上がり浮かれ気味になるだろうし、誰も人の顔なんて特に興味もなく、きっとこの隈なんて気づかれないだろう。


「♪♫ ♪ 〜」


スマホの画面に映ったメッセージに思わず笑みが溢れた。果実が実るかもしれない。久しぶりに胸が躍る。慌てて携帯をバックに入れて、部屋を出る。外に出ると、既に運転手と車が待機していた。恭しく頭を下げて、後部座席の扉を開けてくれるのを横目に、素早く乗り込む。


「紫織!!?」


会場で受付を受けていると、とても驚いた様子で慌ててこちらに駆け寄ってくるのは、野々宮さまとその友人らしき人物。


「ごきげんよう。野々宮さま」

「あ、ごきげんよう、凛城さま」

「...ごきげんよう」


戸惑いを隠せないままに挨拶を返してくれる野々宮さまと、怪訝な表情を隠そうともしない彼女。隣にいる水野さまは黙って成り行きを見守るつもりらしい。


「凛城さまが紫織を招待したんですか?」


恐る恐るというように聞いてくる野々宮さま。その顔には「どうして」と書いている。


「ええ。以前、水野さまに落とし物を拾っていただいて、それから何かと話すようになりましたの」


そうでしょう?と同意を求めるように、隣にいた水野さまに笑いかける。すると、彼女は静かに微笑みながら、小さくうなづいた。


「それより、そろそろ会場に入りませんか?雪音たちは、受付まだでしょう?」


水野さまが、視線を野々宮さまたちの後方に目をやる。つられたようにそこを見ると、受付に並ぶ列が見えた。それを見た彼女たちは、慌てたように「また後で」と言うと、受付に並んだ。


「野々宮さまと一緒にいた子って...」


誰かしら?と呟くと、「園田 はなと言います。」と、これまた聞こえるか聞こえないかの声で答えられた。その声の主を横目で見ると、少しだけ表情が暗い気がした。私の話にのったのはいいけれど、今になって後悔でもしているのだろうか。

このパーティーの主催者である白銀 真響さまに水野さまと共に挨拶を済ませ、何事もなくパーティが始まる。


「あんなに近くで白銀さまに会えるなんて...。しかも、お話しするなんて夢みたいです...」


先ほどどこか暗かった表情とは打って変わり、頬を薄らと紅色に染めながら目を輝かせる水野さまは、どうやら白銀さまのファンらしい。もしかしなくても、パーティでの人脈づくりというより、白銀さまに釣られたのかしら。この子。


「あなたがそんなに興奮するなんて...。よっぽどお好きなんですね」

「はい!!!」


満面の笑顔を向けられ、驚いて思わず彼女をジッと見つめてしまう。それでも気づかずにニコニコと笑う彼女は、機嫌良さそうに先程貰ったらノンアルコールのカクテルに口をつける。


「あれ?希夜華じゃないか。お久しぶりだねぇ」


下卑た声に思わず眉を顰める。振り返れば、そこにいたのは、やけに顔色の悪い細い長い男だった。一瞬、誰だったかわからなくて困惑する。


「お久しぶりですね。...瀬尾さま」


瀬尾 昭。華道の瀬尾流、次期家元で、凛城家のお得意先である瀬尾家の長男の彼とは、5歳の頃からの顔馴染みだ。幼なじみなんて認めたくない。それに、こうして顔を合わせるのも学年が違うと言うこともあり、本当に久しぶりだ。


「ふん。相変わらず生意気だな」


私が苗字で呼んだのがよほど気に障ったらしい。隣にいる水野さまが、明らかに不愉快そうに彼を見ているのも要因の一つかも知れない。どちらも少しは取り繕えないのか。仮にも楸瑛学園の生徒なのだから。


「紹介しますね。こちら、私の友人の水野 詩織さまです。こちらは、凛城家と仲良くしていただいてる瀬尾家の昭さまです」


私は2人の不機嫌な空気に気づかないふりをして紹介する。それに対して、2人はお互いに頭を少し下げただけで、「よろしく」の一言もない。呆れる。


「君、幼なじみ同士がひさびさに話すんだ。気を遣って、この場を離れろ」


あまりに失礼なうえに突然すぎる発言に、彼女は眉を顰めて「お断りします」と一刀両断する。さすがだ。しかし、それは少しまずい。この人をこれ以上、不機嫌にさせると後々面倒なのだ。正直、この人と2人になりたくないけれど。


「ごめんなさい、水野さま。少し、瀬尾さまと2人にしてくれる?しばらく一人にしてしまうけれど、すぐに行くから」


水野さまが驚いたように「でも...」と食い下がる。「この人嫌な感じしますけど、大丈夫なんですか?」と、こっそり耳打ちまでしてくれる。まだ知り合って間もないのに、ここまで心配してくれるとは、なんていうかお人好しすぎる。それでも無理矢理「大丈夫」と言って、彼女の肩を軽く押すと、渋々この場を離れてくれた。最後に、ついでに彼を軽く睨んでいくのも忘れない彼女は一貫している。慌てて彼の視線を遮るように立ち、彼女の背に向かって、にこやかに見えるように笑いながら軽く手を振る。

彼女が人混みに紛れたのを見送り彼に向き直れば、またあの下卑た笑い方をしてこちらを見下していた。


ああ、本当に嫌だわ...。


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