14、宣戦布告
ゴブリンの先導により村で一番大きな建物の一部屋へと案内された。
さすがに村長だけあり宿よりも質が良く部屋には椅子と机も常備されている。
「お待たせ致しました。お客人」
そう言ってゴブリンが二体入ってきた。
一体は村長と思われる他のゴブリンより声を出したホブゴブリン。
そしてもう一体はその付き添いで入るゴブリンで村長に比べると二回りも体格が大きい。鑑定を使った結果ゴブリンエリートという名であった。
「おや?二人とも人間の身なりの魔族だったと言う事でしたが片方はクシャナ族の方でしたか。女性の方は服装がボロボロだったと言いますし貴方も似たような状態だったのかの」
クシャナ族と言われたのは俺の方だ。
クシャナ族は鬼人種の中でも外見はほぼ人間と変わらないうえに角が生えておらず特徴も黒髪黒目で背がやや低く俺の身長なら範囲内にギリギリ入っている事から変装している。
何その種族!?今の俺に都合よすぎだろ!?と思わなくもないがそういう鬼人種がいるらしい。
服屋でそれをマリアから聞いて店員が用意したクシャナ族の衣装の中から服を選んで見た目だけなら同じ鬼人種が見てもバレない完璧な変装をすることができていたと思う。
これでステータスが鬼人種でも問題なく検問があっても通れるようになる。
「それで早速ですがなぜこのようなことを?」
挨拶もそこそこに回りくどい話になる前にこちらから直球で訪ねる。
ここまでして連れてきてただの挨拶なんてことはないはずだ。厄介ごとは早めに済ませてしまいたい。
村長は僅かばかり顔を歪ませたが覚悟を決めた様でこちらを一瞥して話し始めた。
「実は最近人族と魔族の戦が増加しているのはご存知でしょうか?」
「いえ、現在は不可侵条約で戦はしていないはずでは?」
「確かに国同士での争いというものは行われていませんが、国境付近は境界線が曖昧で領土拡大を目論み村や町に戦をけしかけています。
それが最近ではひどくなり始め、ついに先日この村も人族の街から宣戦布告を受けました」
戦が起きるのか。街って言うと・・・俺が捕まった街か?
警備が厳しかったのも、防具が無かったのも、村人が全く見なかったのもこれが理由か・・・。
「話は分かりました。それで戦いに協力して欲しいとか?」
俺は全く役に立たないがマリアは最上位ランクの実力者。この街に来る時ギルドカードを見しているため村長にも伝わっているはずだ。
「いえいえ、そんな事出来ませんよ。国側が戦力を援軍に寄越したと見なして戦争を起こすのが人族の狙いです。あなた方が戦いに参加すればそのきっかけを作ることになるので我々しか戦う気はありませんよ」
「それでは」
「あなた方には村人の護衛をしてもらいたいのです。すでに村の大多数は隣の村へと避難が終わっていますがまだ少人数残っています。彼らも避難させないといけないのですがこれ以上兵力を割けば戦の方が人手が足らなくなってしまうんです」
人数の大半は商人がほとんどで人数もそこまで多くない。距離も一泊野宿する程度だという。
少人数を隣の街まで移動させるというのはマリア一人でも十分可能だとマリアは報酬次第で受けても構わないと耳打ちした。
村長は俺達が依頼を理解したところでまた問いてきた。
「どうでしょうか?」
「もう少し詳しい情報をください。ただの護衛ならいいがこれは避難だ。今のままではお答えに困ります」
「・・・そうですね。当然の返答だ」
村長の話はこうだ。
敵となる街は本来ここまで交戦するような関係ではなかった。
しかし街に新しく国から役職を持った人達が派遣されてから関係が悪化。しかも派遣された人員と一緒に大量の武器も入った様で戦力差は一気に開いてしまっている。
開戦は四日前後に村の南に拠点を置いてから攻めてくるとされている。
こちらの兵数は100相手側は400はいるそうだ。
そして特に問題なのは、
「調査させていた斥候が書き残した新兵器という物の存在です」
「新兵器ですか」
「遠距離から中級魔法を撃ち外装はすべて鉄。
そして何より撃っているのが魔法使いではなく一般兵だというのです」
村長は斥候が書いたという絵を見してもらうと驚愕した。
戦車である。
自分の知っている戦車に比べて不格好だがその絵は戦車そのものだった。
また前勇者の知識から造った物だろう。
はた迷惑なものを残してくれる。
ただでさえ兵力で4倍も劣るのに道具に面でも差がついてしまっているという事か。
「嘘のようですが相当大きく移動もするという」
「それって面白そうね」
マリアは弥叉に今後の選択を一任していたので任せきりで大人しく聞いていただけだったが戦車に興味が出たのか絵を見ながらそう呟いた。
しかしマリアには悪いがこの状況で戦車なんかと相対したくない。逃げるのが得策だな。
戦いに参加しろって言われなかったのはよかったといえる。
「それでこれは必要ない情報かもしれませんが今回の宣戦布告の指揮者はアル・ベリウソという審問官で、引き金となったのはこんな状態で街に入ろうとした魔族がいた事が原因のようです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ
自分の背にドッと汗が流れた気がした。
村長ゴブリンにばれているのではないかと思うほど顔から血が引いていっているような気がする。
「その魔族は処刑になったと言いますが本当に迷惑な事をしてくれたものですよ。」
「そうですね。全く、傍迷惑な事ですね。ハハハ・・・」
その傍迷惑をしたの俺だよね!?
時期も状況も俺しかないよ!
この村、俺の所為で戦するってことでしょ!?
確かにあの裁判中のおっさんの言動を思い出すと有り得ると思えて来るよ!!
・・・なんか急に他人事じゃなくなってきた。
隣でマリアもこっちに非難の目?で見てきている。
あれは完全に不可抗力だったんだと叫びたいがそんな事しても事態が良くなるわけではない。
どちらにしろ分かった事はこの件は関係無いで済ませられなくなった、という事だ。
・・・・・・・ホントどうしようかな。
「それでは改めてどうでしょう。護衛の依頼を引き受けて貰えますか?」
そんな内心で必死に混乱しながら思考して考えを纏めようとするが村長はそんなの関係なく結論を求めてくる。
もう少し間を取ってくれ。今、考えているんだから、
「・・・確認したい。俺tいや、マリアに任せればたぶん勝つことは容易だと思うんだが、それでも協力を要請する気は無いんですね」
「先程も言いました。
相手方の目的は戦火の拡大しての国同士の戦争を起こす事、わしらにそれを望む者はおらん」
「・・・いいでしょう。次にあなた達はこの戦力差を覆す”何か”を持っているのですか?」
この質問には村長ゴブリンは僅かに顔が沈み、控えていたゴブリンエリートは苦顔したような顔になった。
「ではどのように戦うつもりで?」
「・・・この村で籠城し避難民が逃げるまでの時間を」
「それでは一瞬で消されますね」
「な!?貴様我らが死ぬ気で籠城するのに一瞬で敗北するというのか!」
ヤシャの発言に村長ではなく戦士として戦うゴブリンエリートの方が激昂して吠えた。
今までマリア以上に一言も喋らなかったがどうやら脳筋なゴブリンのようだ。
こういったのには話すだけ無駄だというのが俺の結論なのですぐにまた村長に視線を戻した。
しかし村長の方もさすがに言いすぎだという顔でこちらを睨んでいる。
「まぁ一瞬かどうかは今はいい」
「貴様!」
謝ることなんてするわけなく逆にどうでもいいとばかりにそのまま話を続けたら、無視したゴブリンエリートは耐え切れなくなったのかヤシャへと殴りにかかってきた。
道中の戦闘のおかげか攻撃は見えるが避けられそうになく衝撃に身を固めた。
そして、
「グブッ」
「まだヤシャの話は終わってない。村長が耐えているのに貴様がそのような行動をすれば見捨てるぞ」
衝撃はなく、いつ拘束したのかわからぬ間にマリアはゴブリンエリートの腕をつかみ、背中に乗って押し倒していた。
ゴブリンエリートも何が起きたのか理解していないのだろう。呻き声を上げた後、戸惑ったように自分の背を見ている。
君さっきまで俺の横で座ってたのに一瞬で(たぶんだが)この村一のゴブリンを拘束しちゃってるの!?
なんかどんどんマリアの上限の無さが怖くなってくるよ!?
いや、まぁ、助かったけどさ。
でもその見たら体の芯が凍えそうな眼差しで睨むのは止めてあげた方がいいと思うぞ?
なんか変な雰囲気になってしまったな。
「・・・続きをお願いします」
「・・・・・あぁ、それでだ。籠城にしろ、普通に戦うにしろ、戦いになればあなた方は間違いなく敗北する。
そしてそのこと村長も理解している。そうだな?」
「・・・はい。そうですね。我々が勝てる見込みはたぶんありません。間違いないでしょう」
ここまでの話で村長が勝つことを望むつもりで戦うのではないのは明白であることは分かっているのでこの質問に意味はない。
俺にとっての大事なことは次の質問である。
自分の責任である以上返答はどうあれ聞く必要がある。
この戦のきっかけを作ってしまったのだ。
ただ見捨てることはできない。
ゴブリンと言えど自分の責任で殺されるなら助力ぐらいしておかないと後悔しそうだから。
・・・・・・・・・つまり自己満足だよ。悪いか!
そんな感情を内心で思いながらの質問である。
「だから俺がお前らに協力してやる」
「それは先程・・・」
「勘違いするな。戦うのはお前らだ。俺がするのは知恵を貸すという意味での協力だ」
困惑する村長ゴブリンを無視して続ける。
ゴブリンエリート?未だに抑えられているし脳筋の意見は求めてないので当然無視だ。
「俺には今見た絵の兵器についての知識がある。確実ではないが勝つための策もだ。ただ犬死するよりは戦いになると思うが」
「本当ですか!?」
「あぁ今のままでは不十分な面もあるが後からの修正ができる問題だ。仮に断っても護衛の依頼は受ける悪い話ではないだろう?」
「・・・・・・うむ」
村長ゴブリンは改めて考え出すがすぐには答えが出ない。
その表情は期待と困惑が見て取れる。
だがゴブリンエリートの方は組み伏せられながら疑いの眼差しで見てきている。
今ここで村長ゴブリンに答えを聞くのは簡単だが意見をまとめる時間も必要に見えた。
「まぁ、今日会ったばかりの俺が協力するのは信用出来ないだろうからすぐでなくていい。明日まで皆と話し合ってもいいだろう」
「・・・分かりました」
「それでは我々はこれで失礼するよ。何分今日ついたばかりで疲れている早く宿で体を休めたいので」
俺の退出に村長ゴブリンは何も言わずマリアに解放されたゴブリンエリートの咽せた声が聞こえる。
マリアの方は嬉しそうな顔でこちらを覗くが正直思い返すと自分の所為なのに何偉そうに言ってるのって言われて笑われるようなことだよ。
マジで恥ずかしい。完全に黒歴史入りだわ・・・。
取りあえず答えを聞くのは明日だし考えるのは止めて今日はもう帰って夕飯食ったら寝よう。
「あっ、ヤシャ。魔法の特訓はするからね」
マリア、あんた本当に鬼ですね。