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朝日の少女と無垢な怪物  作者: 小麦
5/5

かくて蜘蛛鳥と怪物は合流し、一年の歳月が経過する

〜〜鎖ヶ丘家リビング〜〜


「「「……」」」


三人が無言で見つめるテーブルの上、そこには、小鳥に蜘蛛の足をくっつけたような生物が鎮座していた。


「ピィ、ドウシテ、ココ、コレタ」


バサッ、バサバサ、バッサバサ、ピィ!


「ナルホド」


「「「わかったの⁉︎」」」


「ン、ズット、イッショ、イタ、ダイタイ、ワカル、ヨ?」


「ピィ」


「おう、凄えな。俺はもう付いてけないぜ」


「で、どうやって来たって言ってたんだい?」


「コウドウパターン、ゲンバショウコ、ケイケンソク、ケイサン?クシシタ、イッテル、ドウイウ、イミ?」


「この子の名前はブレインだ、うちの家計簿をつけてもらうことにしよう」


「話が早いとかそういう話じゃないくらい即決ね」


「今ので、この子がすごく頭がいいことはわかった、人の言葉を理解してるのもわかった」


「ピィ、ハ、ピィ、ダヨ?」


「ああ、そうか、それが名前なのか。じゃあこの子はピィでいいかな?」


「ピィッ!」


「ああ、よろしく」


「…わかるんだ」


「なんとなく」


「そうなんだ、ハハッ、私もついていけなくなってきたわ」


「まずパソコンの使い方を教えよう。前いたとかがどこかもわかるかもしれない。それにどんな所だったか説明してもらいたいしね」


「ピィッピ」


「うん、もちろん、三食昼寝付きさ」


「ピィ!ピィッピィ」


「うん、喜んでもらえて何よりだよ」


当たり前のように違う言葉どうしで会話を進めている兄を見て、朝日は考えることを放棄した。


「私もう寝るね、よく考えたら明日も学校だし、どうせ今回のこと公にしたくないからどこにもいわないんでしょ?」


「うんそうだね、その場合、この子達を説明するのも面倒だし、絶対問題が起きるしね、というか絶対国がこの子達を捕獲しにくるよ」


「そうね、私もこの子達がいなくなるのはなんだか嫌だわ、拾ってきたばかりの子犬を人にあげるみたいで」


「あー、地味に辛いやつだね」


「そう、それが犬より壮大になったバージョンよ」


「うん、もうわかったから寝なさい。多分眠たくて自分が若干的外れなことを言ってるって気がついてないだろう?」


「あら、そうかしら?わかったわ、ヤンキーは押し入れにでも放っとけばいいわよ」


「うん」


「うんじゃねぇだろ!」


「じゃあどうする?」


「布団もねぇんだろ、じゃあ床で寝るよ」


「お休み、みんな」


「ああ、お休み、あさひ」


「オヤスミ」


「ピィ!」


こうして、鎖ヶ丘家の奇妙な初日は終わったのである。








〜〜朝〜〜


ピッピピッピィィ‼︎


「あの子は鶏にでも育てられたのかしら」


ピィの鳴き声で目の覚めた朝日は階段を降りてリビングへ行く、

そこには混沌とした風景が広がっていた、


「あ、おはようあさひ」


まるで何もないように味噌汁をすすっている兄、


「おろしやがれぇ!クッソ、解けねぇ!」


蜘蛛の糸のようなものに包まれて天井から吊るされているヤンキー、


「ムニャムニャ」


シミのように部屋の一部を黒く染め上げ原形をとどめていないファートゥム、


「ピィ!」


踊るように部屋に蜘蛛の巣を作っているピィ、


これらを見た朝日は、


「おはようお兄ちゃん、私のご飯は?」


何も見なかったことにした。


「おーろーせー!」


「ねえ、お兄ちゃん、あれ何があったの?」


「ヤンキー君はね、夜中にピィを踏んじゃってそのせいであんな感じになったんだって」


「自業自得ってことね、じゃあいいわね」


「よかねぇよ‼︎」


「僕ら学校に行くから留守番頼むよ、ファムはあさひが連れてくし、ピィは僕が連れて行くからね」


「え、ピィも連れてくの?うるさくない?」


「ピィはそこら辺の人間よりよっぽど頭がいい、言うことも理解してるしね。放課後に常識とか、パソコンとかの使い方を教えて円滑にコミュニケーションが取れるようにしようと思う、それまでは人に見つからないようなところで自由にしててもらうよ」


「ふぅん。じゃあヤンキーには家事でもしててもらいましょうか」


「はあっ⁉︎なんで俺がそんなこと」


「あんたなんでうちに入れるんだっけ?」


「喜んでさせていただきます」


「それでいいわ」


「というか、親御さんにはなんて説明すりゃ―


突然のことだ。

親、という言葉を聞いた瞬間、二人の目に影が落ち、


「「……黙れ」」


殺意までを浮かべ翔をにらめつけた

先程までの雰囲気からガラッと変わってしまった二人に、そしてその目に滲む殺意に、翔は身震いし、恐怖した。


「ッ‼︎」


「っと、すまない。急に言われるもんだから少し気が立ってしまった」


「ふぅ、私もよ。ごめんね、ただの八つ当たりみたいなものよ、気にしないで」


「……あの、なんだ、何があったか…聞いても?」


「あまり聞いては欲しくないことだけど……。君は帰るところがないから、多分うちに長くいることになるよね。っと、あまり言わないほうがよかったかな?」


「ああ、いや、実は、まだあまり実感がないんだよ。家族が死んだって。実はあの野郎のハッタリでまだ生きてんじゃないかとか思うんだよ。だから、そのあんまり悲しかったりはしねぇんだよな。そのうち、ちょっと家まで行かせてもらうこともあるかもしれねぇ。」


「そうなのか、それはいつ行ってもらっても構わないよ。家族、生きてるといいね」


「ああ、本当にな。……もし、本当にみんな死んじまってたら。…その後も、ここで世話になってもいいか?」


「勿論だよ、うちは人手不足、って言っても今日だいぶ増えたけどね。そこでだ、うちで暮らすならうちの事情も知っとかないと色々不便かもしれない。だから、一応僕らの親について話させてもらうよ。……僕らの親はね、ちょうど三年くらい前、かな?


()()()()()()()


僕らをおいてね」


「え?あ、それは、……お気の毒です」


「フフッ、そんなにならなくていいわ。もう三年前だもの」


「あ、でも。じゃあ……なんで昨日はあんなにも楽しそうに?失礼なのは…わかってるんですが、昨日とはあまりにも、こう、違うなぁと思って」


二人は少しの間沈黙し、そして旭が口を開いた。


「その日までね、とても楽しかったんだよ。なんの問題もない、幸せな家庭だったんだ。でも、…父さんが会社で何かやらかしたらしくてね。僕らの面倒までは見れないってことだったんだろう。……僕らを捨てて、逃げたんだ。

でもね、でも、……僕らは、その時の幸せが、……まだ、忘れられないんだよ。」


そう語る旭の声音には怒りと、そして悲しみが漂っていた。

しかし、旭はすぐに調子を取り戻したように明るく言った。


「っと、もうこんな時間だ。あさひ、学校に遅れるよ」


「あ、ほんとね。フーちゃん、起きなさい、私を守るんでしょ?」


「ン?ン、オキル、マモル、タベル」


「寝ぼけてるわね」


「あのー、そろそろ本当におろしてもらっていいですかね?」



こうして、鎖ヶ丘家の新たな日常が始まったのである。











〜〜一年後〜〜


明朝


ピッピピッピィ‼︎


相変わらずピィの鳴き声が響いていた。


「はぁ、すっかりこれで起きるようになってしまったわ」


そう呟いた朝日、彼女は今年から高校一年であり、もう入学式から二ヶ月ほど立っている。長く伸びたプラチナブロンドの髪を揺らし立ち上がる、背丈はさほど高くなく、だいたい百五十くらいだろう、華奢な体つきをしている。美少女を絵に描いたような彼女は、ライトブルーの瞳をしょぼしょぼさせながらリビングに降りていった。


「おーろーせー!!」


「ピィ!」


「あ、おはようあさひ。ねぇ、覚えてるかい今日で彼らが来てちょうど一年が経つんだよ、びっくりだよね」


そう言ったのは兄の旭で、彼は白っぽい金の短髪で、精悍な顔立ち、濃い青の瞳に、細くもがっしりとした体を持つ、まさにイケメンである。身長は百八十もある。

「あら、一年も経つのね。この光景に慣れてしまった自分を褒めてあげたいわ」


「最近じゃ翔くんを一日一回吊り下げるのがピィの日課になってるからね」


「ふざけんなぁ‼︎」


と、騒いでいるのは、鎖ヶ丘家で家事をこなしているヤンキーこと旭川翔君だ、彼は金髪に染めた短髪に刈り込みを入れており、まさにヤンキーといった感じ、目は日本人らしく黒だ、筋トレを毎日欠かさずやっているらしく、結構むきむきである、ただ着痩せするタイプのようで、ぱっと見わからない。身長は高く今年で2メートルに届きそうとかいっていた。

実は彼、この一年の間に一度実家に帰り、家族の死を目の当たりにした。最初はモノも言えないほどふさぎ込んでいたが、今ではだいぶ吹っ切れている。


「今日のご飯は?」


「翔くんだよ、いつも通り美味しいよ」


「あら、作った後に吊るされたの。お気の毒ね。それにしても、彼がこんなに料理が上手だって知った時は驚いたわよね」


「そうだねぇ。兄弟が多かったから自分も手伝わないといけなかったから、だっけ?」


「そうだったわ」


「うーん。今更だけど、人は見かけによらないよねぇ」


「そうねぇ」


「ファムは?」


「私の影の中」


「慣れたねぇ、それも。最初はすごい驚いてたのに」


「流石になれるわよ、毎日私の影の中で寝てるんだもの」


「それもそうだねぇ」


「ほのぼのしてないで助けてくれませんかねぇ⁉︎」


「翔くんも丸くなったよね」


「そうね、態度は変わらないけど口調が少し丁寧になったわ」


「口調といえばファムもだよね」


「そうね、最初は単語ごとに切ってたけど最近は繋げて言えるもの」


「まだ片言だけどねぇ」


「それでも進歩よ、一年だものなかなか変化があったものよ」


「そうだねぇ。あ、そうだ!」


「どうしたの?」


「今日、高校の新入生親睦会ってあるでしょ?」


「ええ、あるわよ。あるにはあるけどわざわざ遠くに行ってドッチボールは訳が分からないわ」


「ま、まぁいいじゃないか、楽しそうだし。お弁当も翔くんが作ってくれてたよ」


「まあ、楽しそうだからいいのだけれどね、翔、お弁当ありがと、貴方はもう立派な家政夫よ」


「誰が家政夫だこの野郎どういたしまして‼︎」


「荒れてるわねぇ」


「誰のせいだこんちくしょう‼︎」


「ピィ?」


ピィはメジロのような上半身に大きな蜘蛛の下半身を持っており機動性がヤバイ、大体両手に乗るサイズ。


「お前だよ‼︎こら!分からないふりするな!わかってるだろうが‼︎」


と、賑やかなリビングであさひが朝食をとっていると。


「ン、アサカラサワガシイ、モウスコシシズカニシロ」


「あら、おはようフーちゃん」


「ン、オハヨウ、アサヒ」


「おはよう、ファム」


「オハヨウ、アサヒ」


「ファムはぼくらを呼ぶ時以外区別つかないよね」


「確かにね、まぁいいんじゃない?」


ファートゥムは以前言った通り、変わりはない、しかし、一年の間で色々と発見があった。親しいものの影の中に潜り込めたり、黒い触手のようなものをローブの中から出したりなど、完全に物理さんを殺しにかかるようなものではあったが。


「そうだね、ああ、それはそうとさっきの続きだ」


「ああ、そうだったね。忘れてたわ」


「僕が職場体験の先生として君の学校に行くことになってね。ちょうど一年生の担当になってね、ついていくことになったよ」


「ええ、お兄ちゃんが?くるの?」


「嬉しいだろう?」


「そんなに嬉しくないわ、唐突だし。友達に見られるのが恥ずかしいわ」


「ええ、それはさみしいなぁ」


「っていうかもう決定なんでしょう?じゃあもうどうしょうもないじゃない」


「すいません」


「別に謝らなくてもいいの」


「お二人とも学校遅れますよ」


「「あ」」


「いそげいそげ!あと五分しかない」


「なんでもっと早く言わないのよ!」


「いやぁ、楽しそうに話してたんで邪魔しちゃ悪いかなと思いまして」


「ああ、急いで急いで、翔くん怒るのは帰ってからでもできるから」


そんなバタバタとした鎖ヶ丘家の朝である


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