1話 急展開
よろしくお願いします。
応援要請の依頼を終えた朱雀蓮也は、自宅のベッドで疲れを癒しているところだった。
「はぁ。疲れたなぁ」
溜息を吐き、心底だるそうに呟くが実際のところはそれほど疲れてはいなかった。
例え国の特殊部隊を壊滅に追い込むほどのモンスターでも、彼からすればそこらの雑草と変わらない。
つまるところ、彼はただ単に怠けているだけである。
「おーい、蓮也ー?」
そんな蓮也に、部屋の外から耳障りの良い声がかけられる。寝たふりをしてやり過ごそうかと一瞬思う蓮也だったが、以前あっけなく狸寝入りを見破られたのを思いだし、返事をする。
「なんだよ、親父。」
蓮也の父、朱雀修司はP,S,Fに所属する軍人であり、さらに大将という地位にある。
P,S,Fというのは、簡単に説明すると、『対能力者警察』である。
「蓮也に会わせたい人がいる。すぐに準備してくれるかな?」
柔らかく、そして綺麗な声と口調。年齢はもうすぐ40になるはずだが、その声からは年齢を推し量ることができない。
「準備?どこかにいくのか?」
対する蓮也の声は、落ち着いていて感情があまり込められている気配がない。中性的な声質の父親と違い、蓮也の声は静かに、しかし男性的だ。
「うん。いつもの喫茶店で落ち合うことになってる。」
いつもの喫茶店、というのは、蓮也の家のすぐ近くにある飲食店のことだ。
「何だってこんな時間に。俺も行かなきゃダメなのか?」
「まだ18時だろう。先方に蓮也も連れてきてほしいと頼まれていてね。」
「相手は俺のことを知ってる奴なのか?」
蓮也の頭に、いくつか知り合いの顔が浮かぶ。
「来ればわかるよ。とにかく、もう来てるみたいだから先に行ってるからね。」
そう言うと蓮也が返事をする間もなく、修司は行ってしまった。
「いったい誰なんだよ。」
まだベッドから起き上がらずに、その『先方』とやらに心当たりがないか考える蓮也だったが、父親が家の玄関から出ていく音が聞こえると、仕方なくゆっくりと体を起こした。
そして長い溜め息をついて、
「仕方がないな。」
盛大についた寝癖と服のシワをそのままに、気だるげな動作で部屋のドアノブに手をかけるのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いらっしゃいませ。」
蓮也が店の扉を開けると、すぐに声がかかる。
「あちらで御父様がお待ちです。」
蓮也がこの店に通うようになってからもう4年目だ。すでに店主とは顔馴染みである。
「ああ、どうも。」
蓮也は軽く手をあげて礼を言うと、店の中を見渡す。
「おっ!やっと来たね。」
蓮也が店に入ってきたのに気がついたのだろう。窓際の席に座っていた父、修司が聞き心地の良い柔らかな声を発しながら、こちらに向かって手招きをしている。
その父親の対面には、3人の女性が腰かけていた。おそらく件の待ち合わせの人物なのだろう。こちらに気づくと3人とも軽く会釈をしてくる。
「これでも急いだんだよ。それで、こちらの方々が──」
──その待ち合わせの人とやらか?
目の前に座る3人の女性達の顔を順番に見ながら喋る蓮也だったが、その視線がそのうちの一人を捉えたところで急にに黙りこむ。
そして──
「お、お前……、如月華乃か?」
──あっけにとられたような声で、そう呟くのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
如月華乃
蓮也と同じ帝信高校に通う、一年生だ。ペーパーテストの成績では常に上位、さらに体力テストや格闘試験などでも抜群の成績を誇る、いわば優等生だ。
加えて、超がつく美少女である。地毛と噂される長く美しい茶髪に、色白で、それでいながら不健康さを感じさせないキメ細やかな肌。形の良い二重のくりりとした目に、ふっくらと、柔らかそうな唇。時折男どもの間で開催される女子人気投票で断トツの得票率を誇る、美女四天王の一角である。
「話すのはこれが初めてですね。一応、初めまして、ということになるのでしょうか。如月華乃です。」
凜とした蓮也明感のある声で、如月華乃はそう言うと、まるで訓練されたかのような綺麗なお辞儀をする。
あまりの予想外の出来事に、半ば呆然と立ち尽くす蓮也。それを見かねた修司に促され、ようやく席についた。そして机に用意されていた水を一口飲むと、
「こちらこそ初めまして。朱雀蓮也です。」
少しは落ち着いたのか、先程よりは冷静に挨拶を返した。
「お姉ちゃんの学校の人ー?」
そんな二人のやり取りを見て如月華乃の隣に腰かけていた少女が華乃に話しかける。こちらも綺麗な茶髪と、将来は姉と同じくらい、あるいはそれ以上の美人になると思わせる可愛らしい顔立ちをしている。どこか冷たさを感じる華乃とは対称的に、こちらは太陽を彷彿とさせるような暖かな空気をまとっている。
「こちらは妹の穂花です。」
「よろしくお願いします!」
華乃がそう紹介すると、それにあわせて穂花が満面の笑みで挨拶をする。その底抜けに明るい純粋な笑顔に、穂花の周りが周囲よりも一段と輝いているような錯覚を覚える。
「お、おう。よろしくな。」
対する蓮也は歯切れの悪い挨拶を返す。
幾分か冷静さを取り戻したものの、頭の方は相変わらず状況の処理が追いついていないらしい。
「では!最後になっちゃいましたが、華乃と穂花の母の如月千尋です!よろしくね!!」
穂花に負けず劣らずの元気のよさで、二人の母親である千尋が挨拶をする。こちらもやはりと言うべきか、二人の母親なのだから当然なのだが、やはりものすごい美人だった。
(なるほど。学校で評判の美少女様の容姿は母親の遺伝なわけか。)
頭の中でしょうもないことを考える蓮也だったが、表情には何も出さずに挨拶をかえすのだった。
ちょっと短かったですかね?