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ディアーナの消息いずこ  作者: 倒錯一代ヒューマン
7/10

第5節:「エンカウント」

なかなか書けなかったので、第6節および第7節を先に投稿いたしました。 第5~7節に関してはストーリー上の前後関係は一切ありませんので、お好きな順に読んでいただいて構いません。

この節は以前の節の倍ほどの長さがあります。すごいだろ。

 「探せさがさが探さにゃならぬ、探さにゃ今夜の飯がない~。」

 何を探しているのかといえばボクを匿ってくれる善き方々。そしてこれは文部省唱歌『茶摘み(ティーツミー)』のメロディ。陽気な歌でも歌ってないとやってられない。だってそうだろう? ほんの数分前くらい(思い出せないけど)までは、ボクは一介の木材に過ぎなかったんだ! だけど今ではこう、得体の知れない田舎道に(ディアーナだっけか)放り出されて。もはや今の自分が木材なのか人間なのか、それすらもわからない! 


  (降霊)


 しかし、それは突然のことであった。

 どこからともなくというわけではないが、どこからともなくえげつない熱線が到来し、ボクの目の端は白く焦げた。ボクの心臓は一拍跳躍した。戦闘ビジョン! ボクは焦げた目を凝らす。

 ああ、そこに! そこに! それは確かに存在した! 赤がいた、装飾的な真紅の衣に包まれて! 長い髪を纏めることもせず、ふわふわりと気流に浮かぶさまはまるで揚がらぬ凧のよう。ふふ、まさに一年の始まりにふさわしい! ボクは俄かに、羽子板の墨汁で彼女を染めてしまいたい、暗い欲望に囚われた。独楽回しは上手くても、間違いなく羽子板だけは苦手とするに違いない、そんな気がした。

 ポン! 除夜の鐘(煩悩)が鳴った、愛欲の夜(百八の享楽)が来た! 真紅の衣は各々分化し、アグレッシブな長槍(スタッフ)へと変化した。戦闘ビジョン! ボクはそれでも存在した。これは言うなればある種の紅白歌合戦なのだ。


 突然戦闘を仕掛けられたにしては、この主人公は異様に冷静だった。しかもどこか、年末特番を楽しむかのような余裕すら感じ取れた。ブドウ畑にはストロボが焚かれ、高輝度LEDたちは国民的演歌歌手を過剰にメークアップした。

 しかし歌われるは牧歌(パストラル)! 真の戦いは主人公と赤ではなく、戦闘とブドウとの間に介在する! ワインとなる運命を背負ったブドウは重い! よってブドウは容赦なく主人公のもとに立ちふさがる!

 「否! Vitaceaeの傀儡たちよ! あなたがたなど、せいぜい焼け落ちてしまえばいいわ!」

 一点突破! 嗚呼、牧歌カタストロフィ! 赤き少女の長槍は忽ちにして牧歌をボッカボッカに穿つ。ボッカボッカボッカボッカ! ボッカボッカボッカボッカ! 後に残るは炭の薄片のみだ。牧歌の破壊により、戦闘構図はより単純に、より過激にメタモルフォーゼした。

 「面白くなってきたなあ?」

 と言って主人公はニッコリした。何も持たない人間である主人公は、それでありながら強力だった。主人公の意識の届く隙あらば、直ちにフニョリと事実は曲がる。

 「フニョリ」

 「フニョリ」

 「フニョフニョリ」

 「あれっ?」

 これは危機、直ちにフニョリと事実は曲がらない! 主人公は、ある物語の根幹にかかわる設定事項を失念していた!

 「これは迂闊だった。」

 と言って主人公はションボリした。ションボリで済むと思ってんのかこいつ、こっちの命も懸ってんだぞもっと真剣にやれ。大体主人公が死んだら私は一体――――


 「死にませんよ、彼は。」


 なんだと


 「これ、ただの遊び、冗談ですもの。」






 「「なんだ、もう飽きたんですか。」」

 「そうよ。」

 「「まったく、最初に熱線飛ばされたときは死ぬかと思いましたよ。」

 遊びとはいえ本気でビビッてしまった自分を隠すため、僕はちょっと大げさに言ってやった。」

 「ふふふ、ごめんなさいね。」

 「そう言う彼女の瞳は本当に楽しげで、なんだか僕が置いて行かれているようにも感じられた。「ごめんなさいって……そんな紛らわしいことしないでくださいよう……心臓に悪いですって。」」

 「でも、楽しかったでしょう?」

 「「ま……まあ……そう、ですね?」

 確かに、楽しくないと言ったら嘘になるかもしれないが。」

 「いえ、別に強いているわけではないのよ。ところで――」

 「赤い少女は急に改まった表情になった。」

 「ごめんなさい、私の名前をまだ明かしていなかったわね。私は というの。この近所の山の奥のほうに住んでいるのだけど。よろしくお願いね。」

 「「えっ――あ、はい……僕は、橋掛(はしがけ) 渡月(とげつ)と申しまして、その、不束者ですが――」」

 「そんな、そんな畏まることもないのよ。お会いできてうれしく思うわ。」

 「言うや否や彼女は僕に思い切りハグしてきて、今度こそ心臓が一拍空振りした。なんて積極的なんだ(単に初対面の人とハグをする文化圏なだけかもしれないが)。

 「うわっ、ちょっと、急に抱きつかないでくださいよ。」」

 「ふふふ、こうやって触ってみると、あなた本当に男の方なのね。」

 「今更かよ。でもこうやって直接伝えられるのは恥ずかしい。それどころか、女装している理由を問われれば面倒なことになる。面倒なので、

 「バレましたかー。」

 と冗談っぽく流してその場を切り抜けることにした。」

 「うすうす感づいてはいたけれど。――ところで、あちらで倒れている方、どなたかご存じ?」

 「女装の話題から逸れたので安心かと思いきや、急に不穏っぽい話に振られた。あちらに人が倒れてるなんてそんな馬鹿な話、と思ったら確かにいたので驚いた。ちょっと仰々しい格好をした若い女性である。その姿かたちにまったく見覚えはなく、名前も知る由はないのだが、それは間違いなくボク自身でもあった。

 「――――知りません。顔も、名前も。」

 だから、この答えは完全なる本心からのものだった。それを聞くと赤い少女はふと微笑んだ。」

 「私、彼女のことを『エトランゼー(異邦人)』と呼ばせてもらおうかと思うの。彼女もそれで、きっと満足すると思うから……。だから、あなたもどうか、彼女のことをそう呼んでくださる?」

 「「はい……もちろん。」

 『エトランゼー(異邦人)』――それは、ずいぶんと見知らぬ名前だった。




 夕方、僕は少女の邸宅に上がり込んだ。いわば居候だ。もちろん『エトランゼー』も一緒である。」

お嬢様キャラクターを書きたかった それだけだ


折角考えた設定を眠らせたままにしておくのは勿体ないので、この節でちょっと放出してみました。途中のエトランゼーというワードはフランス語ですが、英語でいうとstrangerです。カミュ要素はありません。もちろん今後も、ちゃんとした哲学思想は出てきません。勉強したくないし。

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