プロローグ
納得できなかった。私は今まで、凛城家の娘として、その名に恥じぬよう死に物狂いで頑張ってきた。それなのに、あの野々宮 雪音という女は、私が必死で手に入れたものを簡単に手に入れる。私が欲しくても手の届かないものを、何の努力もなく手にする。
私立楸瑛学園は初等科から大学までのエスカレーター式であり、各界の子息子女が通う名門校だ。その中でも凛城家は名家中の名家であり、私は何もしなくても周りから敬われた。それでも上はいるもので、その中でも特に東堂 眞人さまと奈月 葵さまのお2人は別格の存在だった。彼らは、その家柄も容姿も能力も全てにおいて完璧で、同性も含め周りからとても慕わられていた。
そんな彼らと親しく、よく一緒にいるのを見かける女の子がいた。それが、野々宮 雪音という存在だった。家柄は彼らよりは劣るが、その容姿と気品、中身までもが女神のように美しいと専らの評判であった。そのせいか、陰では凛城 希夜佳は高慢で我儘な姫なら、野々宮 雪音は謙虚で優しい姫だと比べられている事も知っている。
初等科、中等科と彼女に周りを使ってこれでもかと嫌がらせをしてきた。その度に、彼女は周りに助けられ守られてきた。その中には、もちろん東堂さまも奈月さまもいた。高等科に上がる頃には、私の周囲に友人と呼べる者いなくなった。いや、最初からそんな人は居なかったのかもしれない。私は学園で徐々に孤立しはじめていた。
それでも、凛城家の権力に群がる者はまだ大勢いる。信用できる者など1人もいないけど、別にそれで構わない。1人は慣れているし、情は弱みになる。誰にも弱みを握られないように、弱みは少ない方が良い。私は、私を守るだけで精一杯だから。
だから、余計に野々宮 雪音が大嫌いだった。誰かに守られるのが当たり前で、愛されるのが当たり前で、いつも人に囲まれている。そんな彼女を許せないし、とても憎らしかった。
平気よ。私は、凛城 希夜佳よ。私が誰かに劣ってるなんてありえない。あってはならない。東堂さまの隣りに相応しいのは私よ。そうしたら、きっと両親も喜んでくれる。
私は、鞄の持ち手をギュッと握って、不安から逃げるように、迎えに来ていた凛城家の車に向かった。