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私はハリーに抱きかかえられて、森を通り抜けた。
セバスチャンとは別々のコースで国道に向かう。
国道に向かうと、暴徒と化した村人の喧騒が聞こえた。
茂みから様子を見ると、セバスチャンが捕まっていたところが見えた。
声を上げて、飛び出そうとするハリーの口を抑えて、止める。
ここで、声を上げたらハリーも死んでしまう。
とはいえ、セバスチャンをどう助けるべきか。
試行錯誤している間に、銀製の銃を持ってきた村人により、セバスチャンは肩を撃たれてしまう。
ふと、セバスチャンがこちらに視線を向けた気がした。
(に、げ、て)
脳内にセバスチャンの声が聞こえる。
確か、吸血鬼は吸血した人間を傀儡にすることが出来た。
おそらく、国道に向かう前に、セバスチャンに吸血されたので、テレパシーが通じたのだろう。
私は頷いた。これがセバスチャンに通じたかどうかは分からない。
ただ、心なしかセバスチャンは穏やかな表情になった気がした。
私は無理矢理、ハリーを森に連れていく。
村人はハリーの存在を知らない。
数日間、森で息を潜めていたら、隙を見て逃げれるかもしれない。
ハリーは僅かに抵抗したものの、森に戻る事に決めたようだった。
後ろで響く、僅かな男性の断末魔。
私達は声を殺して、森に逃げ込んだ。
「セバスチャン…」
そして、ハリーの悲痛な声がやけに私の耳に残った。
森にある小屋に逃げ込んだ私達は暫く無言だった。
ハリーは見るからに落ち込んでいる。
唯一の仲間を失ったのだ。
私は何て声をかけていいか分からず、ただ心配そうに彼を見ることしか出来なかった。
暫くして、私の視線に気がついたハリーが苦笑いをした。
「すまない、気を遣わせてしまって」
「いえ、その、ごめんなさい…」
私が申し訳なさそうにすると、ハリーはこちらに近づき、頭を撫でた。
「何故君が謝る?あの時、私が感情のままに飛び出していたら、セバスチャンだけでなく、君も見つかり、巻き込んでしまっただろう」
あれが最善だったんだ、とハリーは自分に言い聞かせるように呟く。
「セバスチャンさんはハリー様の大切な仲間だったから…助けてあげれなくて、ごめんなさい」
そう言うと、ハリーは私の肩に頭を埋めた。
普段と違う、ハリーの甘えた素ぶりに不謹慎ながらもドキッとしてしまう。
「セバスチャンは私を受け入れてくれた数少ない人間だったからな…そして、吸血鬼になっても私の側にいたからな」
「セバスチャンさんは人間だったんですか?」
ハリーは、ああ、と短く肯定した。
そういえば、いつだかセバスチャンは私に自分は純血種ではないと言っていたが、こういうことだったのか。
きっと、ハリーは今孤独に苛まれているのだろう。
今の私では、彼の心の隙間を埋めてあげることは出来ない。
何故なら、私は人間で、生き餌としてはあと数ヶ月しか生きられない。
私はハリーに向き直ると、ハリーの不安げな表情を見つめた。
「ハリー様。私を吸血鬼にしてください」
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