信頼
あれから、まともに両親にもお兄さまにも顔を合わせることもなく、そのまま試験の日を迎え、成績表が返される日になった。そして、上位30名の名前が張り出される。みんな、誰がパーティーに参加できるのか、又は自分は参加できるのか興味と緊張で、ソワソワと浮き足立っていた。
「ごきげんよう」
下駄箱で靴を取り出していると、後ろから声をかけられる。靴を履き、振り返ると落ち着いた様子の美百合が立っていた。「ごきげんよう」と返し、一緒に教室に向かう。
「そういえば、今日は試験の結果が張り出される日ですわね。緊張しますわ」
美百合がニコニコと言う。その言葉のわりには、全く緊張しているようには見えない。
「緊張しているようには見えないけれど...。寧ろ、楽しんでいるように見えるわ」
「わかりました?だって、今回もきっと1位と2位は東堂さまと奈月さまに決まっていますもの!お二人の晴れ舞台です!!この瞬間に立ち会えるなんて、私はなんて幸せ者なのでしょうか!」
「そ、そう...」
目をキラキラと輝かせて、一気に捲し立てられる。というか、晴れ舞台とか大袈裟すぎないかしら。いや、東堂さまと奈月さまに関しては、これが彼女の通常運転ね。
「でも、凛城さまもあまり緊張してるようには見えませんわ。私はともかく、皆さんは生徒会主催のパーティーが気になってしょうがないみたいですけど」
少し伺うような表情で問われる。それで、なんとなく分かってしまった。この子、初等科、中等科と本当に東堂さまと奈月さましか目に入らなかったんだわ。私も、一応は今まで5位以内には必ず入っていたのに。私の名前なんて、あの2人に比べたら霞むようだわ。
「何言ってるの、美百合!!凛城さまだって、初等科の頃から5位以内には必ず入ってたのよ?緊張なんてするはずないじゃない!ごきげんよう、凛城さま」
どこから聞いていたのか、後ろから突然舞衣が口を出してくる。
「舞衣...、盗み聞きははしたないですよ」
美百合が少し罰が悪そうに言い返した。珍しい表情だ。基本的に東堂さまと奈月さま以外には他人に興味のない美百合でも、今回はさすがに申し訳なく思ったようだった。
「ごきげんよう。私も盗み聞きは良くないと思うわ」
美百合に気にしてないと微笑みながら、困ったように美百合に同調する。その反応が予想外だったのか、美百合に向かって口を尖らせて唸っていた舞衣は、口をポカンと開けて、私を見つめたまま固まった。となりで、美百合がホッと息をついたのが分かった。
「そ、そんな〜!盗み聞きなんて酷いですよ〜!たまたま、お二人をお見かけして、声をかけようとしたら聞こえてきただけですよ〜」
それでもすぐに復活して、よほど慌てているのか、両手を左右に振りながら、違うんだと弁明をはじめる。後ろからきたのに、話が本当に聞こえたのかは微妙で、確証はないけど、ほぼ盗み聞きはしていたはずだ。
「今日のところは、そういうことにしといてあげるわ。早く教室に行きましょう?」
美百合と一緒にクスクスと笑いながら、舞衣を急かす。「そんなぁ〜」と、舞衣が嘆きながら私の隣に並ぶ。こうしていると、本当のお友達のようだ。
時々、暴走するけれど純粋で控えめな美百合と元気で明るい女の子な舞衣、そして、優等生の私。完璧で綺麗な関係は、その分とても脆くて、結局のところはお互いに本当の意味で信頼してはいないのだ。