籠の底の哀鳥
「さあ、イヨイヨ始まりましたあ!大投票会!潮騒アリーナから生中継でお送りしてまあす!!!」
司会のアナウンサーの金切り声と共に、遂に本番が始まった。ここから次々名前が出ていき、最後に残った一人がセントラル・クイーンの称号を手にする。そしてステージの前に出てティアラをもらえるのは20人だけ。それ以下はスポットライトの影すらまともにあたらず、一番最後に20人のはるか後方で踊って歌を歌うふりして終わり。たったそれだけ。
どどどん!
胃の奥に響くような低音のメロディにのせて、ステージ上の特大スクリーンに名前が流れてきた。
199 烏丸 綾美
198 九官 佐代子
197 滝 姫夏
196 工藤 ミツル
あ、私だ。 喜怒哀楽を感じる暇もなく、順位はスクロールされていってしまった。立ち上がることも出来なかった。
あーあ、ハーゲンダッツのおごりかあ。いくらだったかな。発表の最中、そんなしょうもないことが頭を駆け巡っていた。
途中、10位位の誰かが号泣して、1位になった島神小雀さんが半べそでスピーチをやった。ツグミは去年と同じ129位だった。
ぐすん、ぐすん、ひぐっ、ひぐっ。
みんなが熱狂、みんなが感動。小雀さんも泣く。瑠璃や翡翠も泣く。ツグミですら泣きそう。私がおかしい?みんな催眠術にかかったみたい。
「さあっ 新女王の島神小雀ちゃんが初めてのセンターを務めます!オセウス全員で、『ダイヤモンド・カッター』です!ぅどうぞ!」
あれよあれよの間に、全員での「歌」が始まった。
誰も彼も泣いたり感極まったりでゆらゆら、ゆらゆら。お客さんのうなり声がガアガア。
「ピヨピヨーピヨピヨーピッピッピーピー」
「チュンチュンチュン、チュンチュン」
「ほーほー」
「かぁかぁかぁーかぁかぁかぁー!」
きっと客席やテレビには、録音のきれいな歌声が届いていることだろう。でも、ステージの上の私には、みんなの声はやかましい鳥の声そのままだ!
「キョーキョキョキョ」
「ピーピピピピピ」
歌の最中、フォーメーションを変えるときに何度も踏まれ、押された。さながら、巣の中の雛鳥だ。餌を貰うために必死になって口を開ける雛鳥だ。成人もしていないのにスポットライトのしたでバタバタして搾取される雛鳥だ。
私は思わずその場で立ち止まった。