14.歪めた先には……
シルヴィ=バローの魔力が暴走した日。
学院から帰宅した私に待っていたのは第一王子ユリウス様からの贈り物だった。
今まで見たこともない赤と白のバラが絡み合ったアクセサリー。
髪飾り、チョーカー、ブレスレット、ピアス。
どれもこれも素晴らしい超一級品。
父と母が何か喚き、兄が呆れたような表情をしていたが私はそのアクセサリーをもって自室に戻った。
私付の侍女が次々とアクセサリーを私に付けていく。
浮かれる気持ちを抑えることが出来なかった。
やっと。
やっとユリウス様と交流する手がかりを得たと浮かれていた。
浮かれている私に侍女たちが冷たい視線を向けていることなど気づきもしなかった。
「マリエル、しばらくの間別館に近づいてはいけないよ」
夕食の席で父から別館に近寄ってはならないと注意されたが、もとより近づくつもりはない。
あの別館は本館に比べ古く、壁一面に蔦が蔓延り、夜中に見ると幽霊屋敷かと思えるほどの建物だ。
昔から別館には近づいていないし、視界にも入れたくない。
そんな思いを隠しながら頷くと父と母は明らかにほっとした表情を浮かべた。
数日間、特にこれと言って何もなかった。
時々、父と母が別館に赴いては落胆して本館に戻ってくることがあるだけだった。
忌々しいことに『レオンティーヌ』はまだ生きている。
父と母は『レオンティーヌ』に会うために別館に通うも、兄と治癒術師のアンリ様に拒絶されているという。
ある日、王宮から登城するようユリウス様の名前で通達が届いた。
私はユリウス様から貰ったアクセサリーを付けて登城した。
王宮の正門から騎士たちに守られるように城内を歩いていると、すれ違う人全員が驚きの表情を浮かべながら振り返った。
通されたのは第一王子ユリウス様の執務室。
入室直後に私を見たユリウス様は一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐにいつものにこやかな笑みを浮かべて執務机の前に置かれている椅子に座るよう告げた。
ユリウス様の他に魔術団の人、騎士団の人など数人の方が隅の方に立っていたが私は気づかなかった。
言われたように椅子に座ると挨拶もそこそこにユリウス様は魔力暴走事件の事を聞いてきた。
ユリウス様は第一王子でありながら、魔術団に所属されて魔術の研究をされているらしい。
魔術団として今回の事件を調査しているので協力してほしいという事だったので私は喜んで調査に協力すると宣言した。
最初は現場の様子や暴走者シルヴィ=バローのことを事細かに聞かれていたが質問内容が私を疑うような事柄に変わっていった。
シルヴィ=バローとアルセーヌ殿下が急速に仲を深めていたから嫉妬したから暴走するように仕向けたのではないかと言われた時は目の前が真っ赤になるほどの怒りを覚えた。
そのあと、どう答えたのかは覚えていない。
唯一覚えているのが、あの暴走事件はレオンが引き起こしたのではないかと言った時、固いペンをへし折り手を血だらけにさせ、私に氷のような冷たい視線を向けていたユリウス様の姿だけ。
***
王宮へ登城した数日後から、以前はアルセーヌ殿下たちとお近づきになりたいという者達の群れが近寄ってこなくなった。
なぜか遠巻きに見られるようになった。
「マリエル様、レオン様の容体は……」
レオンから紹介され友人となったアガサ=ルーディル子爵令嬢。
学院の入学式の前に行われた交流会でレオンと親しくなった子。
薬剤師になりたいと常日頃公言している。
貴族の娘が手に職を持つのは嫌厭されることだが、彼女は堂々としている。
レオンはそんな彼女を応援していた。
「さあ、私は知りません」
「え?」
「あの日から私はレオンの姿を見ていませんから……」
私の答えにアガサは目を大きく見開いた後、視線を落とした。
「そうですか……」
「なぜ、私がクレチアン家の恥となる娘のことを知っていなければいけないのです」
「え?」
「あれは父が母以外の者に産ませた庶子。本来なら私と同等の扱いを受けることなどない者です」
「マリエル様?」
「今後、私の前であれの名前を出さないで」
そうよ。
もともと、あの子は私の妹ではない。
本来、クレチアン伯爵家の子供は私一人なんだから……『設定』を元に戻せばいい。
本来のキャラ関係に戻せばいいのよ。
いえ、ほんの少し変えればいい。
本来の『従妹』から『庶子』に変えればいい。
本来の『レオンティーヌ』は父の妹の娘。
黒い髪と左右違う色の瞳を持っていたから第一王子の婚約者に内定し、本家であるクレチアン伯家に預けられた子だ。
父の妹……叔母は平民の男性を愛し、身分を捨て『レオンティーヌ』が生まれた数日後に流行病で病死した。
彼女の夫も後を追うように流行病にかかりあっけなくこの世を去った。
父は身分を捨てた妹を陰ながらに応援していた為、妹の子供二人を引き取っただけだ。
本来なら平民である兄と妹。
噂を使って少しずつ本当のことを広めればいい。
そして第一王子に相応しいのは私であると囁かせればいい。
しかし、この噂はそれほど広まることなく沈静化した。
父や母は沈黙していたが、外戚が黙っていなかった。
『レオンティーヌ』が父と母の子であると確かな証拠が東方の国で開発された術『親子鑑定』で明らかにされた。
この術は国王陛下の御前で多くの人達が見守る中、行われたため不正は一切ない。
***
あの事件から数か月後。
『レオンティーヌ』は非公式の謁見の場で陛下と第一王子を庇って賊の刃に身を貫かれたという。
私は屋敷からの外出を禁止されていた為、詳しいことは知らない。
その場にいたという父も母も兄も固く口を閉ざして教えてくれない。
『レオンティーヌ』は王宮にて治療を受けているが、危ない状態ということを侍女たちが話しているのを聞いた。
このまま『レオンティーヌ』が消えれば、ユリウス様にまた近づける。
私は誰もいない自分の部屋で薄らを笑みを浮かべた。
『レオンティーヌ』がいる限り、ユリウス様は私を見ない。
なら、『レオンティーヌ』を消せばいい。
この世界には大金と引き換えに命の取引をしてくれる組織がある。
私は彼らに接触し、彼女の死を願った。
最初は戸惑っていた彼らも私が示した大金に目をくらましたのだろう。
依頼は実行された。
だが、まだだ。
まだ彼女は生きている。
彼女の死が確認されるまで残りのお金は渡さない。
彼女の死が公に発表されたら残金を払うと彼らに言うと、彼らはにやりと笑うと数日後には達成させると告げた。
そして、数日後。
父から彼女の死を知らされた。
父や母の前では妹の死に涙し、自室で一人でなると声を抑えて笑った。
周りからは妹の死を嘆いていると見えるように……
『レオンティーヌ』の葬儀は質素に行うのかと思ったら盛大に執り行われた。
本来王族だけが使用することが出来る大聖堂で行われた。
建国以来、この大聖堂で王族以外の葬儀が行われたのは初代クレチアン伯爵夫人。
初代国王ユーグ=グラッセの実妹であったユーリ=G=クレチアンのみ。
王妹ということで特別に行われたと公式文書で残されている。
『レオンティーヌ』の棺の蓋はすでに釘で打ち付けられていた。
父の話によると、凶器に毒が塗られており、また呪詛が毒を介して発動し解毒しても呪詛によって顔がただれ、見れたモノではないという。
また本人の希望により誰にも死に姿を見せて欲しくないという最後の願いを叶えるためらしい。
正直、私はどうでもよかった。
『レオンティーヌ』さえ死んでくれれば。
『レオンティーヌ』の死後、親しかった友人を自分のせいで失ったと落ち込んでいるユリウス様を慰めて、私に惚れさせればいいだけだから。
私が持つ精神干渉の術を使えば簡単よ。
術具で抑えられようとも私の精神干渉術が上手く発動するのはシルヴィ=バローやアルセーヌ殿下達で実証済み。
ただ、難点を言えば、ユリウス様に常に身につけてもらえる物を渡せない事や、じかに触れ合うことが出来ない事。
私の精神干渉の術は遠隔では上手くは操れない。
シルヴィ=バローにはブローチで。
アルセーヌ殿下達には幼い頃から週一で遊び相手として触れ合っていたし、互いの誕生日にプレゼントを贈り合っていたから彼らは常に私がプレゼントしたモノをどこかに身につけていた。
両親は幼い頃にべったりとくっついていたからか、ある程度成長してから触れ合わなくても私の思うままになっていたから……
***
『レオンティーヌ』の葬儀から半年後。
学院の卒業を数か月後に控えていた私に父から王太子妃に内定したと聞かされた。
今度行われる王家主催の卒業式の後に開催される舞踏会で王太子を指名し、その場で婚約を発表するという。
父と母は『レオンティーヌ』の喪中を理由に発表の延期を申し出ていたそうだが、王家側から是非にといわれ、渋々承諾したという。
この国では自身の親または子が亡くなった場合1年の喪に服すが、兄弟・姉妹の場合は半年で喪が明ける。
遙か昔、親兄弟姉妹が一年ごとに相次いで亡くなり喪に服していた令嬢がいた。
その令嬢は王太子の婚約者だったが王太子の婚姻を先延ばしにするのは縁起が悪いという理由で婚約は白紙になり、令嬢は悲しみのあまりに自害してしまった。王太子は『第二の彼女を誕生させないためにも……』と周囲を説得し、兄弟姉妹が亡くなった場合は半年の喪に服すと法律を変えさせたという。
ちなみに、王太子は令嬢との連絡がうまく取れず彼女を死に追いやってしまったと後悔し、王位継承権を返上し、令嬢の墓の近くの屋敷で生涯独身を貫いたという。
私の結婚式は両親が『レオンティーヌ』の喪が明けてすぐに執り行われることも決まっているという。
発表から半年間(喪が明けるまでの期間)はお妃教育として王宮で暮らすことになることも告げられた。
舞踏会まで誰にも話してはならないという父との誓約を交わしたが、私は嬉しさを隠し切れなかった。
ユリウス様ともっと親しくなるために、幼馴染のアルセーヌ殿下に会うという理由で王宮に足繁く通い、ユリウス様と会えないかと王宮内をうろついた。
周りからどのような目で見られているのかも知らずに……
マリエルの行動・発言がおかしな方向に動く……
きみ、もうちょっとまともだったはずなのに……と作者泣かせのキャラに成長(?)しちゃっているよorz
さて、軌道修正を行わなければ……
大人しくしてくれればいいんだけど……暴走しそうだな~...( = =) トオイメ




