鴉の巣
支度が済んだ頃に、森鳥Pが迎えにやって来た。
「お、準備は万端?裏口にバスが停まっているから、業務用エレベーターで先に降りてってくれ。僕はまだ瑠璃と翡翠も迎えに行かなきゃだから」
森鳥Pは全身がげっそりと痩せていて、禿鷲みたいだった。ここ2年間オセウスの下部の下部とは言え、15人のメンバーのたった一人のマネージャーとして、怖いぐらい動いていた。グループ活動はもちろん、一人一人のソロの仕事も持ってきてくれる。その代償に心身を削っていたことは誰の目に見ても明らかだ。
「ちょっと!早く~」
森鳥Pに急かされて、私は足早にエレベーターに乗り、マイクロバスに駆け込んだ。程なくしてエースの二人、瑠璃と翡翠もやって来て、バスは発車した。
バスの中は複雑な空気だった。お互いに明るく喋ったり、冗談を言ったり、励ましたりするのだが、全体的に重苦しかった。
「ねえねえミツル!何位目指す?」
横に座っていた仲良しのツグミが明るく聞いてきた。ツグミは公私共に「ムードメーカー」で通していて、笑顔を絶やしたことがない。
「えっそれはもちろん……1位?」
「もー。そおじゃなくて、現実的な順位」
「そしたらー…100位かな」
「おっ……私と同じじゃん!これは勝負だね。勝ったらハーゲンダッツ!」
「えー」
むなしくなる会話だった。去年の大投票会で私は142位、ツグミは129位。知名度もなく実績も少ない。
ほどなくして、バスは会場のアリーナに到着した。外には黒山のような人だかりができている。
「*!!!!***!!!!*****!!」
「ー!ー!ー!ー!」
彼らは何かを必死に掲げたり、口々に叫んだりしていた。
「うわあすごい」
外を見て、ツグミがぽつりと言った。
「まるでからすの群れみたい」