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ハリー視点です。
「申し訳ございません。ハリー様」
セバスチャンは私に謝る。
理由は、最近セバスチャンが連れて来た生き餌のことだ。
「今年は随分と変わった人間を連れてきたな…」
私は窓の外から、今年の生贄を見やる。
今年の生贄、アマンダはジョギングをしている。
餌とはいえ、私が餌の質に文句を言える立場ではない。だが、私はアマンダのあまりの脂っこさと甘さに思わず吐き出してしまった。
吸血鬼として520年生きていて、初めての出来事だった。
余程、アマンダはショックを受けてしまったのだろう。その日から、運動や食事など生活改善に力を入れるようになった。
私の生き餌になったのだ。余命は一年しかないというのに、アマンダは私に上質な血を献上したいと、それを止めない。
生き餌に選ばれた人間は、一年経つと死んでしまう。前日にどんなに元気であろうとも、一年経つと、粉になってしまうのだ。
私はその原理が未だに分からなかった。
唯一その死を止められるのは、その餌が吸血鬼になる道を選んだ時のみだ。
私はセバスチャンを見る。
セバスチャンは吸血鬼になる道を選んだ数少ない餌の一人だ。
吸血鬼になったら、人間の世界には戻れない。それなら、と死を選ぶ方が多いのだが。この男は変わっている。
セバスチャンは、私が怒っていると思ったのか、申し訳なさそうにしている。
「私は気にしてない。あの娘の血も水で薄めれば、何とか飲めるからな」
吸血鬼に健康も何もないと思うが、あれは絶対に身体に良くない。
私は羊など家畜の血で凌ぎ、彼女の血は必要最低限摂取することにしている。
それにしても、アマンダは興味深い。
生き餌に選ばれた人間は絶望し、自分の残り少ない人生を悲観して、何もしないことが多いのだが、彼女は違う。
常に生き生きと健康的な生活を目指し、行動している。
退屈な長い人生のささやかな楽しみになりそうだと、私はセバスチャンに気づかれないように密かに笑った。
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