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望んだ者は……  作者:
レオンティーヌ
4/21

3.暴走

学院長からの特別課題という命令によりシルヴィ=バローの教育係になって数か月。


全然進歩がない。


シルヴィ=バローには学習能力がないのではないだろうか。

なんだか人形相手に教えているような気がしてくる。

それとも私の教え方が悪いのだろうか……

補講教師と共に頭を悩ませている。

あ、一応補講教師が一人ついてくれています。

学院長曰く『サボらないための見張り役』とのこと。

それは私のことを指しているのか、彼女のことを指しているのかは不明だが……



彼女が一番熱心に教育を受けるのは男子生徒が相手をするダンスくらいだ。

一応、私も男性ステップを踊ることが出来るのだが、身長が低いので子供相手にしかその能力を発揮できないんだよね。

最初は基本のステップも出来なかったが、ダンスだけは瞬く間に上達していった。

それ以外は匙を投げだしてもいいかと学院長に訴えたいくらいにできていないのだ。


いい加減、辟易していた時にダメもとで入学前に基本的な教育を施していたというバロー男爵夫人に相談しに男爵家にお邪魔した。

夫人は快く迎えてくれた。

「あの娘の操作方法ですか?我が家で使っていたマニュアルをお渡しいたしますわ」

と分厚いマニュアルを数冊渡された。

ご丁寧にも部門別。

私もいろいろと教わっているがここまで分厚いマニュアルを見るのは初めてだ。

筆跡を見たら男爵夫人のものだった。

「これは男爵夫人が書かれたのですか?」

「ええ、今後の淑女教育に役立てないかと思いまして……野生児を淑女にする方法とでもいいますか」

ほほほと笑っている男爵夫人だが目は死んでいた。

相当苦労されたことが伺える。

「しかし、我が男爵家で教え込んだことが一つも守れていないとは……自信を無くします」

男爵夫人は夫が爵位を賜るまでは近所の小さな子供たち相手に勉強や最低限のマナーを教えていたり、低級貴族(子爵家・男爵家)の家庭教師をしていたらしい。

現在も男爵領内で小さな子供に勉強を教える機関を作れないかと男爵と一緒に奮闘しているとか。


後日そのことをベル兄様に世間話程度に話したら、あっという間に第一王子にまで話が伝わっていてびっくりした。


マニュアルの一冊を夫人に断ってから読むとなるほどと感心させられるところが多かった。

あとでマナーの先生にも見せようかと思う。

マニュアルの最後に『野生児を人間にするには、野生児が好むモノを目の前に吊るせばいい』と締めくくられていた。

素晴らしいマニュアルが一気に味気ないモノになってしまう気がするのは気のせいだろうか。

そっと男爵夫人を見ると、にっこりと微笑まれたかと思うと

「あの娘には見目の素晴らしい男性を宛がえば能力を発揮しますよ。金持ちで見た目が綺麗で極限まで甘やかしてくれる男性が講師ならこちらがバカバカしくなるくらいの能力を発揮しますよ。ええ、ほんとうに……」

と投げやり感満載の言葉を頂いた。


つまり、シルヴィ=バローを本気にさせるには王子達のような高位貴族で見目麗しい人物を与えろってことですね。

そしてなおかつ、自分を甘やかしくれる人物……ね。

甘やかしていたらダメなような気がしないでもないが……

褒めて褒めて褒めまくって褒めて能力が伸びるタイプなのだろうか……

私から見るに彼女は甘やかしたり褒めたりしたら変な方向に成長しそうな気がするんだけどね。


なかなか成果の上がらない教育に辟易していた私は最終的にその案をお借りした。

帰り際に男爵夫人に

「もし、クレチアン様の手にも負えなくなった場合は私をお呼びくださいね」

とそれはそれは大変美しい笑みを頂いたが、できればそれはやらない方がいいだろうと思った。



学院長曰く『猿を人間に進化させる』方法が見つかったところで早速……と準備に取り掛かり、ここで問題が発生した!

王子たち以外に適任者がいない……というかいろいろな伝を使って依頼を出したが悉く断られた。

話を聞けば、私が彼女に施している教育現場を見学した者は彼女に淑女教育は無駄であると判断したという。


「シルヴィ=バローには礼儀などを身につけるというその意志がない。人形相手に講義したところで労力と時間と金の無駄である」


と全員が全員に言われた。

ベル兄様の知り合いにも頼んだのだが、色よい返事が貰えなかった。

「なら、アルセーヌ王子とゲオルグ殿とマルク殿にやらせてみたらどうだろうか」

適任者が見当たらず、うんうん唸っていたらベル兄様が提案してきた。

私もその案を一応は考えていたが、それだけは避けていた案だ。

なぜか、その案を進めたらとんでもないことが起きるのではないかという漠然とした不安が胸を横切るからだ。



それでもほかに案がない為に、週一提出している報告書を携えて学院長に、王子たちを彼女の教育係にしてもいいかと伺いを立てたところ

「別にかまわないよ。というかなんで君ひとりでやっているの?私は『君たち』と最初からそう指示していたはずだけど?」

というお言葉が返ってきた。

「えー、殿下たちは公務がありますので……」

「うん知っているよ。でもね、私は『君たち』に任せたの。あの子は特殊すぎるからね。あえて『君たち』と名指ししたのに……殿下も案外使えないですね」

最後の言葉は聞かなかったことした。

「仕方がない、学院長命令です『アルセーヌ=グラッセ、マルク=アダン、ゲオルグ=ルヴェリエは本年度中にシルヴィ=バローを社交界に出しても恥ずかしくない令嬢になるよう教育する事。もし、期限までに私が認める成果が得られない時は【全員(・・)留年】とする』」

学院長の言葉と共に魔術が発動し、命令書が発行された。

これはこの学院の学院長だけが使える魔術であり、例え国王と言えども無効にすることは不可能である。

学院内での出来事は国王と言えども口出しできない決まりである。

それはこの学院が出来た当初、やたらと王家が口出しし、王族(+王族のお気に入り)のみが優遇される事件が多発したからだ。

学院に入学した以上、王族だろうと男爵家だろうと同じ教育を施すためという理由をつけて学院長が強引に認めさせたという言い伝えがある。

ちなみに学院長はこの学院が開校した時(建国とほぼ同時期)から学院長(年齢不詳)を勤めている不老長寿の謎多き方だ。

「コレを殿下たちに間違いなく渡しなさい。結果を楽しみにしているぞ」

にやりと笑う学院長に私は深々と頭を下げて学院長室を後にした。




命令書を王子たちに渡したらものすごく嫌そうにしていましたが、それぞれご褒美を用意したのでしぶしぶ引き受けてくれました。

ちなみにご褒美の件は学院長の入れ知恵です。

ゲオルグは最後まで嫌がっていましたけどね。


王子に対しては父様への口利き。

姉様の婿になるためのね。

ただし、私が言っても父様は真剣に聞いてくれないのでベル兄様経由で。

父様はベル兄様のいう事には反対はしないから。

多分、兄様は父様にとって最大の弱みを握っていると思う。

父様の従者が『ベルナール様、旦那様を脅s……驚かすのは程々にしておいてください。毎回宥めるのが大変ですから……とくに奥様が……』と窘めている所を目撃した事があるので多分間違いないだろう。


マルク様には入手不可能と言われている大人気の劇団のペアチケット。

私付の侍女の親が王都で大人気の劇場の支配人だとつい最近知り、チケットの手配はできないかとお願いしたら翌日には千秋楽のチケットが届いたのには驚いた。

侍女・エリーヌは「お嬢様の為ならいくらでもご用意いたしますと両親が申しておりました」と笑顔でチケットを私に渡したのだった。

チケットは演目ごとに用意すると言ってくれるのだがいかんせんチケット代を受け取ってくれない。

そこで、劇団と劇場に毎月決まった金額を寄付をする=パトロンになるという事で話はまとまった。


私は忘れていたのだが、彼女の両親が劇団を立ち上げたきっかけが私だったらしい。

エリーヌの両親が所属している劇団でひどい扱いを受けているという話を盗み聞ぎしていた私(ちょっとした訓練中だった)が突然姿を現して『自分たちで劇団を立ち上げてみては?資金は私の私財から出すわよ』と言って実際に私財(この時、ベル兄様と共同名義でちょっとした商売をしていたのでかなりの額が貯まっていて兄様と共に使い道を探していた)の一部をベル兄様に頼んで用意してもらってその活動資金として渡した。

それからはあっという間に大人気の劇団になり、専用劇場を持つまでになったという。



ゲオルグに対する褒美は私とのお出かけ。

私と出かけることが褒美になるのだろうか?

一緒に出掛けることなどしょっちゅうしていると思うんだけど……

そのことをアガサ様とクリステル様に言うと温かい眼差しで

「いつもは大人数でしょ?ゲオルグ様が仰っているのはレオン様と二人きりでという事ではありませんか?」

と言われた。

二人きりね……二人だろうと大勢だろうと変わらないと思うんだけど……

まあ、それで引き受けてくれるのならお安い御用なのでゲオルグのご褒美は私とのお出かけとなった。



というわけで私が匙を投げかけた教育を彼らに託すと……

今までの私の苦労はなんだったの!?と叫びたくなるようにシルヴィ=バローは成果を上げていった。

男爵夫人の気持ちがわかった気がする。



シルヴィ=バローが(学院長曰く)猿から人間になるにつれて、王子たちの様子がおかしくなっていった。



王子は姉様を避けるようになった。

今まで毎日のように姉様に纏わりついてアピールしていた王子がである。

マルク様に至っては、毎回用意している劇団のチケットを婚約者様ではなくシルヴィ=バローを伴って訪れているという。

ゲオルグは常に彼女のそばを離れようとせず、常に行動を共にしているとか。


そして学院内で不穏な噂が流れ始めた。


王子たちがシルヴィ=バローの取り巻きになった。

私がシルヴィ=バローを教育という名でいじめを行っている……と。


その噂はあっという間に学院内はおろか、社交界まで広がった。



そんなある日、私は父様に呼び出され、命令を受けた。

父様は私に「噂の出所を探し、叩き潰せ。そして、アルセーヌ王子の本心を探れ」と。


その命令を受けた後、私は姉様から距離を置いた。

姉様を巻き込むわけにはいかない。

姉様たちは関係ないという事を周りに認識させなければならない。

これも父様からの厳令である。


シルヴィ=バローの教育をしていたのは姉様ではなく私なのだから……




批判めいた視線や言動は、私一人に集中し、精神的に弱り始めていたと思う。

噂が出鱈目である事を知っている王子たちからのフォローもなく、悪意ある噂に一人奮闘していた。

先生方は懸命に真実ではないと生徒を諭すが一部の生徒がそれを信じようとせず、ますます私の悪評だけが高まっていった。



そんなある日。

半年に一度行われる全クラス合同で行う魔術の授業でそれは起こった。


シルヴィ=バローが術式を間違え魔力を暴走させ、その力が多くの生徒に襲い掛かるのを私一人で抑えることとなった。

魔力の暴走を抑える方法を知っている第二王子とマルク様はご実家の都合で学院を休んでいたので、対処できる人間が先生方と私しかいなかったからだ。

先生たちと協力して抑えようとしたが、いかんせんシルヴィ=バローの魔力は強すぎた。


生徒たちは逃げ出そうと扉近くの壁際に集まっている。

風の防壁で被害が及ばないように教師と防御が得意な生徒が術を駆使しているがそれも時間の問題だろう。


「先生、生徒を速やかに術室の外に!」

私の叫び声に、術室の扉に手をかけた生徒の一人がびくともしない扉をガンガンと拳を叩きつけた。


それを横目に見ていた私は思わず舌打ちをしてしまう。

「先生、私が一時的に彼女の魔力を最大限まで押さえ込みます。その隙に扉でも窓でもいいのでぶち破って過剰魔力の外部放出と生徒を全員避難させてください」

「!?クレチアン!それだけはやってはダメだ!」

私がやろうとしていることに気づいた先生が首を横に振るがほかの案を探す余裕はない。

「時間がありません。先生は他の生徒の安全を第一に考えてください。お願いします!」

切羽詰まった私の声に先生は悔しそうに表情を歪めると小さく頷くと窓に向かって風の攻撃魔術の術式を立て続けに放出し、窓を破壊していく。

壊れた窓の近くにいた者たちから外に脱出するよう先生が指示を出している。


本来なら、外へ流れ出るであろう暴走した魔力が室内にとどまっている。

そのことに先生たちは首を傾げながらも生徒を外に出すために大声を出している。


これはおかしい。

シルヴィ=バローの魔力はまるで意志を持っているかのように室内に留まっている。

他の無意識に放出されている生徒たちの魔力は次々と外に出ていく……自然に還っているのに……


窓を破れば多少なりとも魔力が自然に還ると思って楽観視していたのだろうか。

過去の文献を思い出そうとするが酷似した事例が思い浮かばない。

抑え込む魔力にも限度がある。

まだ全員の生徒が避難していない状態で、この大量の暴走した魔力を一人で抑えるのは現状では正直厳しい。


本来の力を封印されている状態では限界。


「兄様、言い付けを破ります」


私はベル兄様から絶対に外してはいけないと言われていたピアスとブレスレットを……魔力制御具(封印具)を外し、彼女の力を無理やり私の体内に取り込んだ。



誰もがその光景に恐怖を感じた事だろう。

視界の端に窓の外からこちらを見て恐怖におびえているクラスメートたちの姿を捉えた。

その目は化け物を見ているような目だった。


私はにっこりと笑みを彼らに向けると目を軽く閉じた。


心を落ち着かせ、視線をシルヴィ=バローだけに集中し、魔力を奪い取る。

本来、他人の魔力を自分の体内に取り入れることはできないとされている。

一時的に取り入れることが出来たとしても体内で異なる魔力がせめぎ合うため、魔力を取り込んだ人間は確実に死ぬ。


「光の精霊よ光り輝け、闇の精霊よ優しさで包み込め、風の精霊よ道標となれ、大地の精霊よ全てを受け止める器となれ、炎の精霊よ悪しきものを浄化せよ、水の精霊よ全てを清めよ……我――――――――――が願う。彼の者の力を我に!」


私の周りに集う精霊たちは小さく頷くと私の周りをぐるぐると飛び回る。

六色の光が私を中心に四方八方に飛び散り、私とシルヴィ=バローの周りに強固な結界を形成した。

これで必要以上に傷つく人たちは減るだろう。


私は暴れまくるシルヴィ=バローの魔力を全て自分に取り込む。

シルヴィ=バローの魔力は私の制服を傍若無人に切り裂き、皮膚を傷つけ、切り傷からは血が次から次へと流れ落ちる。

顔にも幾つもの切り傷が走っているのだろう。

ベル兄様が綺麗だって褒めてくれた腰のあたりまであった髪も肩のあたりで無造作に切り刻まれた。

魔力を取り込むためにシルヴィ=バローに向けている両腕はいくつもの切り傷が刻まれている。

切り傷から止めどもなく流れ落ちる赤い血は地面に血だまりをいくつも作っていく。


ここが屋外だったら暴走した魔力はそのまま自然に還り暴走はおさまるが、室内では無理だ。

術室は暴走を抑える術を施されているが、シルヴィ=バローの魔力はその術全て(・・)を破壊してしまい、暴走した魔力が室内を駆け巡っている。

自然へと還ることが出来ない魔力は凶器となり、人を傷つける。

最悪、命を落とすこともある。



私の体内に取り込んだ暴れまくるシルヴィ=バローの魔力を私の魔力で優しく包み込むように抑え込む。

シルヴィ=バローが気を失い魔力の放出が止まったのを確認した後、結界を解除し誰も知らない……私と兄様が生みだした呪文を唱えようとした時、教室のドアを蹴破るようにベル兄様が入ってきた。


「レティー!その呪文を唱えてはダメだ!」


驚く私にベル兄様は泣きそうな笑みを浮かべながら私を抱きしめ、教室内に残っている生徒に窓からでも扉からでもいいから早く外に出るよう指示を出した。

兄様の後に入ってきた騎士達が怪我した生徒たちを次々に連れ出していた。


「……兄様、……ごめんなさい」

何とかシルヴィ=バローの魔力を抑え込んでいるが、いつまた暴れ出すかわからない。

立っているのもやっとだった私はその場に座り込むところを兄様に抱きかかえられた。

「なぜ、謝る?」

「兄様との……約束を破りました」

「この状況では仕方ないよ。レティーにしか出来ない術を使ったん(こと)だからね」

優しく頭を撫でてくれる兄様の手の暖かさに次第に意識が遠ざかっていく。


だめ、今意識を失ったら……

せっかく押さえ込んでいるシルヴィ=バローの魔力が放出されてしまう。


全身に迸る痛みに涙が自然と零れ落ちる。

流れ落ちる涙を兄様が指で優しく拭ってくれる。


「兄様……」

「大丈夫だよ。魔力は少しずつだけどレティーのものになっている。次に目が覚めた時は全て終わっているから……安心しておやすみ」

トントンと背中から伝わるリズムと兄様の声に私の意識は薄らいでいった。






私が目覚める事はないだろう。


今、私の目の前に立つ真っ黒なローブを着た男が私の首目掛けて大きな鎌を振りかぶったから。




昔、兄様に読んでもらった物語に出てきた『死神』にソックリだから、きっと私の人生はここまでなんだと思う。






兄様。

可愛がってくれてありがとう。



私を『家族』として愛してくれたのは兄様だけ。

父様も母様も、両目の色が異なる私を『家族』として見てはくれなかった。

姉様も私を『大切な妹』と周りの人に言いながらも必要以上に近づくことはなかった。



ねえ、兄様。

私ね、ご先祖様に……ユーリ様にソックリなこの両目は嫌いじゃなかったよ。

小さい頃は確かに嫌いだったけど。


でもね。

「レティーの瞳はサファイアとエメラルドの二つを同時に持っているんだ。それは誰もが持てるものじゃない。レティーと俺だけが持てるものなんだよ。だから、そのキレイな宝石を隠さないで」

「?おにいちゃまのひとみはりょうほうともあおいよ?」

「これはじい様が掛けた術で同じように見せているんだ」

術を解いた兄様が見せてくれた深い海のように青い瞳と深い森林のような緑色の瞳に驚いたのを今でも覚えている。

兄様と同じという事が嬉しかった。

その日を境に兄様は瞳の色を変えることはしなくなった。


周りから瞳の色のことでいろいろ言われても、堂々としていた兄様が眩しかった。

いつか兄様のようになりたいと思うようになった。

名前をレティオーヌからレオンティーヌに変えて周りには『レオン』と呼ぶようにしてもらったり、髪を短くして男の子っぽくして、できることは何でもやるようにした。


髪を切って兄様のおさがりの服を着た姿を見せたら怒られた時はショックだったけど。


「俺はレティーには女の子の格好をしていてほしいな。レティーは俺の大切なお姫様なんだから」

単純にもこの言葉で女の子の格好をするようになった。

短く切った髪も再び伸ばすようになった。


色の異なる瞳を隠すことなく、兄様に近づきたい一心で前を見続けてきた。


魔術を兄様のように息を吸うように扱えるようになりたくて必死に勉強して、オリジナルの術を編み出すことの面白さを知った。


兄様のように自分の身は自分で守れるように武術を必死に習った。


兄様に美味しいと言ってもらいたいからお料理も頑張った。


兄様と一緒に踊りたいからダンスのレッスンも苦手だけど頑張ってどんなダンスも踊れるようになった。


時々兄様が難しいお話をしているのを聞いて、自分が役にたてるようになりたくて政治や経済学などの勉強も頑張った。



兄様は私が何かを覚える度にご褒美をくれた。

ご褒美は嬉しいけど、ご褒美が欲しくて頑張ったんじゃないって拗ねたら笑われた。


寂しいと思った時はいつもそっと抱きしめてくれた。


頑張って成し遂げた時は『よく頑張ったね』と頭を撫でてくれた。



兄様だけが……





ああそうだ、これだけは伝えなければ……


私は最後の力を振り絞って術を放った。




『兄様。

 私の机の引き出しに今回の私の噂等に関する報告書がまとめてあります。

 兄様から父様に渡して。

 きっと、父様なら何とかしてくれると信じているから……






 最後くらいは父様の役に立てたかな?』







レオンティーヌ視線はここまで。

次からは別視線になります。

レオンティーヌ視線では語られなかったあれこれを別視点で描いていくつもりです。



少し間が空くと思いますが気長にお待ちくだされると嬉しいです。


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