13、観光 (ゴブリン村編)
「す、すみませんでした!!!」
「謝罪なんていいから、さっさとお金の用意をして渡しなさい」
「はい、ただいま!」
マリアの言葉でゴブリンが奥へと消え戻った時には袋いっぱいに詰まったお金を運んできた。
合計30万ベル
俺のアイテムボックスに限界まで収納していた魔物の部位の換金した収入だ。
マリアはあの大群の中、素手で倒した相手は質のいい部位を綺麗に残して仕留め、そのままアイテムボックスに保存。
アイテムボックス内では時間経過が無い様で仕留めた時そのままに保存できていた。
アイテムボックスは重量制限があり10分の1も入らずかなりの量をその場に捨ててきていたがそれでもかなりの金銭が得られた。・・・でだ。
さっきからマリアに謝り倒しているゴブリンだがこのゴブリンは最初換金の金額は10万ベルを提示してきた。俺はそんなにかと驚いていたんだが隣のマリアはこれに激怒。
契約書と一緒に机を真っ二つにした後、隣で見ている俺も震えるぐらいの表情からの笑顔での「次嘘ついたら次はないですよ」と言ってゴブリンが査定を改めさせた。
これからもマリアに逆らわないようにしようと本気で思いました。
「ベル銀貨29枚、ベル銅貨100枚でよろしいでしょうか?」
「えぇ、それで構わない」
銀貨は1万円で、銅貨は100円、補足で金貨は100万円と同等だ。
つまり一週間経たずに元の世界の1ヶ月の給料分稼げたことになる。魔物百単位を一週間で倒せらばなので美味しい仕事とはとても言えたものではないけどな。
金を受け取ったマリアは早々に店を出てしまい、俺は店主のゴブリンに一礼だけ入れて後を追う。
店を出てマリアを探すとマリアはすぐ隣の服屋に入って行ってしまった。
マリアの表情を確認しておきたかったのだが諦めることにして俺も店に入店した。
これで八つ当たりにあったら恨むぞ。
店内は当たり前だが大量の服が置かれ、内装は普通にゴブリンの店と見れば凄いが俺のいた世界を基準にすると小汚いとも言える。
だがそんなことはどうでもよくなる衝撃的な物が目の前に置かれていた。
「なぜ・・・こんな所にメイド服に警察や消防なんかの制服、二足猫の着ぐるみまであるんだ!?」
売られている一角に俺のいた世界の衣服が他の衣服同様に普通に売られているのだ。
ハンガーで飾っているのも俺がいた世界と同じ。
どう見ても元いた世界の店の風貌と類似していて、先に召喚されたという勇者が与えた知識の一端ではないかと思えた。
それにしてもラインナップが完全にコスプレの類である。
前勇者の性格が伺えるな。
「ようこそ、いらっしゃいました。
そちらは人型売り場でして現在人族で人気が出ているものですね。人族製は魔族領への発注は少ないんですが、ここは国境に近いですから運よく発注できたんですよ」
「あぁ人族の、それなら他のと少し違う感じがするはずだぁ」
唐突に声をかけてきた店員ゴブリンが俺が興味を持ったと思い、慣れた手つきで見ていた衣服の説明をし出した。
見た目ゴブリンなのに人間の接待と変わらないのが違和感半端ない。それがよく知っている服を説明してくる姿に苦笑して聞いているしかなかった。
とにかく気まずい。
何とか話から抜けようか悩み出していると、
「ヤシャ、何か良いのあった?」
何着か手に持ち、隣の店での不機嫌な表情は消えたマリアがこちらに近づいていた。
マリアナイス!
マリアの登場により店員は説明を止めてマリアに対応した。
「あぁ、お連れの方ですね。お探しの物はありましたでしょうか?」
「そうねぇ?旅をする予定なので動きやすい服をもう何着か欲しいんだけど?」
「そうですねぇ。それなら・・・動きやすい服は冒険者用を服ですがお客さんはスタイル良いですから国の騎士様方のよく使われるこちらなんてどうでしょう?」
店員が進めたのは飾りなどがないシンプルなもので着たらスポーツ女子って感じになりそうだった。
確かにマリアのスタイルに合いそうだがもう少し着飾った服装の方がいいと思うな。
俺なら・・・・・・・
「店員さん試着室はあります?」
「はい!こちらになります」
・・・・・・マリアが俺が良いかなと思ったやつを取っていきましたよ。
俺何も言ってないのになんで分かったんだ?
「お客さん目線が正直でしたよ」
「・・・・・・・」
「それでお客さんの方は衣服をお求めで?」
「・・・買う予定ですが彼女のが決まってから決めるんで」
だからそんな苦笑しながら近づかないでくれますかね。
そんな思いも虚しくこの店員ゴブリンはやたらと話しかけてきた。
俺ら以外客がいないと思っていたが今の時間帯が全く人がいないというより一日中全く人が来ないらしく暇していて少しでも相手をしてもらいたかったそうだ。
知っている服を説明されるよりはいいがゴブリンと世間話をするのも慣れないので早く打ち切ってくれないかなと思っているのを表面に出さないようにしながら適当に相槌を打つ。
結局ゴブリンの店員が話している間に試着室からマリアが出てきた。
店員のが先に気づいてそれにつられてマリアの方を向く。
そして面食らったように瞬きをしながら固まってしまった。
マリアは長く腰近くまで伸びていた髪を結わえて首飾りを付けてポニーテールに、服装は俺が選んだ袖が別れているタイプでスカートは長め、ストッキングまで統一された黒チャイナドレスが狙い通りに彼女の妖艶さをより引き立ていて、
「どうかなヤシャ、似合ってる?」
「そ、その、に、似合っている!すごく似合っているよ。今まで見てきた何よりも可憐で、凛々しくて、それでいて・・・・き、綺麗だ」
顔が真っ赤にし経験値のない対人スキルをフル稼働させて語彙必死に繋げてマリアを褒めた。
マリアのスタイルが良いのは旅を一緒にしていたのだ嫌でもわかる。顔はアイドルとだって負けてないし店員が言った通り何を着ても似合っていただろう。
だがこの時そんな大前提なんて関係なく完全に弥叉は、マリアに見惚れていた。
「ほ・・・・ほんとに?」
「あぁ」
「ありがとう、ヤシャ」
ヤバい顔から熱が出ているみたいに熱い。
前にいるマリアも嬉しそうに頬を染めていたことにも気づかない程に弥叉はテンパっていた。
「店員さんこの服も買うからこのまま着て行っていいかな?」
「かしこまりました。では会計を・・・・こちらの品も問題ありませんか?」
「えぇ一緒にお願い」
先に立ち直ったマリアは会計を済ませ10着以上は購入すると、さっき換金してもらった金の3割を消費した。
「では彼女が決まりましたのでどうします?何か要望があればこちらでも何着か見繕いますが」
「あの彼には普通の服とは別にクシャナ族の服装をお願いできますか?」
マリアが俺の服装も決めてくれるようでゴブリンに案内されて行ってようやく冷静さを取り戻すと自分の言った事を思い出して激しく悶絶した。
◇ ◆ ◇
俺の服も無事調達することができ、マリアと一緒に今後の旅に必要な物資を見て回りながら買った後、予約してもらっていた宿屋の部屋で腰を下ろした。
知らない道具や技術、見慣れない植物や生き物等をマリアから説明を受けて気づいたのだが、この世界は技術力が乏しく中世のヨーロッパに似ていると思っていたのだがそれは間違っていたようで元の世界の技術では不可能な魔法的技術によって独地の発展を築いているようだ。
「それにしてもこの村の品切れは多すぎるよ」
「最低限の食料や道具は揃えられたし次の村の位置も分かっただけいいじゃないか」
「それでも武器とか回復系のアイテムがすべて品切れなんておかしいんじゃないかな」
マリアの言っている回復系のアイテムとはゲームなどでよくあるポーションや魔力石等のことで回復魔法の使える者がいないパーティーには必須のアイテムの事である。
そして会話から分かる通り真っ先に買おうとしたが商店には一つも売られていなかった。
武器も同様でここまで来た魔物との戦闘でマリアのように素手で戦うのは無理なのでせめて専用の武器と護身用の武器の購入をしておきたいと店に入ったのだが品切れで店主からはやっていないと言い渡されたのだった。
更に言えば店を開いている数からして少ない。
マリアの気のせいという訳じゃないだろうなぁ。
俺も気にかかっている事で服屋の店員が言っていた客が来なくて暇だというのを聞いてそれとなく村人の数を数えていたが規模が小さいのを差し引いても村人の数があまりに少なく村で何か起こっているのではと思っていた。
「何かある前に村から出るのが最善かもしれないか」
「・・・・・ヤシャ、たぶんもう遅い」
ただの独り言のような小さい声で言った言葉にマリアが返してきた。
そしてそれを理解した瞬間面倒ごとが来るという嫌な予感が的中したことを悟ってしまった。
弥叉はどこか諦めながらマリアに続きをと顔を向ける。
「こっちに向かって包囲するように来てる集団が20、たぶんヤシャの言う何かに巻き込まれる予感」
取りあえず俺が人間だとばれて襲ってきたという可能性も無きにしも非ずなので逃亡できるように荷物をすべてアイテムボックスへとしまっていつでも逃げられるように窓を開け入り口から遠い位置に立って相手側が来るのを待った。
マリアの言った通り数分後、10体のゴブリンが部屋へと侵入してきた。残りは宿の周りを囲っているらしい。
入ってきたゴブリンは武装している。その中に最初にあったホブゴブリンの姿があった。
部屋に侵入してきたゴブリンは俺達を囲むように移動しながらもマリアから視線を外さずにいる。
・・・・というか俺は眼中にないっぽい。
まぁ、ここは俺よりマリアが話した方が穏便に済みそうだから任せるんだけどさ。
「これであなた方に囲まれるのは二度目ですか。一応を聞きましょう何の真似ですか?」
「すまないが何も聞かずに我々と来てもらいたい。我らの長がお会いしたいと仰られている」
「なら、ここまで武装で来る必要がないはずだが」
「すまん。詮索は無しで頼みたい」
そこまで話したところでマリアが一度こちらへと視線を移した。
俺の意見についてだろうと思い俺は質問をした。
「断ったら?」
「拒否権はない。・・・が、我々で抑えられるとも思っていなからな。そちらが逃亡又はここにいる全員を倒せば同じ結果になるのでこの答えに強制力はないな」
本当に言っているかはともかく前にいるゴブリンも周囲にいるゴブリンもこちらへ危害を加える動きは見られないそうで、俺も問題ないと告げる。
マリアが頷き、会う事を了承するとボブリン達に先導されながら宿を出た。