第4節:小春日和
秋は晩秋、白ブドウの収穫期は終わり黒ブドウの収穫期も後半に差し掛かる。遠き山は紅く色づき、近き山は黄色に色づく。
小春日和のうららかな午後。あるキャラクターがここオフィール市の土を踏んだ。瞬間テレポートによって。
音の情景。パッ、ドサッ、など。
「………………!!!!!」
そのキャラクターの混乱の大きさたるや! もし全国混乱見本市なんてものがあったとしたら展示確定という程のものだった。そして国語辞典で『混乱』という項目の隣に掲載確定という程のものだった。オフィール特有の黒い土が、顔面をはじめ様々な部位に付着していた。しかし、実のところを言うと、そのキャラクターはこの物語の主人公である。まごうことなき。身長は高くも低くもない。
黄金色の秋風は「そよそよそよ」とわめきつつ、主人公の白き柔肌、あるいはピアノ色の髪、あるいはそこに付着している土壌をかき回す。黒髪の向こう側にある長い睫毛のそのまた向こう側からは切れ長(むろん縦長ではなく横長)の双眸が覗き、限りなくクロに近いグレーの瞳孔は不安げにひらき左右に動いたり動かなかったりしていた。気温は21度の小春日和である。
まあ、ここまで書けば言いたいことはわかるだろう。この物語の主人公の容貌については、『中性的』などという陳腐な形容がちょうど良く似合っていたのだ。しかも着る衣服までもが、男女どちらともつかぬ半端なスタイルだった。そして、これらの事実を鑑みるに、おおかたその心のほうもいささか中途半端で陳腐なものに違いないのであった。
「――誰が陳腐だ。」
あれ、聞こえていたかな? これはまずいぞ?
「――あれっ空耳かな。」
まずくなかった。やったー。
さて、陳腐な主人公は立ち上がり、土を払って辺りを見まわした。遠景。西を見ても山、東を見ても山。近景。未舗装道路。ブドウ畑。得体のしれない掘立て小屋。だから主人公は叫んだ。
「田舎!!!!!!」
「田舎!!(西の山に反射したやまびこ)」
「田舎!!(東の山に反射したやまびこ)」
すると、第一村人がマッハ3という高速で、主人公のもとへと移動してきた。
「誰が田舎だてめえ金出せ金ちなみに私の名前は斎藤ミルクマンです人は名乗るものユアネーム」
「あ??????これが僕の名前だオルァ」
「ヒョエー」
別に主人公は美形設定ではありませんが、色気はムンムンあります(性癖の反映~リフレクション~)
あと展開に困ったら適当なキャラを作り出して無理やり幕を引かせるという地域に伝わる伝統ある悪習をやめるんだ。何がヒョエーだ。




