16、ゴブリンVS人間 前編
ゴブリン村総数100に対し敵ハールゲ街総数400による戦
ゴブリン村の構成:通常ゴブリン兵60名
ホブゴブリン兵10名
ゴブリンアーチャー&ゴブリンメイジ20名
斥候ゴブリン8名
ゴブリンエリート2名
その他村長ら非戦闘員数名
これが現在のこちらの兵数である。
こう数字で見ると意外とホブゴブリンが少ないのが分かる。
それから普通のゴブリン兵の武器は剣や槍もいるがやはり圧倒的に棍棒を持つ者が多かった。棍棒だけを持つ者の姿はまさにゲームに出てくる姿そのままでそれを操って攻める指揮官の立ち位置だからか無償に自分が小物に見えてくるんだが・・・
気のせいだろう、という事で、次に持っていた情報と新たに斥候が持ってきた敵方の情報を合わせた物が、
ハールゲ街の構成:一般兵約240名
魔法使い約100名
近衛兵20名
大将アル及びその他約30名
また、ただでさえ数が多い上に敵の武器には戦車60台が配備されている。
と、まぁ完全に不利な状態なのは何も変わらない。敷いて言えば戦闘員の数が思ったほど多くなかった事ぐらいだ。
宣戦布告から3日後、戦いはついに動き始める。
◇ ◆ ◇
「動き始メマシタ。コレカラ戦局はドノヨウに運ぶとヤシャさんは考えて?」
「知らん成る様になるだろ」
すでに俺は本陣で待機するしかない状況だ。子供エリートの言う戦局を決めるのは戦う兵の頑張り次第である。
「ただ一応お前も動ける準備はしといた方が良いかもな」
「分かりマシタ!」
この会話から少し前、視点は変わって村の南方。
明日に控えた指揮官アル・ベリウソは兵の大半をテントに招き入れ士気向上の為に宴を開いていた。
ついに都からの命令を実行することができる。
都から派遣されてからここまで来るのにかなりの時間を要した。兵士はすでに足りていて、兵器は派遣された時点で一緒に街へ運ばれていたがいかんせん。
街の者たちの魔族の害悪性に気付いている者が少なく戦う意味がないという意見が多く出た。その為街の者に魔物が危険であるという考えを植え付けなければならなかった。
だがそれも明日で終わる。
ゴブリンの兵数がこちらの半分にさえ届かない100体程、魔法を使える者もこちらのが多い上にこちらには前勇者の知識からできたセンシャという兵器があるのだ。ひとたび攻めれば一瞬で決着が着く。
こちらの負けなど有りえないのだ。
「アル様、60台センシャすべて異常ありませんでした」
「そうか。なら貴様も宴に入れ」
共に派遣されたセンシャの整備を任せていた同業者であり、この戦の全貌を知っている数少ない者だ。この戦のために部下として色々と動いてもらってもいたこともあり、信頼もしている。
「アル様、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ」
「昨日兵が街に向かったゴブリンが手紙をアル様宛に送ったものを持っていたと聞きましたがどの様なものだったかと?」
同業者は軽い気持ちで聞いたがアルの表情は一気に険しいものになった。
急に怒った表情になったアルは懐から手紙を取り出す。
「拝見します」
それを部下の男は受け取り読み出す。そして上司の表情の意味を理解し声を上げた。
「何ですかこれは!!こちらを馬鹿にするだけでなく自分たちが勝てる気でいる。どちらが有利かもわからぬ獣風情が!」
「まったくだな。言われずとも明日攻めて終わらしてやるというものを」
二人ともゴブリンの分際でこちらを馬鹿にしてくる内容に怒りを露わにしながら明日に思い知らせてやろうと意気込んだ。
同時刻
同ハールゲ街兵テント付近
「まさか戦前に酒盛りとはな」
「もう勝てる気でいるんでしょう。でも気持ちはわかりますね。俺らもヤシャさんがいなけりゃ奴らと同じ考えでしたよ」
「それもそうだな。これも俺らの運が向いてきたと思えばいいか」
敵の兵は警備を最小限に呑気に酒を飲んでいるのを見て味方からそんな声が上がる。
「作戦では寝静まる深夜を狙う予定だったがヤシャからは功を見て行動しろと言われている。
隠れて見つかる危険も考慮して早めに始めるのが良さそうだな。
総員すぐに動けるようにしろ。俺の合図で出るぞ」
再びテント内
流石にこれ以上は明日に障るというところでアルは締めの挨拶に入っていた。
「明日の朝、我々は街のため危険な魔物を討伐に向かう。しかし我々の勝利は揺るがないものである!」
アルは持っていた杯を掲げ高らかに宣言した。
「勝つのは我々だ!!」
その瞬間テントの中も外も光が消え失せ視界はクロしか見えない。
兵士たちはいきなりの事に混乱の声が上がる。
「なんだ!?何が起きた!」
「暗くて何も見えん。・・・おい踏むな!!」
混乱は全体に広がり中にはその場から動き互いにぶつかる者まで出てくる。
とは言ってもここに居るのはか弱い女や子供ではなく大の大人すぐに冷静になると思われた。しかし冷静になる前に誰ともわからぬ悲鳴が響き渡った。
暗くなったせいで上がった声ではなく恐怖や痛みなどで上げる悲鳴。それも複数個所から起こり出した。
更に一向に明かりがつかない。
暗くなってすぐに冷静になった者は明かりをつけようとしている。
「慌てるな!今、光をギャガッ!?」
「魔法で視野をかくグバッ!?」
「・・・あがぁ!?」
・・・いるがそういった者は何者かに始末されていく為明かりがつかないのだ。
その所為で指示が無い兵士達の混乱は広がりを増すばかりであった。
次第に勝手にお互いにもつれて倒れる者さえ表れ出す。
そこまで来てようやくアルは異常事態だと声を上げた。
「落ち着け!!視野を確保しろ!光をともせ!」
アルの一声で次の行動を得て混乱から立ち直り無事だった魔法使いが光をともしてようやく光が戻る。
「!?」
そして視界が明るくなったアルの視界には悲惨な現状が映っていた。
混乱している仲間の中に明らかに武器によって血を流し息絶えた者があちらこちらに見える。尋常じゃない死体の転がる光景に吐きそうになったが自分が指揮官であることを思い出し無理矢理声を荒げながら命令をした。
「き、奇襲だ!ゴブリンが攻めてきたぞ!」
開戦は明日などではない。
すでに始まっていた。