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7話 朱雀蓮也の能力

ブックマーク、評価、ありがとうございます。

「さて、話しているうちに奥までたどり着いたわけなんだけど。」


 針金山の最深部、と呼ぶべき山奥の山奥、標高もそれなりに高いところにある薄暗く不気味な場所に、蓮也と洋介はたどり着いた。


「元々薄気味悪い山だったが、奥までくるとより一層不気味だな。」


 やれやれ、といった態度でつぶやく蓮也と、興味津々といった面持ちであたりを見回す洋介。


「最初の魔猿以降、なんの生き物とも遭遇しなかったね。まさか何事もなくここまで来れるなんてね。どう思う? 」


「あの魔猿、片方は生かしておくべきだったかもな。そうしたら今頃ボスが出てきたかもしれない。」


 片目を瞑って楽しげに問いかける洋介に、淡白な口調で返す。


「親分に泣きつく役も抹殺しちゃったからね。」


「やっぱり天沢を呼んで山ごと消してもらうか。」


「こうも魔獣が出てこないと蓮也のその案が最善に思えてくるな。」


 苦笑しながら話す洋介。

現在蓮也達がいる場所には、蓮也達の話し声と物寂しい風の音以外の音がなにも聞こえない

。静かだ。静かすぎる。


「生き物の気配が全くしないな。」


 蓮也の呟き通り、そこには何も生命の気配がなかった。逆にそのことが、この山に何かが潜んでいることを暗示している。


「厄介な魔獣らしいね。どこかに潜んで僕らに不意打ちをするつもりかもしれない。」


 中々ぞっとするような話だが、それを聞いた蓮也にも、言い出した洋介にも、その顔に不安の色はない。


「それならそうと、さっさとしてほしいんだがな。」


 それどころか、強気な発言をする蓮也。彼の態度には、強がりや見栄のようなものは見られない。

 それに対して洋介はなにかを言うこともなく、きょろきょろと周囲へ視線をとばす。時にしゃがみこみ、地面を人差し指でなぞってみたり、土の臭いを嗅いだり。


「まるで探偵だな。」


 あちらこちらへ歩き回って痕跡を探す洋介を、蓮也はその辺にあった手頃な岩に腰掛けて眺める。

 やがて洋介は何か収穫があった様子で蓮也に向き直って、


「おーい! こっちに穴があるぞ。きっとターゲットの巣だ! 」


 手を振りながらそう呼び掛けた。見ると、木の枝や土で隠された形跡のある直径4メートルほどの巨大な横穴があった。器用に隠したものだ。


「流石だな。相変わらずの名探偵っぷりだ。」


 鼻の下を指で擦りながら得意げな洋介にそう言って、ためらうことなくその"穴"に足を踏み入れる。

 地滑りか何かの影響で急斜面になっている箇所にその穴は掘られていて、覗き込むと穴は緩やかに下へ続いていることがわかった。穴は奥まで続いているらしく、入り口からはその長さを目視で判断するとはできない。


「こんなこともあろうかと懐中電灯を持ってきたんだよ。」


 準備のいい洋介は、リュックから懐中電灯を二本取り出して、片方を蓮也へと渡した。


「サンキュー。」


 暗い穴の中を、懐中電灯の明かりを頼りに歩く二人。その光景は端からみれば肝試しをしている少年のように見えるだろう。実際は、怪物が眠っているかもしれない穴蔵に、無造作に足を踏み入れている高校生であるのだから笑えない。


「獣臭がする。どうやら当たりのようだね。」


 洋介の言うとおり、奥から流れてくる生ぬるい風には、決して心地よいものではない香りが混じっていた。


「ん? 奥に明かりが見えるぞ」


 二人の眼前には、光の点が浮かんでいた。どうやらもう少し歩けば、明かりが灯った空間に出るらしい。


「火を使うとなると、相当知能の高い魔獣だろうね」


 冷静に分析する洋介。二人はそのまま足を止めることもなく、どんどんと歩いていく。光の点はやがて大きくなっていき、やがて蓮也達はその光が灯る空間に足を踏み入れた。


「これは…予想以上だね…。」


 そこに広がっている光景に、目を見開いて息を飲む洋介。


「ああ、驚いた。まさかここまでとは…。」


 蓮也もさすがに驚いた様子で、目の前の光景に目を丸くする。


 その空間は、野球場ほどの広さがあった。山の中にぽっかりと空けられる形のドーム状の空洞。その円形の壁面には器用に無数の松明が固定されていて、だだっ広い空間を煌々と照らしている。


──そして蓮也達の眼下、野球ドームのグラウンドにあたる場所に所狭しと並んでいる魔獣。


 蓮也達はそれを、観客席から見下ろす形で視界に収めている。 


「すごいな、この数。どうなってるんだ? 」


「軽く3桁はいるんじゃないか? 下位の魔獣から上位のものまで大盤振る舞いだな。」


 呆気にとられたような表情の洋介と、呆れ顔の蓮也。双方いささか動揺してはいるものの、そこには恐怖や不安の色はない。ただ、見慣れない光景に驚いているだけで、


「俺がまとめて片付ける。洋介は上がってくる撃ち漏らしを頼む。くれぐれも下には降りてくるなよ。」


 特に気負った様子もなく、眼下の魔獣の軍勢を相手取ることを宣言する蓮也。


「ああ、わかったよ。巻き込まれると洒落にならないからね。僕は出口へと逃げようとする細かいのを担当するよ。」


 対する洋介もその方針に異議を唱えない。あっさりと蓮也の申し出を承諾する。


「それじゃ、行ってくるわ。」


 まるでコンビニにでも行くような気安さで、蓮也は眼下の魔獣の軍勢がいる場所へと飛び降りた。

 蓮也達がいた場所と、魔獣達がいる場所の高低差は百メートル以上は裕にある。当然、そんなところからパラシュートもなしに飛び降りれば、ド派手な飛び降り自殺にしかならないのだが、


「それじゃあ、始めるぞ。」


 まるで()()()()()()()()()()()()()()()ふわりと着地した蓮也は、何事かと自分に視線を集中させる魔獣の群れに向けてそう宣戦布告。


「グオオオオオオオオオオ!!!」


 真っ先に、蓮也の一番近くにいた3メートルはあろうかという巨体の魔猿が吠える。そしてそのまま蓮也に飛びかかろうと牙を剥き──


「───」


 直後に発生した地響きと同時に、その場で()()()()()()()()()()()()()()血肉を撒き散らして絶命した。


「ガアアアアアアアアアアア!!」

「オオオオオオオオオオオッ!!」


 それを見てか見ずか、周りの魔獣達が一斉に蓮也へと殺到。咆哮ともに、地鳴りのような足音を立てて、蓮也へと突っ込んでくる。


「豚男に、魔犬、魔猿もいる。それにウィズダムコングもいるな。連日の魔獣騒動のメインメンバーなのは偶然か? 」


 周囲から濁流のように魔獣が押し寄せてくるという地獄絵図。そんな中にぽつんと棒立ちの蓮也だが、その口調は昼休みに洋介と会話するときのそれと変わらない落ち着きがあった。


「ガアアアア────」

「オオオオオッ───」


 その落ち着きの理由を示すように、蓮也に近づく魔獣が、その種類、強さ、大きさに関わらず軒並み()()()()()()()()()()攻撃を前に、撃沈していく。

 蓮也は一歩たりとも動いていない。それどころか棒立ちの姿勢から全く変化していない。攻撃を繰り出すそれらしい挙動などは皆無。ただ、立っているだけ。


「──」

「──」

「──」

「──」

「──」


 けたたましく鳴り響いていた魔獣の咆哮や足音も、だんだんと静かになっていく。代わりに、肉のひしゃげる音、衝撃が地面に伝わることで起こる轟音と衝撃が、無慈悲に響き渡る。


 衝撃。


「──」


 衝撃。


「──」


 衝撃。


「──」


 これは、作業だ。一方的な、強者による虐殺。すでに辺りは血の海と貸していて、もうもうと鉄の匂いが立ち込めている。

 その光景を生み出した張本人は、汗ひとつ流さずに血の海の中に立っている。あれだけの魔獣を相手取って、ダメージを負った気配はない。それどころか服には汚れ一つ見当たらない。


「おーい、蓮也。終わったかい? 」


 辺りを見回して、生き残りがいないことを確認した頃、タイミングよく洋介が声をかけてきたのだった。




洋介君の戦闘シーンはまた今度。

明日も更新します。


ではでは、メリークリスマス!

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