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その温もり  作者: 夢都
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試験結果

信じられなかった。何かと間違いではないかと目を疑って、何度も瞬きしてもその結果は変わらなかった。


「凛城さま...」


隣で舞衣が心配そうに呟くのが聞こえた。


「凄い!雪音さん、4位ですわよ!これも勉強を頑張ったおかげですわね!」


遠くからはしゃいだ声が響いてきた。いつもだったら気にしない名前は、今回に限ってはとても耳障りだった。声のした方へ、体ごと視線を向ける。その先で恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに笑う彼女がいた。

私の視線の先に気づいた舞衣が、悔しそうに唇を噛んだ。


「凛城さま...、それでも7位ですもの。十分、凄いですわ」


それまで黙って見守っていた美百合が、珍しく慰めの言葉をかけてくれる。しかし、その言葉は何の意味もなさない。

情けなかった。あの日のお兄さまの言葉が、ずっと頭を離れなかった。勉強になんてほとんど集中出来ずに、試験の日までずっと引きずっていた。何をしていても「家を出よう」という、あの言葉がリフレインしては、その度に思考全部を真っ白にしてきた。


ああ、お父さまに何と報告しよう。お母さまは、許してくれるかしら?


祝福するお友達に囲まれて真ん中ではにかむ彼女は、まるでお姫様のようだ。そんな様子を見ていたくなくて、教室に戻ろうと踵を返そうとした時だった。


「雪音」


凛とした声が彼女を呼ぶ。ああ、そんな顔をしないで。そんなに優しい目を、私には一度も見せたくれたことはないのに。


「眞人!葵!」


彼女の綺麗な黒い瞳が宝石のようにキラキラと輝かせて、一人のお友達の手を取ると「行こう」と笑いかける。パタパタと小走りで彼らの元に行く彼女たち。

その様子に気づいてしまった。彼女の周りにいた子は多かったけれど、その中でずっと隣にいた子が、とても悲しそうな瞳を野々宮さまに向けていたことを。


「舞衣、あの子、どなたかご存知かしら?あそこにいる、髪をサイドに結んだ明るい髪の子なのだけれど...」


どれどれと舞衣が目を細めて、「ああ...」と呟いた。美百合は変わらず彼らに夢中なようで、一心に見つめていた。


「お名前は確か、水野 紫織さまですわ。何でも野々宮さまとは幼なじみだそうで、今、野々宮さまと一緒に行った子も含めて、よく3人で仲良くしているのを見かけます。まぁ、今の様子を見ても、最近はあまりうまくいってなさそうですよね」


いつもの明るい声とは違い、舞衣はとても冷めた声で話す。そばで聞いていた美百合が「幸せ者ね」と、隣にいた私たちに聞こえるか聞こえないかどうかの音量で呟いた。


なるほどね。あの子の、水野さまの悲しい瞳の理由がわかったわ。確かに、無意識にしているのであろう野々宮さまの頭の中も周りも幸せで溢れている。

それにしても、あの行動に気づかない彼らではないと思うのだけれど。


チラリと、彼らに目を移した瞬間、背中に冷たい汗が一筋流れた。


なぜ、今まで気づかなかったのかしら。彼は、彼の、奈月さまのあの目は、全然笑ってなんかいないわ。あんなに、愛おしそうに野々宮さまに笑いかけているように見えるのに、その目は奥は驚くほどに冷めている。

唐突に彼を理解してしまう。奈月さまは、野々宮さまの事など、心底どうでもいいのよ。彼女は、おそらく今回だけでなく、彼らの、もしくは彼の前で無意識に、恐ろしいほどの無邪気さで、人の気持ちを踏みにじっている。

周りに愛されて、愛されないはずなどないんだと、自分が正解だと無意識に思っているからこその言動だろう。

東堂さまはあんなの子のどこが良いのかしら。いや、だからこそ良いのか。無意識の傲慢さは天性のもので、きっと、そういう子が最後に勝ってしまう。


彼らと楽しそうに笑う野々宮さまとそのお友達。ふと、奈月さまと目が合い、いつものあの嘘くさい微笑みをくれる。お返しに、私もにっこりと笑ってみせた。

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