かくて少女は怪物を従え、ヤンキーは少女兄によって完全にフラグを折られる
〜〜林の中〜〜
「チッチャイノ、ハジメテ、ミタ」
怪物は少女を見つめ動かない
「ひいっ!」
「?」
「な、なんだ?いきなり殺しにくるんじゃ無いのか?」
「そう、みたいね。」
「チッチャイノ、ワカラナイ、デモ、ニンゲン、コロス」
「ひっ、やっぱりそうなるのか!」
すると突然、震えた声で
「コロス、イタイ、ナラナイ、オナカヘル、ナラナイ」
と、怪物が言い出した。
「はあっ?なに言ってんだこいつ」
瞬間
「ぐあっ!」
一瞬で目の前に現れた怪物がヤンキーの足を掴み宙吊りにしてしまった。
もちろん少女は地面に落とされてしまう。
「イタッ!」
「コロス、コロス!コロス‼︎」
何かに怯えるようにそう言う怪物。
先程はなにも持っていなかったはずの手は、一つ一つの指をいく束もの凶刃に変え今にもヤンキーを切り刻もうとしてる。
「うわぁっ!やめろっ!やめろぉっ!」
その刃がヤンキーに届こうとしたその時、
「やめてっ!」
その言葉で怪物の動きはピタリと止まった。
「殺しちゃダメだよっ!殺すのは悪い事だよ!しちゃだめなことだよ!」
少女は涙ながらにそう訴える。
「おまえ、俺のためにそんな…」
「コロス、ワルイコト?」
「そうだよ!しちゃだめなことだよ!」
「ヤッテハ、イケナイ?」
「うん。」
「デモ、イタイ、サレル、オナカ、ヘル、ヨ?」
「それは、なんで?」
「マエ、イタトコロ、コロス、イイコト、アルジサマ、ウマクデキナイ、オレ、オコッタ、イタイコト、サレタ、アレ、イヤダ」
「…!」
「イッカイ、ミツケラレナイ、アッタ、コロスデキナイ、モドッタラ、イタイ、サレタ、ズット、オナカヘル、ダッタ」
「じゃあ、今回は私たちを殺しに来たの?」
「チガウ、アソコ、カベ、アッタ、ニンゲン、ドコカカラ、キテタ、デモ、コワレテ、ニンゲン、ニゲタ、オイカケタラ、カエル、ワカラナイ、デモ、ニゲル、ソシタラ、アルジサマ、イタイ、デキ、ナ……
アレ?コロス、シナクテ、イイ?」
「なるほどなぁ、おいおいおい、どっかで殺人ショーでもやってんのか?世も末だな。」
「ねぇ、あなた、もう誰もあなたに痛いことはしないわ、それにお腹が減ってもすぐにそれは無くなるわ。」
「……ホントウ?モウ、ナイ?」
「ええ、本当よ、だからその人を下ろしてあげて。」
「ワカッタ」
すると、怪物は男を握る手を離した。
だいぶ上で。逆さまの状態で。もちろん離されたヤンキーは自然落下し、
「グフォッ!」
地面に叩きつけられた。
「あ、死んだ?」
「しんで、ない、わぁ…」
「ヨカッタ」
「そうね」
「よかねぇよ、クッソいてぇな!こら!」
「ごめんね、ヤンキー」
「ゴメン、ヤンキー。」
「やかましい!ってかこらデカブツおまえなんでそんな言葉知ってやがる!明らかに語彙足りない系だろうがおまえ!」
「あら、粗暴なヤンキーがそれを言うのかしら。」
「ソボウ?ナ、ヤンキー、ガ、ソレヲ、ユウノカシ?」
「あら、上手に言えるじゃない。そうね、こう言ってあげなさい、ゴニョゴニョ……」
「チッ、なんだよ、復唱してるだけか。」
「ロクデナシー、ニンゲン、ノ?クズー」
「やかましいわぁ‼︎お前も何教えてやがる‼︎」
「きゃあ、ろくでなしな人間の屑が怒ったわ、逃げるわよ。」
「ン、ニゲル」
「まちやがれぇ!」
「もうっ、わたしを運んでた時より早いじゃない、本当は足怪我してないんじゃないの?」
「サッキ、ナオシタ、コロス、ダメ、ダカラ?」
「あら、そんなことできるの?偉いわ。でも追いつかれそうだから何てことを、って気分ね。」
「コロス?」
「私の言ったこと聞いてたかしら?」
「キケン、ハイジョ?」
「なるほど、それもそうね。でも殺さなくていいわ。あなた、私を肩に乗せてくれる?」
「ワカッタ」
「あ!ズリィぞこらぁ!」
「アハハハハ、さあ、逃げるのよ。」
「ン」
「こらぁ‼︎‼︎」
そんなこんなで、三十分ほどこの鬼ごっこは続いた。
「さて、ここからどうするかね。」
「お前やっぱり殺してやろうか。」
「コロス、ダメ、ダヨ?」
「お前が言えたことじゃねぇだろ‼︎‼︎」
「はあ、話が脱線するからそこらへんにしといて。」
「しゃあねぇなぁ、さっさとしろよ。」
「……せっかく助けてあげたのに、殺してもらおうかしら。」
「ン?コロス?」
「やめろや!というかアレだ、お前俺が殺されそうになった時泣いてやめろって言ってたじゃねぇか、他のやつは囮にとか言ってたくせに。なんだ?本当は惚れてたか?」
「うっ、恥ずかしいところを見られたわ。というか、あんたに惚れるわけないでしょ、あんた詰まる所悪役だからね。私があんなになってたのは、目の前で殺されそうになってたら、その、あの、やっぱりこわかったっていうか……」
「はっ、態度がでかくてもやっぱりお子ちゃまか。」
「お子ちゃまよ!まだ中学生よ!」
「ええ、マジかよ、近頃の中学生どんだけませてんだよ。」
「いや、たぶん私は特殊だと思うわよ。この性格もだいたい兄のせいね。」
「あ、そうなのか。」
「というか!さっさとこの後どうするか考えるわよ。」
「っていうかお兄さん何やったんだか。」
「コロス?」
「なんでだ⁉︎」
「はぁっ、話が進まないわ。」
「そんなこんなでやってきたのは我がお家。」
「なぁんでこうなったかな。」
「いいのよ。家にはお兄ちゃんしかいないし。」
「なんかアレだ、今更だが、さっきまで殺されそうだったしだいぶ殺伐とした感じだったんだが、よくこんなゆるい感じでいられるよな。」
「そうね、私はそれよりもお兄ちゃんにどう言えばいいか悩んでるわ、あなたなんかどう伝えてもただの悪役だもの。」
「はぁっ?このやろ、いや、うん。たしかにそうです、はい、反論のしようがないわ。」
一方家の中では、
「ヤバイ、いや、ヤバイだろ十二時過ぎてんのに妹が帰ってこない。どうしよう、どっかで事故にでもあったか?時間に巻き込まれたとか?」
兄の推察は意外と的を射ていた。
「どうしよう、警察か?警察に電話か?」
などと言っていると
ガチャッ
ドアの開く音がした。
「っ!朝日っ!朝日かぁっ⁉︎」
扉の前にいたのは、
「あ、……ただいま、お兄ちゃん。」
妹だった。
「よかったぁっ!かえってきたぁ!かえってこなあったあどぅしおーかともってあ゛ぁぁ」
「ちょっと!何泣いてんのよお兄ちゃん。確かに心配かけたけど、もう大学生でしょ、やめてよ恥ずかしい。」
「いや、だってぇ、何か事件に巻き込まれてるんじゃないかって心配で心配で。」
「あー、うん、そのね、お兄ちゃん。」
「ん?」
「事件に巻き込まれました。」
「はぁっ?」
「というか結構危ないところでした。」
「え?あ、ええ?それで、どうなったの?逃げてきたの?」
「ええっと実はその、―
―ということでして。」
「で、このヤンキーと、怪物を我が家まで連れてきたと。」
「ごめんなさい!ヤンキーはどうでもよかったんだけど、この子はなんかこう、常識を知らないだけのかわいそうな子なんです。だから可哀想で、お願いです、お兄ちゃん。餌もあげるし散歩もするから飼っていい?」
「クゥン」
「ええい、三文芝居め!犬じゃないんだ!そんな危ないやつうちに置いておけるかって言いたいところだけどこのフォルムと経歴がお兄ちゃん的にどストライクでカッコいい!飼ってよぉし‼︎‼︎」
「いよっしゃあ‼︎」
「ヨッシャア」
「アレだなかっこいい名前とかつけないとな‼︎」
「そうだね、お兄ちゃんが候補をつくって私が選ぶのはどう?お兄ちゃんネームセンスいいし。」
「よし、それだ!」
「それだじゃ、ねぇ!!何⁉︎忘れられたの?今の一瞬で⁉︎」
「やかましい!犯罪者に人権はない。聞いた感じ悪役だけどそれほど悪いやつじゃあなさそうだから許す!可哀想だし!家族がいないんならうちで働きなさい‼︎」
「ありがとうございましたっ‼︎」
「……ハナシガ、ハヤイ、ネ?」
「そうだな、あのお兄さんがいるだけでテンポが全く違うな。しかもいい人だし。」
「ン、イイヒト、ヤンキー、ハ、ロクデナシ」
「ヤカマシイ」
「おーい、ヤンキー君」
「あ、はーい」
「カリテキタ」
「猫じゃねぇよ」
「ヤンキー君、聞きたいことがある。」
「はっ、はい。」
「妹とフラグが立ったと思った?」
「……」
「……」
「…はい」
「ないです。」
「え?」
「あり得ないです。」
「は、はあ。」
「まず前提条件として妹を襲おうとしていた時点でないです。そこでフラグがKrush‼︎してます。」
「はい」
「男ならそう考えたいのもわかります。僕だって考えます。でもないです。客観的に見れば見るほど無いです。」
「はい、分かってます。妹さんにも言われました。」
「だろうね、この手の知識を彼女に教えたのは僕だからね。」
「はい、聞きました。」
「ああ、そうなんだ。まあいいや。この話は妹にもしました。ところで意味での自分を振り返ってフラグが立つと思う?どう思う?」
「…ないなぁって。」
「うん妹もそう言ってた。」
「あとアレです。妹さんは可愛いと思うけど、俺はお姉さん系の人がタイプなんで。」
「ならなおさらよかったよ。」
「……」
「……」
「「ははははははははははははは」」
「二人して何笑ってんの?正直気持ち悪いよ。」
「キモイ?」
「「ぐふっ」」
「シンダ?」
「心配しなくていいわ、ただのアホよ。」