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私はいつものようにジョギングをしていた。
健康改善すればするほど、私の血は美味しくなるようで、ハリーとの距離も心なしが縮まっている気がする。
良いことづくめだ。ビバ健康的生活。
今日のノルマを終え、屋敷に戻ろうとした時。
喧騒が聞こえた。
遠くでセバスチャンが空から様子を見て、慌てて屋敷に帰っているのがわかった。
何かあったのだろうか。
私は門の方に近づき、耳をそばだてる。
「吸血鬼は村から出て行け!」
「村に平穏を!」
どうやら村人が暴動を起こしているらしい。
どうしてこんなことになったのか分からないが、私は屋敷に駆け足で戻った。
「ハリー様!如何致しましょう」
セバスチャンの焦った様子とは裏腹にハリーは極めて冷静だった。
「セバスチャン、君は森に逃げろ。君の顔は村人に知られているからな。様子を見て、国道に出て、都会に行け」
セバスチャンは思わぬ指示に目を丸くする。
「アマンダ、君はこのまま屋敷にいなさい。君は人間だ。保護されるだろう」
「は、ハリー様は?どうするの?」
私はハリーに尋ねる。
そう言うと寂しげにハリーは笑った。
「私はここに残る。彼らの標的は私だ。長の私が息絶えれば彼らは満足するだろう」
セバスチャンはそんな、と悲嘆の声を上げる。私は思わずハリーの目の前にある机を思いっきり叩く。
「そんな結末いや!ハリー様、私と一緒に逃げましょう」
私の瞳から熱いものが溢れる。涙だ。
ハリーと別れると思ったら、胸が割かれそうになる。
ハリーはそっと、私の顔に伝う涙を拭った。
「…何故、お前が泣くのだ」
だって、と私は震えた声で言う。
「ハリー様。凄く寂しそうなんだもん。それに私、ハリー様に美味しい血を献上するって約束してるし」
そんな私の言葉にハリーは無邪気に笑う。
「お前らしいな。いいのか?今が村に帰るチャンスだぞ」
きっと今を逃したら、村に二度と帰れないのだろう。それでも、私は彼についていくことを選択した。例えあと数ヶ月しか彼の側に居ることができなくても。
私は力を込めて頷く。
ここでの私の生活は村でぐうたら過ごしていた時よりも余程有益だった。
「もう決めているから。私はハリー様の側にいる」
そう言うと、ハリーはありがとう、と私の額にキスをした。
「セバスチャン、気が変わった。私も森に逃げる。途中から二手に分かれて、都会で落ち合おう。無線は持っていけ」
セバスチャンは先程とは打って変わって、嬉しそうに、はい、と頷いた。
屋敷を去る時、私はさようなら、と呟いた。
さようなら、私の故郷。
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