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その温もり  作者: 夢都
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雫先生

楸瑛学園初等科5年生の時、初めて奈月さまと同じクラスになった。担任は、教師になって初めてクラスを受け持つことになった新人の若い女の先生だった。名前は、三原 雫。

身長は少し低めで、そばかすが散った丸い顔に申し訳程度に目と鼻、口があるような素朴な、だけどふんわりとした優しそうな顔をした女性だった。物腰も穏やかでおっとりとした彼女は、普通だったら生徒からとても慕われる先生になれただろう。

ただ一つ、彼女にとって不運だったことは、私たちのクラスに1人だけ問題児がいたこと。我が儘で、何でも自分が一番でないと気が済まない癇癪持ちのそんな女の子。もう名前なんて忘れてしまったけれど、あの時起きたことはよく覚えている。そして、質の悪いことに、その子はこの学園でもそれなりの名家のお嬢さまで、別に頭は悪くはなかったから、ちゃんと人を見て態度を変えるような子だった。そして雫先生は、その子に舐めらてしまった。

きっかけは何だったかよく覚えていないけれど、その子がとても奈月さまにご執心されていたことが要因だろう。その子は、奈月さまの隣の席になりたい、グループは奈月さまと一緒が良いとよく癇癪を起こしては、常に奈月さまにべったりとひっついていた。そして、自分は何もしないくせに、少しでも不満があれば、周りに口うるさく、我が儘ばかり言う子だった。

私含めて、周りの子はみんなその子に呆れていた。そして、雫先生はそんな子たちから度々相談されているようだった。最終的に彼女が動こうと後押しになったのは、今まで何も言わずに微笑んでいただけの奈月さまに相談されからだろう。

それからの雫先生は、私から見てもとても良く頑張っていたと思う。根気強くあの我が儘娘に付き合い、注意し、奈月さまから何とか離そうと、他の子たちと仲良くできるように、優しくあの子を諭していた。なかなかできる事ではないだろう。

しかし、あの子は雫先生が思っているよりずっと我が儘で悪質で底意地が悪く、強かだった。先生より先輩で力のある先生方を味方につけ、親の権力をこれでもかと使い、何とか踏ん張っていた雫先生も徐々に追い詰められていった。

ある日の放課後、忘れ物をしてしまい教室に戻った時だった。人気のない廊下の端っこで奈月さまらしき後ろ姿と、必死に彼に頭を下げている雫先生を見かけた。

とっさに柱の影に隠れて、思わず聞き耳を立ててしまう。夕陽がさした廊下にたたずむ2人は、そこだけスポットライトが当たったかのように鮮明だった。

少しだけ遠く、何を話しているか聞き取りにくかったけれど、大体の内容を知るには充分な距離だった。私はそこで、雫先生が奈月さまを犠牲にして、見捨てようとしてる事を知った。

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