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影 ネオン街の星  作者: 蔵吉
3/5

growth

やると決めた俺は、誰よりも早く店に出勤して店のカギがあくまで店の前で待つ、カギが開いたらすぐにトイレ掃除に取り掛かる、同期の二人は売り上げがあるのでトイレ掃除はしない、しかも自分よりも後輩が入って着てるので、その後輩と一緒にトイレ掃除をしてる、しかしこの時の俺は後輩と一緒に掃除かよ、なんてそんなちっぽけなプライドなど、どうでもよくなっていた。

早く少しでも仕事のできるホストになって、和美に堂々と俺の存在を知ってほしいと思っていた。

営業中も積極的にお客様と話をした、怒られることの方が多いが、怒られた時の回避方法もだんだんとわかってきた。


やる気になって1週間ぐらいたったころ、ある人から営業中に声をかけられた、No2の鬼塚 武だった。俺はびっくりして今まで通りにオドオドしてしまっていた。

「お前さ零時だっけ?ちょっと俺の席に着いてくれよ」

No2の武さんに席に着いてくれと頼まれた、

「はい!すぐに行きます」

断れるわけもなく、すぐにグラスを持って席に向かった、武さんの席に向かう途中、

龍崎に

「気をつけろよお前、」

ただ武さんに失礼がないようにしろと、言われたのだと思った。

しかし違った。

鬼塚 武と言う男は金髪のロン毛で身長180センチを超える男、いかにもホストと言う感じだった。お客様にも冷たく、言う所のオラオラ系ホストってやつだった。新人にも冷たく若いホストからは恐れられていた。

晃さんとはまた違った怖さがあった

そんなことも知らずにオドオドしながら武さんの席に着いた、

「始めまして、新人の零時です。ご一緒してもよろしいですか?」

武さんのお客様が

「どうぞ。」

俺はありがとうございますと言って丸椅子に座った、ヘルプの人間はソファー席に座れない、テーブルを挟んで向かいの丸椅子に座る、

何をしゃべっていいかわからずにお酒の入ったグラスの水滴をハンカチで拭いていると武さんが話始めた、

「入って何か月?」

「はい、3か月とちょっとです。」

武さんが

「客できたか?」

「いえ、まだです。頑張ってます。」

「じゃ、今日は色々と教えてやるよ」

「ありがとうございます!」

この時は本当にホストとして色々と教えてもらえるものだと思っていた、しかしホストはそんなに甘くない、今までは龍崎が俺にやさしくしてくれていただけなんだ。

本当のホストの世界を知ることになる。


武さんのお客様は年齢は25歳ぐらいで夜の商売をしている感じの女性だった、武さんの事が好きで仕方がない感じに武さんにべったりだった。

他の先輩の席では少しは会話もできるようになっていたがここはNo2の武さんの席

俺はヘルプの基本的な仕事、タバコの火とグラスのお酒をただただ気にして、会話なんて何もできないでいた。

武さんが、

「お前さ、面白くないから飲めよ!」

「はい!いただきます。」

武さんが俺のグラスにブランデーをなみなみに注いだ。

内心冗談だよな!と思ったが武さんの顔はマジだった。


俺は酒が強いか弱いかもわからないぐらい初心者だった。人生でつぶれるまで飲んだことがなかった。自分がどのくらい飲めてどのくらい酒に強いか、まるで分らない。

ホストの世界では先輩の言うことは絶対、しかも目の前にいるのはNo2の武さん、断ったらどうなるかわからない、

武さんが

「イッキで飲んじゃいなよ」と笑いながら言ってきた。横のお客様に目をやると一緒になって笑いながら俺の顔を見ている。

他のヘルプも楽しそうに俺を煽ってくる。


ほら飲めよ、武さんが言ってんだよ!


俺は腹を決めて一気に飲み干した、ブランデーが喉をなかなか通らない何度か嗚咽しながら、

「ありがとうございます、ご馳走様でした!」

武さんは満足そうな顔おして、もう一杯俺のグラスにブランデーを注いできた、

マジか、もう一杯か。。。。

恐怖と言うか、これを飲んだらどうなるか想像もつかないことが怖かった、

記憶はここで途切れた。



「おい!!起きろ!風邪ひくぞ~!!」

頭が痛い、ここはどこだ??

「だから起きろよ!!いつまで寝てんだよ!!」


頭が痛いのと、まだ酒が完全に抜けてない状態で誰かに耳元で叫ばれてる。

「うるせー!!」

ついイライラして怒鳴ってしまった、目を開いてみるとあたりは真っ暗で目を開けたのかまだ閉じているのかわからないくらい暗闇だった。

どこだ??

そっか、飲みすぎで、店でつぶれたんだ、寝てしまっていた。

ホストの世界では結構当たり前で、飲みすぎて店で寝てしまうことを店泊と言う。

武さんの席で飲まされたんだった。


その後の俺の行動は大丈夫だったろうか?

武さんを怒らせてないだろうか?

営業中に寝ちゃってないか?


心配で不安しかなかった。

店泊は初めての経験で帰りはどうしたらいいんだ?勝手に店を出てもカギがないし、自分のせいで泥棒が入ったら俺のせいになりかねない。


少し考え、とりあえず店内の電気をつけてお客様が残していったテーブルの水をグラスに注いだ。

一息ついてどうしようか考えていると、さっき俺に叫んでいた奴は誰だ?店内の明かりをつけて周りを見渡したが俺の他に誰もいない、

酔っ払いすぎで幻聴だったのか?幻聴にしてははっきりと聞こえたのに?


なにせまだ酒が抜けていない、歩くのもフラフラする状態だった、

そりゃ~頭もおかしくなるよな、結構飲んだしな、

人生で初めて酒でつぶれて、店泊。ただホストの世界にいるんだなと実感した瞬間でもあった。意外だけど嫌な感じではなかった。

幻聴の事は気にはなったが、本当に幻聴だったんだと結論をだし


何時なんだ??時計を見ると開店時間の2時間前だった、もう帰ることはできないしこのまま店にいようと決めた。


トイレ掃除と店内の掃除を一人でした、もしかしたら誰かに迷惑をかけているかもしれないし、今の俺にできることをやろうと思った。


店内の掃除が終わるころ内勤の玄さんが出勤してきた、歳は40歳ぐらい、玄さんはお店のカギを開けて、帰りはカギを閉める、基本的には一番最初にきて最後に帰る人、


ここ最近誰よりも早く来てカギが開くのを待っていた俺は玄さんとは何度も話をしていた


玄さんに

「おはようございます、昨日はすみませんでした。」

とりあえず謝った。

すると玄さんは

「おー零時、大丈夫だったか?そうとう武にやられてたからな」

「俺、何かマズイことしてないですか?」

「大丈夫だったよ、最後までちゃんと仕事してたよ、気合入ってんな~って思ったぐらい」

本当に安心した。とりあえずはよかった。一安心した。

「すみませんでした。」

謝りながらも本気で安心していた。

「そー言えばお前最近頑張ってるから今日からフリーについていいよ」

「マジっすか?ありがとうございます。」

新人はフリーのお客様につけない、基本的に先輩のヘルプが中心で運が良ければ先輩の枝から指名がもらえる、枝は先輩のお客様の友達ってこと先輩のお客様が幹で友達が枝、これも水商売用語の一つ。

そのほか、初めてお店に来たお客様の事をフリーの席、

このフリーの席って言うのはとても大事で初めて来てダメなホストがつくとこの店の印象が悪くなってしまう、ホスト業界は口コミが本当に大事でお店の悪い評判はすぐに町中に知れ渡ってしまう。

少なくても俺はこの店に認められつつあるってこと、うれしかった。


しかしフリーの席に付いて、この店のいい所、自分のいい所、またこの店に来たいなと思わせることに自信はない、先輩の席での会話や行動を見ても自分で同じことを出来るとは思えないし、同じことしていてもお店のためにも自分のためにもならないと思っていた。

とにかくせっかく玄さんがフリーについていいと言ってくれたんだ。実際にフリーが来て席に付いたら全力で自分とこの店をアピールしてやる。


そんな意気込みと裏腹にこの日はフリーのお客様がなかなか来ない、先輩のお客様はいつものようにたくさん来店していたが自分は早くフリーが来てほしいと思っていた。


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