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閲覧いただき、ありがとうございます。

ここはピーアヴァン村。

自然豊かな村でスローライフにはうってつけの場所だ。


そんな村のとある喫茶店で働くのが、私、アマンダ・キャンベルだ。


娯楽も何もない村での私の幸せ。

それは、ぐうたら生活を送ることだ。

私は昔から特にこれといって打ち込む趣味も特技もなかった。


友人は村から出たい、あれがしたいと夢や希望を持っていたが、生憎私にはそれがなかった。


アラームをかけずに寝て、運動もせず、大好きなジャンクフードやスナックを貪り、夜更かしをする。そんな毎日が幸せだった。


ちなみに、この喫茶店を仕事先に選んだのは、ここの賄いが周りの飲食店の中で一番美味しいからだ。


私はこれといった目標もないまま、生涯を終えるのだろうと、漠然と感じていた。


ある日の夕暮れ。

いつものように、喫茶店で働いていると、一人の男性が訪れた。


血の気のない肌色に紅い瞳。

一瞬で店内がざわめいた。

男は周囲を見渡し、そしてこちらに来た。


男は私の目の前で立ち止まり、肩を叩く。

シャツ越しに男の手の冷たさに気がつく。


私はすぐにこの男が例の吸血鬼だと分かった。


この村には、吸血鬼がいる。

正確に言えば、かつてここは吸血鬼の村だった。それが時代とともに吸血鬼が減り、今は村長のみが吸血鬼となっている。


山の斜面にある大きな洋館が、吸血鬼の住まいだ。

時代の変化により、吸血鬼と人間は共存するようになった。この村もその一つだ。


人間は吸血鬼を狩らない、その代わり吸血鬼も無闇に人間を襲わない。

これが共存のルールだった。


では、吸血鬼はどうやって生きながらえるのか。それは年に一回、吸血鬼が無作為に人間を一人、生き餌にすることだ。そして、人間はそれを黙認すること。村人はそれを紅の儀と呼んでいた。


どうやら、今日はその紅の儀が行われる日だったらしい。


常に変わらぬ日常を送っている私は日付感覚が全然無かったので、気がつかなかった。


待てよ、ということは。


私はゆっくりと顔を上げる。


「今年、ハリー様に献上する人間は貴女にしましょう」


そう言って、その男は私を抱き上げる。

周りの悲鳴とどよめき。

私は何が何だか分からず、その男に身を委ねることしか出来ない。


そして突如訪れる浮遊感。


「うわ!吸血鬼が飛んだぞ!」


誰かがそう叫び、人々は道を開ける。

村人は毎年の行事にも関わらず、混乱状態で、移動中、叫び声や物音が絶えなかった。


男は屋敷に向かう途中、意外そうな顔をした。


「周りはあんなに叫んでいるのに、貴女は冷静ですね」


私は、はぁ、そうですか、としか言えなかった。冷静ではない。実感が湧かないだけだ。


生き餌に選ばれた人間で今まで村に帰ってきた者はいない。恐らく死ぬのだろう。


私に死への恐怖はなかった。それも考えるのが億劫だった。


強いて言うならば、死ぬ前にうちの店のハンバーガーデラックスセットをもう一度食べたかったくらいだった。


良ければ、評価、ブックマーク、コメント等よろしくお願いします。

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