S11、留年生
カザカミ学園の卒業試験は毎年内容を変更して行っている。臨機応変に対応し実力を発揮できるか見るために創立当初から決められている校則だ。
1年目の試験
試験内容はゴーレムからの攻撃を避けながら初級魔法で設置していた的に当てる。
初級魔法なら何とか使えたが試験一週間前、試験内容に的との距離が設けられ合格ラインに達するまで魔力が足りずに不合格
2年目の試験
戦闘試験であった。
相手は下級の魔物であるスライムで物理だけでは勝てないので魔法か用意された魔力を纏える剣を使用する必要がある。
その試験で剣を爆発させてしまい失格
3年目の試験
戦闘部門との魔法対決及び魔法部門との戦闘対決
先に行われた魔法対決で戦闘部門の主席に惨敗し戦闘対決を行うまでもなく留年が決定した。
それがアレクの試験結果であった。
落ちこぼれ、フィーリスの中のフィーリスと周りからはそう呼ばれた。
そんな自分が大会の本戦に出場している今の状態に少なからず緊張していた。
誘ってきた当の本人は王女とイチャイチャしてまったく緊張感が見られず、本当に図太い性格してるよと呆れた。
これが自分の緊張をほぐす為にやったなんて言ったらかなりの演技だと思うけどこれが素なのはこの1ヶ月で嫌という程実感している。
「ユウヤ様、アレクペアは試合の準備をして入場門前に待機していて下さい」
ついにこの時が来た。
「・・・ふう」
「アレク、行くよ」
「出だしを意識するでござるよ。それで身体は大分軽くなるでござるから」
「遅れさえ取らなければ問題ないと思いますよ」
「頑張ってくるよ」
ユウヤの後を追うように部屋を出て行く。
会場までまだ遠いのに部屋を出て会場の熱気を感じる。
「でも何も試合前に練習する?」
「なんか動いてないと落ち着かなくて、これでバテるような体力じゃないから心配はないよ」
「元からそんな心配してないよ」
そんな会話をしながら進んでいたのだが突然前から覚えのある顔の人物が歩いて来ると話しかけてきた。
「おっと、これは勇者様に次の対戦相手をさしていただくロクデ・ナッシーです。よろしく」
「ろくでなし?」
「ロクデ・ナッシーです!!」
「あ、あぁロクデ・ナッシー・・ね」
なにやらロクデの名前がツボにハマったようで雄也は口元を痙攣させている。
フィーリスだとバカにしてくる生徒にも笑顔で対応していた雄也が失礼を承知で隠すことができずに苦笑しているなんてかなり珍しい。
ロクデの方も名前を間違えられた事で笑顔が引き攣っていた。切れているんだろうが勇者を相手に怒鳴る訳にもいかずにいるようで、その矛先は隣にいたアレクの方に向いた。
「やぁ、誰かと思ったらアレクじゃないか。去年、戦闘部門の僕に魔法で惨敗した」
「あぁ、どうも」
このロクデは去年から今まで戦闘部門の学年主席で去年、魔法対決で戦った相手であった。
「もう3年も駄目なんだからそろそろ平民のあるべき場所に戻った方がいいと忠告してあげたのに勇者に抱っこされてこんな公衆の前で無様を晒そうとするなんて僕には理解できないよ」
ロクデはその後言うだけ言うとそのまま来た道を引き返して去って行った。
平民なんだから諦めろ
そう言われた事はいくらでもあったがロクデの言う通り今の自分が大会で勝ち上がっているのは勇者であるユウヤのおかげであり、自分でなくてもユウヤなら本戦に出場できただろうという確証が自分ははたしてここにいるべきなのかと問答させた。
だから、
「なぁ、アレク」
隣のユウヤから、
「次の戦いアレクだけで戦ってみろよ」
◇ ◆ ◇
一回戦第6試合
勇者のパートナーを務めるアレク・リードは、殺気や嫉妬、ブーイングの嵐の中で対戦相手2人の相手をさせられていた。
相手のロクデと会った後一人で戦えと言われてからアレクはしばらく雄也の言った事が分からず反芻して意味が分かると、無理だと入場するギリギリまで抗議を行った。
しかし結局雄也の考えは変わらず、
『なんと勇者ユウヤは武器を持っておりません。資料では聖剣使いであるはずですが、まさかこちらもリュウ選手の様に戦うのか!?』
と、アナウンサーが説明した通り武器を持たずに舞台に上がって行った。
それに続く様に入場したアレクには、
『『『ブーブーブー』』』
『これはアレク選手に対して会場からはブーイングの嵐!総合部門で3年間留年している生徒として有名人であり、その成績からはこの本戦に出場するなど不可能。生徒からは勇者におんぶに抱っこでここまで来たと批判の声がブーイングに変わったのでしょう』
アナウンサーが生徒ではなく隣にいる学園長に説明する様に解説していた。
そして対戦相手と対峙した時の雄也はさらなる爆弾発言を落とした。
「ろくでなしさん。僕は戦う気ないんで相手してもらいたいなら僕のパートナーを倒して下さい」
ロクデもその隣の次席ヒトデ・ナッシーも顔を真っ赤にして雄也ではなくアレクを鋭く睨みつけられた。
血が繋がっていないはずなのに全く同じ反応をしてくる。
そして試合開始から宣言通り雄也は戦わずに後方に退避。
アレクは開始早々突撃してきた2人に挟まれ戦うことになったのだった。
それから2人を相手に苦戦を強いられていたがなんとか致命的な攻撃は避けていた。
次第に観客は1人を相手に未だ倒せない2人の非難の声が増えていきていたがアレクは避けるのに手一杯でそのことには気付いていない様であった。
『意外です!!
アレク選手、2年生主席次席ペアの2人がかりの猛攻を未だに致命的なダメージを受けずに耐え抜いています。
留年筆頭のアレク選手がここまでやるとは私以外も驚きを隠せない人は多いのではないでしょうか!』
『ふむ、彼が留年生とは儂には到底思えんの。
見た所基礎体力だけでこの戦闘力は戦闘部門に入る力も十分ありそうじゃ』
解説席でもアレクの戦いには目を見張るものがあるらしく学園長はアレクが留年生だということの方が疑問に思えてきていた。
そしてこんな状態を作った雄也自身はというと、
「やっぱり、アレクは凄いなぁ」
と完璧に観客になっていた。
◇ ◆ ◇
「さっさとくたばれ!!」
「死ねや!!」
一向に有効打を与えられず苛立った声を上げているロクデとヒトデの攻撃速度にだいぶ慣れてきた頃、アレク自身もまた自分が主席次席を相手に戦えていることに興奮と戸惑いを覚えていた。
去年の卒業試験で自分は今戦っている主席に惨敗を喫した。それはもう完膚なきまでに勝てるなんて思えない程に、
そしてそんな彼らと剣有りで戦ったとしても魔力強化ができる彼らの方が自分より強いのだと信じて疑わなかった。
しかし相対してみれば2人を相手に戦えている。
魔力強化をしている戦闘部門の生徒を相手に戦えている。
努力しても届くかわからない高みだと思っていたが場所はあまりにも近い位置であった。
だから思ってしまう。
自分に魔力強化に回せるだけの魔力があれば彼らのいる場所まで届くのではないか、と
そんな思いを抱きながら今の相手をどう倒すか考え始めるのだった。
一方の2人の掛かりで一向に倒せない2人は、
「そうか分かったぞロクデ!こいつ勇者に支援してもらっているんだ!」
「そうか!勇者め戦わないとか言いながらこいつに支援して2対1だと油断させて倒そうとしたのか。勇者のくせにとんだ卑怯者か!」
息が荒くなり一旦距離を開き、そんな見当違いなことを言い始めていた。
「そんなことされてないぞ」
「黙れ平民!!勇者の力がなければ何もできない貴様は黙っていろ!」
「そして勇者!よくも俺らを騙してくれたな!」
ロクデとヒトデは自分達の結論が正しいのだとアレクの言葉は一切聞かず後方ですでに観客になっている雄也に向かって怒鳴り出した。
それに対する雄也の反応は、
「え?してないよ。してもいいならするけど」
こいつら何言ってんの?って顔でロクデとヒトデの2人にそう言い返した。
だがそんな言葉で納得する2人ではなく、
「知らばくれるな!白々しい。こいつがここまで戦えるのもお前の支援あってだろう!」
「俺らが強くて中々倒せかったのは誤算だったな。本当なら気づかれる前に倒したかったんだろうがよ!」
もう完全に雄也が支援を送ったと信じての発言にアレクも何言っているんだと姿勢はそのままに内心で呆れた。
「あ〜なら一度支援したアレクと戦ってみるか?そうすれば分かるだそうし」
「ハッ、どうせさっきのより少し強くなるだけだろ。ならそれを破って証明してやんよ」
「俺らの本気もまだだからな。いつまでその余裕が顏でいられるかな」
なんか始まった時とは別の趣旨で話が進んで行っている。それに結局雄也は戦わないってことだよな!!
「アレク行くぞ」
そんな文句は外へ出ることはなく雄也は詠唱を始め、
「”聖者の祝福”」
魔法が発動し自身の身体が軽くなり力が溢れていくのを感じた。
「行くぞ平民!!」
叫びながら突っ込んでくるロクデ。
しかしそのスピードはさっきまでとは比べ物にならないほど遅く隙だらけであった。
ヒトデの方も同じで2人ともすれ違い様に胴へと一撃当てると倒れてしまった。
起き上がる気配はなくふざけているのではないかと思うほどに呆気なく勝負がついてしまった。
雄也が魔法を発動して1分弱。
観客は静まり返り勝利宣言もされず会場中が沈黙しているようだった。
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