1
閲覧いただき、ありがとうございます。
ここはピーアヴァン村。
自然豊かな村でスローライフにはうってつけの場所だ。
そんな村のとある喫茶店で働くのが、私、アマンダ・キャンベルだ。
娯楽も何もない村での私の幸せ。
それは、ぐうたら生活を送ることだ。
私は昔から特にこれといって打ち込む趣味も特技もなかった。
友人は村から出たい、あれがしたいと夢や希望を持っていたが、生憎私にはそれがなかった。
アラームをかけずに寝て、運動もせず、大好きなジャンクフードやスナックを貪り、夜更かしをする。そんな毎日が幸せだった。
ちなみに、この喫茶店を仕事先に選んだのは、ここの賄いが周りの飲食店の中で一番美味しいからだ。
私はこれといった目標もないまま、生涯を終えるのだろうと、漠然と感じていた。
ある日の夕暮れ。
いつものように、喫茶店で働いていると、一人の男性が訪れた。
血の気のない肌色に紅い瞳。
一瞬で店内がざわめいた。
男は周囲を見渡し、そしてこちらに来た。
男は私の目の前で立ち止まり、肩を叩く。
シャツ越しに男の手の冷たさに気がつく。
私はすぐにこの男が例の吸血鬼だと分かった。
この村には、吸血鬼がいる。
正確に言えば、かつてここは吸血鬼の村だった。それが時代とともに吸血鬼が減り、今は村長のみが吸血鬼となっている。
山の斜面にある大きな洋館が、吸血鬼の住まいだ。
時代の変化により、吸血鬼と人間は共存するようになった。この村もその一つだ。
人間は吸血鬼を狩らない、その代わり吸血鬼も無闇に人間を襲わない。
これが共存のルールだった。
では、吸血鬼はどうやって生きながらえるのか。それは年に一回、吸血鬼が無作為に人間を一人、生き餌にすることだ。そして、人間はそれを黙認すること。村人はそれを紅の儀と呼んでいた。
どうやら、今日はその紅の儀が行われる日だったらしい。
常に変わらぬ日常を送っている私は日付感覚が全然無かったので、気がつかなかった。
待てよ、ということは。
私はゆっくりと顔を上げる。
「今年、ハリー様に献上する人間は貴女にしましょう」
そう言って、その男は私を抱き上げる。
周りの悲鳴とどよめき。
私は何が何だか分からず、その男に身を委ねることしか出来ない。
そして突如訪れる浮遊感。
「うわ!吸血鬼が飛んだぞ!」
誰かがそう叫び、人々は道を開ける。
村人は毎年の行事にも関わらず、混乱状態で、移動中、叫び声や物音が絶えなかった。
男は屋敷に向かう途中、意外そうな顔をした。
「周りはあんなに叫んでいるのに、貴女は冷静ですね」
私は、はぁ、そうですか、としか言えなかった。冷静ではない。実感が湧かないだけだ。
生き餌に選ばれた人間で今まで村に帰ってきた者はいない。恐らく死ぬのだろう。
私に死への恐怖はなかった。それも考えるのが億劫だった。
強いて言うならば、死ぬ前にうちの店のハンバーガーデラックスセットをもう一度食べたかったくらいだった。
良ければ、評価、ブックマーク、コメント等よろしくお願いします。