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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ルクレイツアの方舟

作者: どんC
掲載日:2018/03/24

「お父様お兄様……あ……いや……いや……いやあぁぁぁぁ‼」


 冷たくなった父親のほほに触る。

 厳しい人では、あった。でも愛されていると知っていた。

 血塗れの兄の亡骸を見た。

 優しい人だった。王妃教育に疲れていたら甘いお菓子を持ってきてくれた。


「太ってしまいますわ。お兄様は、私をおデブちゃんにするおつもりですか?」


「ルクレイツアは、少し太った方がいい。また痩せただろう」


 優しく微笑む兄の顔を覚えている。


「なんで……なんで……あぁぁぁぁ……」


 伯爵一家は帰路の途中で牛ほどもあるフェンリルと十匹のファイアーウルフに襲われた。

 父と兄と騎士団はファイアーウルフを倒して力尽きた。

 最後に残ったのは手傷を負ったフェンリルとジョゼフ。

 乳兄弟のジョセフは、彼女の侍従だ。

 ジョゼフはもうボロボロで立っているのも奇跡だ。

 フェンリルがゆらりと動く、ジョゼフは鉄線に魔力を通して操る。

 鉄線はフェンリルの躰に纏わりついてその動きを拘束する。

 しかし魔力が弱かったのか、フェンリルは鉄線を引きちぎる。

 ジョゼフは懐から魔道具を取り出すと腕ごとフェンリルの口に突っ込んだ。


 ドゴオォォォォォン!!


 ジョゼフの腕ごとフェンリルの頭が吹き飛んだ。


「ジョゼフ……」


 よろよろとジョゼフの側に駆け寄り、へたり込む。


 ジョゼフの腕が無い。

 フェンリルの頭と一緒に吹き飛んだのだ。

 酷い出血で誰の目にも助からないと分かる。


「なぜ?なぜ?痛いのも怖いのも嫌だって言ってたじゃない……」


 十年前、城の庭で剣の練習をしている王子を見ながらルクレイツアはジョゼフに尋ねる。


「もし私が魔物に襲われたらどうする?」


「えっ?もちろん逃げますよ。怖いのも痛いのも嫌ですから」


 ジョゼフは即答した。


「ルクレイツアの侍従は大した腰抜けだな。俺なら魔物を倒してルクレイツアを助ける。弱きものを助けるのは王族の務めだ」


 ジョルダン王子は胸を張ってそう答えた。

 十年前の事なのに鮮明に覚えている。

 逃げると言った侍従と戦うと言った王子。


「噓つきね……」


 ジョゼフはいつも優しい噓をつき道化を演じる。

 王子を引き立てるために。

 己の恋心を隠すために。

 いつもニコニコとしていた彼の顔が何時からか変わる。

 

 あの男爵令嬢が婚約者ジョルダンに近付いた頃から、心配顔がへばりついた。

 そして彼の悪い予感は的中した。


「なぜ?逃げなかったの?あなただけなら逃げおおせたでしょう。幼い時からいつも見守っていてくれた。目を開けて……お願いよ……一人にしないで……置いていかないで……」


 ジョゼフの血塗れの身体を抱きしめる。


 彼女は天に向かって叫ぶ。


 ぶつり


 全てを失い。


 彼女の中で何かが切れた。


 ジョゼフの亡骸を抱きしめた彼女の身体が光り輝く。


 眩い光に包まれて。


 彼女は、聖女となった。




 *****   *****   *****   *****




「ここは、辺境の聖女様が、いらっしゃるダンジョンでしょうか?」


 薄汚れてはいるが立派な鎧を着た王族騎士団長が、一人の神官に尋ねた。


「はい。ここは、ルクレイツア様のダンジョンです。またの名を方舟ともいいます」


「あの障気の中を大変だったでしょう」


 別の神官が労う。


 砂漠を越えた岩山の細いトンネルをくぐった所に泉と大木と小さな女神様の神殿があった。

 かなり広い草原だ。

 すでに数千の人々が居る。

 あちこちにテントが張られて休んでいる。

 方舟に入るための順番待ちの者達だ。

 難民キャンプのような絶望はそこには無かった。


「あちらに食事をご用意しております。どうぞお寛ぎ下さい。アンバー国が最後の様ですね。もう他の国の方は、ほとんど方舟の中に入られました」


「ケガをした人や病気の人はこちらに来てください。あちらの医療テントに案内します」


 見習い神官達がケガ人や病気の者を連れていく。

 酷い有り様だ。

 アンバー国の半分以上が、半死半病人だ。

 他の国はこれ程酷くない。

 我知らずに神官見習の少年は眉をひそめた。

 おそらく平民や奴隷を集団の外側に配置して中に兵士。中心に王族・貴族で移動して来たのだろ う。

 瘴気も酷いこのままでは生きながらゾンビになってしまう。


 神官達の回りを幾つもの光が、飛び回っている。

 精霊だ。女神に仕える者たち。

 まるで宗教絵画のようだ。

 幻想的で美しい、信者なら思わずひざまずいて女神様に感謝する事だろう。

 普通精霊は特別な力を持つ者以外見えない。

 いかにここが聖域で、女神様の力が強いかを証明している。

 彼らより先に到着していた平民の一団が、身に纏っていたものを脱いで泉に入っていく。

 神官見習いの少年達が鎧を精霊たちに渡すと、精霊達は鎧をゴミ山に運んで棄てている。

 精霊たちはせっせと服やら靴やら武器やらその他もろもろをゴミ山に捨てる。

 平民の一団は身を清めた。

 それから数人の神官見習い達が、身を清めた人々に白い巻頭衣を渡している。

 着替え終わった二十人が、神殿の中にあるダンジョンに入っていった。

 また別の一団が服を脱ぎ身を浄める。

 長い列だ。多分隣のマラカイト国の民だろう。

 貴族や王族は、見当たらないから傭兵を雇ったのか?

 それとも冒険者が先導したのか?

 まさか皆で協力してきたのか?


「あれは、何をしているのですか?」


「ああ。身を清めているのです。泉の水は、聖女様に浄化していただいているので汚染された物を捨て身を清めていただいております。障気に汚染された物は、持ち込めません」


「剣や防具もですか?」


「はい。全て捨て去って大丈夫です。生活に必要な物は、全てこちらで取り揃えております」


「それにダンジョンの中は安全です。危険な魔物もいません」


 神官見習いの少年が「次の方の準備が出来ました。女性はあちらの垂れ幕から入って下さい」と他のグループを案内する。


「本当にここは聖女ルクレイツア様のダンジョンなのですね」


 王族騎士団長ジャマス・スールは安堵のため息をついた。


 聖女様のダンジョンは四ヶ国の国境付近にあり。

 アンバー帝国の王都が一番遠いのだ。

 ここまで民を引き連れて来た。

 民の数は半分までに減っていた。

 兵の数も同じだ。多くの民族と兵の命をすり減らした過酷な旅。

 旅の途中で魔物と戦闘、それだけならまだしも…


「ジャマス!! 何をグズグズしているの!! さっさと中に入るわよ!!」


「恐れ入りますが、順番がございます。お呼びするまでしばらくお待ちください」


 神官は頭を下げた。


「何を言っているの!! 私は聖女よ!! さっさと案内しなさい!!」


「………」


 神官は、キョトンとしている。

 ジャマス親衛隊長は、苦虫を噛み潰した顔をしていた。


「あのこの方は?」


「マリアンナ‼ 下がりなさい‼」


「だって貴方‼ 私が本物の聖女よ‼」


「止さないか‼」


「お妃様。お疲れなのですね。しばらく木陰で休まれたらいかがですか?」


 親衛隊長は、お妃の侍女を呼んだ。

 侍女三人が、喚く女を連れていった。


「すまないね。妻はこの旅で子供を亡くして…少しおかしくなったんだ」


「お気の毒に…この聖地が、お妃様の心を癒してくれるでしょう」


「少しいいか?」


「はいなんでしょう?」


「ここの聖女はルクレイツアというのか?」


「はい。聖女ルクレイツア様です」


「もしかしてルクレイツア・オラス・ノアといって、私の国の者ではないか?」


「それは分かりません。聖女様は、御自分の事はなにも語られませんので」


「そうか。聖女に挨拶したいのだが」


「聖女様は大変お忙しくダンジョンに入られた後にもお会いできるか分かりません」


「きさまこの方をどなたと心得る‼」


「ここは、ルクレイツ様のダンジョンです。神の前では皆平等です。ダンジョンに入る前に御身分はお捨て下さい」


「なんと無礼な‼」


「このダンジョンは、一七ヵ国の人間がいます。敵国で殺し合った者もいれば、奴隷として虐げられていた者、無実の罪で苦しめられていた者もいます。全ての怨みは泉で洗い流して新しく生まれ変わってから方舟に入っていただきます」


「宗教儀式か?」


「そうとって頂いても構いません。ルクレイツア様のご指示でございます」


 神官は、頭を下げると次に到着したアンバーの民の一団に向かった。


「どう思う?」


「やはり陛下の元婚約者のルクレイツア様ではないかと思われます」


「そちもそう思うか?気まずいな。生きていたのか」


 二十年前ルクレイツアは王の婚約者だった。

 なぜ?あんなことになったのか?

 もっと穏やかなやり方は無かったのか?

 今でも後悔している。


「しかし、取り入るチャンスでは有ります」


「取り入れると思うか?」


「ルクレイツア様は陛下に夢中でした。今でもきっとそうです」


 いつの間にか四人の人物が、王の側にやって来た。

 首相のヨハン・バンス伯爵、魔導師のトミー・オレン、神官のアザー・サミン、将軍のレオライナー・ワイザ。

 アンバー帝国の重鎮ばかりだ。


 彼らの脳裏に二十年前の事が思い出された。

 あれはアンバー帝国学園の卒業パーティーの日。


「私ジョルダン・カメラハン・アンバーは、ルクレイツア・オラス・ノア辺境伯令嬢との婚約を破棄する」


「な…何故でございますか?ジョルダン殿下?」


「何故だと申すか‼ お前が嫉妬に狂い、私の最愛のマリアンナに暗殺者を差し向けた事はすでに露見している‼」


「はっ?」


「暗殺者も捕らえられ、そなたの指示だと白状している」


「そんな馬鹿な‼ 私には全く身に覚えがございません‼」


「もうよせ‼ ルクレイツア‼ 」


「お父様…」


「ジョルダン王太子殿下。娘との婚約破棄賜りました」


「不祥事を起こした妹は、私共の領地にある精霊修道院に送る事にしましょう」


「お兄様‼」


「そして私共は、財務大臣の職を返上いたします。息子共々辺境に帰ります」


「皆様。せっかくの卒業パーティーお騒がせして申し訳ない。我らは失礼するが皆様はパーティーを楽しんで下さい」


 父親と兄は、ルクレイツアを連れてパーティー会場を後にした。

 その後のパーティー会場は、蜂の巣をつついたような騒がしさとなった。

 各国の有力者の子弟が、留学しているのだ。

 皇太子の婚約破棄‼ 財務大臣の辞職‼ 凄いニュースだ‼ 


 その後に続いたニュースは、辺境に帰還途中にノア一行が、魔物に襲われ全滅したというものだった。

 オマケに隣の国に外交に出ていたアンバー王と王妃の船が沈み、二人とも帰らぬ人となった。


 呪われている。


 正直王太子はそう思った。

 ノア一族の代わりに他の貴族(マリアンナの父親)を辺境に据えた。

 だが彼は魔物のスタンピードに続き、押し寄せる障気で帰らぬ人となった。

 死体は障気に触れるとゾンビになるのだ。

 ゾンビとなったマリアンナの父親や辺境の人々を見てジョルダンはゾッとした。

 すぐさま魔法師団に焼き払わせた。


 辺境は滅んだ。


 そして魔物から国を守っていた盾は失われた。


 それが破滅への片道切符だった。


 他の国も似たような被害はある。

 しかし人民、貴族が一丸となって乗り越えていた。

 それに比べて我が国はどうだ。

 大陸第二の強国のはずが…

 王妃の口出しのせいで事態は最悪になっていく。

 打つ手打つ手全てが、悪手に変わる‼

 なぜこんな事になった?


 聖女…そう彼女は聖女に選ばれたはずだ。

 あれは嘘だったのか?

 あの女は、聖女処か疫病神じゃないか?

 この旅で一人息子は死んだ。

 平凡な子供だった。

 あの女はもう子は産めまい。


 捨て時か……


 王の中に彼女への愛は…もう無い。


 その夜テントの中に自国の神官を招いて王は尋ねた。


「なぜルクレイツアが聖女なんだ?マリアンナが聖女ではないのか?」


「処女を失えば聖女力は次の聖女に引き渡されます。マリアンナ様は聖女の力を発現する前に聖女の力を無くしたのです」


「つまり結婚前にすでに処女ではなかった」


 ギリリ…


 王が、彼女を抱いたのは、卒業パーティーから一年後の結婚式の夜だ。王の胸に疑惑が湧く。

 息子は果たして俺の子なのか?


「ルクレイツア様が巫女として覚醒なさったのは王都を出て一週間後。神殿に新たな巫女誕生の神託が下りました。しかし巫女の居場所は二十年間伏せられ、一部の神官だけが巫女様に仕える事を許され、このダンジョンが準備されてきました」


「そもそも方舟とはなんだ?」


「昔地上に障気と魔物が、溢れ出した時。女神は方舟に人々を避難させ地上の浄化を計るのです。女神は聖女を一人選び方舟の管理を任せます。方舟の管理は大変な事です。女神は聖女の願いを一つだけ叶えてくれるそうです」


「望みを?何でも?」


「はい。それこそ国を作る事でも、永遠の美貌と命でも。前の聖女様は、滅んだ国を復興させました。それが我が祖国アンバーです」


「良いことを聞きましたね」


「国の復興か?」


「いずれ方舟を出る事になるでしょう」


「その時に巫女に国の復興を望ませましょう」


「今度は、城を三倍大きく作らせましょう」


 取らぬタヌキの皮算用をする者達に呆れる老神官。

 前の聖女達は、方舟の中に百年いたが……

 今度は何年かかるやら…

 王妃が、全く浄化しなかったために、前の方舟の時より三倍被害が出ているのだ。

 願いは方舟の聖女となった時に契約は成立するのだ。

 彼等の願いは聞き届けられない。


「はい。順番待ち。お疲れ様です。アンバー国の方は最後です」


「ずいぶん待たされたわ」


 王妃が文句を言う。


「こちらです。女性の方は、垂れ幕の方で体を浄めてください。男性はこっちで身に付けた物は、全て棄ててください」


「ちょっと私は王妃なのよ‼ この首飾りやアクセサリーを何で捨てなきゃならないのよ‼」


 宝石箱を抱き締めて、マリアンナは喚いた。

 侍女や女護衛騎士は呆れ果て、さっさと身に付けた物を渡すと身を清めて、神殿に行ってしまった。


「ちょつとあんた達待ちなさい‼」


 回りの女性達子供達は、どんどん王妃を無視して行ってしまった。

 もうウンザリだった。

 旅の途中わめきたてる王妃の声を聞くのもその浅ましい姿を見るのも。女神様の前ではみな平等。王も王妃も貴族も平民も奴隷もないのだ。だからあの女の命令を聞く必要はない。



 気が付くとマリアンナは一人だけ取り残されていた。


「冗談じゃないわ‼」


 しかしマリアンナは、その身に付けた宝石類も衣装も宝石箱も捨てはしなかった。

 それどころかゴミ山を漁り出した。


「あら。これアジュライト国の国宝の【女神の涙】じゃない‼ バッカじゃないの、国宝を捨てるなんて‼ 私が貰ってあげましょう」


 マリアンナは宝石箱に首飾りをしまった。

 王妃は、首飾りを盗んだ。

 おまけに王妃は、泉の水で身を清めることもせず神殿に向かった。


 神殿には、一人もいなかった。


「おかしいわね。誰も居ないの?」


 もう皆祭壇の地下にあるダンジョンの入り口に向かったようだ。

 彼女は、慌ててダンジョンの入り口に入った。


 ガシャン‼


 ダンジョンの入り口が、重々しく閉まる。

 ギリギリだったようだ。

 女神の浄化が始まるのだ。


「皆は何処に行ったのかしら?」


 王妃は迷路の様なダンジョンの中を歩く。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「マリアンナは?」


「あ…人が多くてはぐれた様ですね」


「侍女はどこだ?護衛騎士のアビーは?」


 人々は精霊の導きで、各居住区に向かっている。

 みんな白い貫頭衣とサンダルで区別がつきにくい。


 ── 貴方達は、こっちだよ ──


 可愛らしい妖精が王と五人の重鎮を案内する。


「可愛らしいですね」


「まさかこの目で妖精を見れるとは、長生きするもんですな」


「所で何処に行くんだい?」


 ── 呼んでいるの ──


「呼んでいる?誰が?」


 ── 聖女様 ──


「何の用で?」


 ── お話が、あるんだって ──


 彼らが連れて来られたのは、謁見の間だった。

 色とりどりの精霊が、飛び回っている。

 そこに聖女はいた。

 二十年前と変わらぬその姿。

 若く美しく彼女こそが女神様だと言われれば誰もが頷くであろう。


『お前達が連れてきた女が穢れを持ち込んだ!!』


 だが彼女の声はとても冷たいものだった。


「マリアンナが‼」


『あの女は、汚染されたドレスを纏い。泉で身を浄める処か‼ 呪われた首飾りまでもこの方舟に持ち込んだ!!』


 ── 化け物が来たよ‼ ──


 ── わ~ん‼怖いよ‼ ──


 ── 聖女様をお守りするんだ‼ ──


 ずるりっ


 空間が、歪み女が一人出てきた。


「あら貴方こんなとこにいたの~」


「ヒイッ‼ よるな化け物‼」


「?何を言っているの~?」


 マリアンナはかって取り巻きだった男達を見た。


「みんなもどっっ~~」


 マリアンナの声はそこで途切れた。


 床に写る自分の姿に気が付いたのだ。

 髪の毛は木の根っこの様に捻れ。

 膚はどす黒く死体のようだ。

 目は充血し口は耳まで裂け。

 欄食い歯が覗く。

 体はブクブクと膨れ上がり。手足は、七本ほど余計に生えている。


「な…なに…嘘よ…これは私じゃない…あんた…あんたが何かしたんでしょう…そうよ…私こそが…聖女なのよ…」


『汚物を消去します。汚物を消去します』


 ダンジョンを守護する精霊が光の剣を化け物に叩き込む。


「ぎゃああぁぁぁぁ‼」


『汚物を消去しました。汚物を消去しました』


 床に焦げあとを残してマリアンナは消えた。


『このダンジョンに来るまでに障気を浴びて貴方達は汚染されていました。でも聖なる泉に浸かる事により魔物化は避けられたのに…残念です』


「やはり君はルクレイツアなんだね」


 その男は妻だった者を切り捨ててルクレイツアに笑みを向けた。


 マリアンナの取り巻き達も愛想笑いを浮かべている。


『その名前に意味はありません。かっての私は死にました』


 王がルクレイツアの手を掴もうとしたが、するりとすりぬけた。

 彼らの前に居るのは、ルクレイツアの虚像だった。

 ルクレイツアの本体はダンジョンの最下層で水晶に包まれて眠っている。


『さあ用は済みました。精霊達に案内させます。居住区に帰りなさい』


「最後に聞かせてくれ。君は女神に何を望んだのか?」


『私が望んだのは家族を生き返らせる事です』


 無表情だった彼女の顔に微笑が浮かんだ。


 王と取り巻きは肩を落として居住区に帰っていった。


「ルクレイツア様お久しぶりです」


 アンバー王が、去った後に老神官が現れた。


『お久しぶりです。グレン神官長』


「いよいよ女神様の光の八日間が始まるのですね」


『はい。今回は前の時より汚染が酷く、早くとも百五十年遅ければ二百年かかるでしょう』


「そんなに…」


『ですから避難した人々の半分以上は眠りについてもらわなくてはいけないでしょう』


「このダンジョンは、食糧も家畜も海や川も山もありますが、流石にこれだけの難民を養えませんか」


 老神官はため息をついた。


『眠りにつく人々の選別をお願いします』


「分かりました。お任せください」


『グレン神官には無理を言ってすみません』


「いえ。これも全て我等教会の不手際が、原因ですから」



 老神官は疲れた笑みをこぼす。


『それでは私は眠りの間の拡張をします。それとダンジョンは後十階掘り進めましょう』


 今ダンジョンは五十階まで出来ている。

 五十階が聖女が水晶の中で眠る【聖女の間】である。

 まずアンバー国の国民を眠りにつかせよう。

 あの国民は一番汚染が酷い。

 下手をすれば生きたままゾンビに成りかねない。


「聖女様に神の祝福を」


 老神官はそう言うと頭を下げた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 二百年後

 人々はダンジョンから出てそれぞれの国を造った。

 後で人々が【ルクレイツアのダンジョン】を探したが誰も見つけることが出来なかった。

 聖女様は役目を終えた後どうしたのか?

 きっと女神様に愛する家族を生き返らせてもらって、幸せに暮らしているのだろう。

 と人々は噂した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 


「ルクレイツアここにいたのか?」

          

 ジョセフが子供部屋に入ってきた。


「ふふ…可愛いわ」


 揺り籠で眠る子供を見ながらルクレイツアは笑った。

 ルクレイツアとジョセフの子供は正に天使のようだ。

 女神は約束どおり父親と兄とジョセフを生き返らせてくれた。

 四人はとても幸せだ。

 いや子供も含めて五人か。


「お父様もお兄様も忙しいのね」


「ああ…各国の再建に飛び回っているよ」


 結界を張ったダンジョンには普通の人は入れない。

 精霊教会の聖域だからだ。

 このダンジョンには転移門があり、各国の王都の教会に転移できるのだ。

 神官達と彼女の父親と兄は、国の再建の為に転移門で飛び回っている。

 ルクレイツアとジョセフは子育てに忙しい。


「ばぶ ばぶ」


 紅葉のような可愛い手を振る我が子に微笑みながらルクレイツアは女神に感謝を捧げた。



  ~ Fin ~


*********************************

2018/3/31 『小説家になろう』  どんC


★ルクレツィア・オラス・ノア

方舟の聖女。元ジョルダン王太子の婚約者。


★ジョルダン・カメラハン・アンバー

現アンバー帝国。ルクレツィアの元婚約者。


★マリアンナ

アンバー帝国の王妃。


★ジャマス・スール

王族護衛


★グレン神官長

ルクレツィアの方舟の雑用係。苦労人。

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― 新着の感想 ―
[一言] テッド・チャン風ですかね
[気になる点] 一部の神官だけが巫女様に使える事を許され 仕える
[気になる点] ・見習い新幹線達がケガ人や病気の者を連れていく。 →見習い神官達 ・聖女が巫女になってるところがあります。 ・『ルクレイツ』、『ルクレツィア』、『ルクレイツア』と名前表記がバラバラ…
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