15、ゴブリンエリートの息子
次の日の朝、村長とゴブリンエリート (今回の戦いの隊長)、最初に会ったホブゴブリン (副隊長)、斥候として敵の兵力を調べていたゴブリンの四名が宿に訪れて俺の協力を承諾した。
そしてそのまま会議に入り、俺が考えた策を話し実行に移すための問題点を提示。村長たちは初めはそんなことが可能かという目で見てきたが最後には俺の策に乗って現在その問題点の実証を行ってもらっている。
また護衛の依頼はマリアだけで行うことになり、今日の昼に残っていた住人を連れて村を出たのでマリアとは別行動を取ることになった。
そして一人になった俺はというと、大剣を村長から借りて、ゴブリンと一緒にマリアから言い渡された特訓メニューを必死にこなしていた。
◇ ◆ ◇
マリアが村から出てから弥叉は渡された特訓メニューを終わらせるべく必死に大剣を振り続ける。
本当なら村長たちと一緒に作戦の実験に付き添う予定だったのだがこのメニューが終わるまでは自由行動の禁止にされ、この村一の隊長を務めるゴブリンエリートを瞬殺したのを知っている村長らゴブリンも文句を言える者など居らず逆に定期的に監視を付けられた。
「はぁはぁ・・・421・・・」
そして問題の特訓訓練はと言うとどこのアニメの特訓だよと言う物で今行っている素振り1000回から始まり鉄靴を履いてのマラソンに回避訓練と評した木刀の投擲避け、最後にはどんな仕組みだよと思う木人による対人戦で顔を叩いて停止させるまでいくらボロボロになっても止まらない魔法のロボットが用意されていた。
そんなトンデモ訓練にすでに取り掛かって1時間、剣を振り続けているがようやく半分に差し掛かろうとしていた。
本当に終わるのかよこれ?
もう腕は上げるだけで疲れる様になって剣を地面につけながら下を向いて止まっていると背後から誰かの視線を感じる。
たぶん監視のゴブリンでも来たんだろうと思って振り返ると若いゴブリンがこちらを見ていた。
なぜ若いのかと聞かれると見た目同じなので返答に困るがとにかく若いゴブリンだと思う。
そんな若いゴブリンはこちらが振り向いても特に反応が無いがその視線からは何をしているのか、どうしてしているのかという子供の好奇心のような感情が宿っていた。
それから俺が休みに入ったと思ったのか近づいて来て目の前に来てようやく口を開いた。、
「ナニをシテいるノ?」
「鍛錬だよ」
「ナンでソンなコトするの?」
「強くなるため?」
「ウソだよ、強さはウマレタ時にあるテイド決まってる。ソンナコトしてもナニも変わらナイヨ」
何とも捻くれたゴブリンだった。
自分も持って生まれた才能という物が有る者と無い者の差を知っているし否定はしないがそれでもなんか大人びた感じでムカつくゴブリンだ。
「ボクハお父さんと同じエリートにお父さんヨリ早くなったカラみんなテンサイだって、ボクは何もシテないノニみんなヨリ強くナッテタ」
「それは凄いな」
「みんなのナカにはタンレンするノモいるのにボクのが強い。ならタンレンの意味ナイ」
お父さんがエリートってこいつあの隊長してるゴブリンエリートの子供か。
あの脳筋も面倒な奴だが子供も子供で面倒そうだ。戦い大好きな猪だと思ったが捻くれ者とは。
そのうえ聞いた戦力ではエリートは二人だけだったはず、脳筋は期待できないのでもう一人は真面であってほしいと思っていただけに余計に残念だ。
「確かにこれをやっただけで強くなれる訳ないな。でも達成感はあるぞ」
「タッセイカン?」
「正直意味あるかとかそんなの抜きに終わった後にやり切った感じが気持ちいいんだ」
「・・・ソレは知らない。ダレもそんな答えイワナかった」
「そうか」
「ボクもヤッテいい?」
そういうや否やこちらの了解を取らずに勝手に腰の得物を抜いて距離を取り始めた。
自分勝手な所は親と同じらしい。
それからこのゴブリンは同じ大剣を持ってきて振り始めた。
俺が次のメニューに移ると付いてきて同じメニューをこなす。途中で見に来た監視が目を広げて驚かせていたのが見えたのでこのゴブリンは監視で付いているわけではないようだ。
すぐに飽きてどこかへ行くだろうと思っていたが結局このゴブリンは最後まで特訓メニューを行いきった。
俺が倒れそうなのに対し肩で息し出した程度で終えているゴブリンエリート。
なんか納得いかねぇがこれが生まれ持っての種族の差か。
「ハァハァ・・・タシカに」
「あっ?」
「オマエの言うタッセイカンってのがコノ感じナラ少しはワカッタ気がする」
「・・・そうか、よかったな」
俺の方は達成感より疲労感のが上回っているため共感はしてやれそうにない。
元気だなこいつ。それに、気のせいかこのゴブリンがなんか変わったような気がする。
なんかこの訓練こいつのが合ってたんじゃね?と思ってしまうな。
「ボクは昨日センセンから離脱をイイ渡された。君のゴエイをするシンエイ隊にナレって、最初はオマエの所為デト思ったケド確かにオモシロイ奴だった」
「ヤシャさん!」
話半分で別の声によって遮られ俺はゴブリンエリートから俺の名を呼んだゴブリンに意識を向けた。
「ヤシャさんの言ったような結果になりましたよ。
それで、これから村長がどうするかを決めたいからヤシャを呼んでくるようにって」
「そうか。やっと特訓が終わったので今から行くと伝えてくれ。それから何か飲み物を頼む」
「分かりました」
俺は息を整え、使用した大剣などを持つと呼びに来たゴブリンに場所を聞くと歩を進め始め、ふと後ろを振り返って、
「次の戦い、よろしく頼むな」
特訓に付き合ってくれたと言う事で何となく一言言った。特に理由はなかったが、言われたゴブリンはこちらこそと元気に返してくれた。
さてまだあと三日か・・・
それにしても明日もこの特訓をするのを考えると今から憂鬱だ。
片言のゴブリンとちゃんと喋るゴブリンの違いは年齢だけです。
ゴブリンの成長は早いのでちゃんと喋るより体の成長のが早いことにしてます。