12、ギルドカード
ホブゴブリンの指示通りにゴブリンが話をつけ何事もなく村に入ることができた。
村はすべて木の家の一階建ての簡素なものでコンクリートなんか一切なく家と家の間に畑を耕している。
昔の田舎町のような風景だった。
これをゴブリンが作ったとか信じられないな。
ゴブリン村っていうからもっと小汚い廃墟の家みたいなのを想像していたのでこんな人が住んでてもおかしくないほど整った村とは予想外過ぎた。
まぁゴブリンが存在するだけで予想外ではあるが。
「衣服類ヲ売るオミセに先に行かレルンで?」
「まずはここまで来たときに倒した魔物の素材を換金したいかな?」
「ソレでしたら服屋のトナリがコの村でソウイッタ事を任しテル店がアリマスね。」
「そう、ありがと」
マリアはゴブリンに店の位置を聞くと俺の腕を掴むと先導するように引っ張った。
「行こう、ヤシャ」
マリアの腕につられて俺も歩を進める。
買い物が好きなのかマリアの表情はいつもより明るい。
・・・そういえば、
「なぁ、マリア。あのホブゴブリンに何見してもらったんだ?」
ここに来る前にも同じ質問をしたら「あとで」と返されたので、ゴブリン達がいなくなるまで待っていたのだ。
「これね」
マリアは先ほど見せていた画面と同じものを俺にも見せてくれる。
状態はやはりステータスの表示機能と同じ半透明のプレートのような物に見える。
所属名:なし
階級:白
魔族ギルドランク:S
所持金:2,008,975
「二百万!?」
「そっちじゃない!」
だって二百万だよ!大金だよ?
こっちの通貨の相場を聞いたら日本とほとんど変わらないから驚くのは無理ないよ!
村で物を買うのも換金の額次第だと思っていたから心配だったのでこれで金銭面での不安は解消されたんだから。
「・・・・・・・・・むっ」
「嫌すまん。そっちじゃないのは分かってるんだが・・・どうしてもな」
マリアの視線が鋭くなるのを感じて慌てて謝った。これ以上話をそらすと話してくれなくなるんだよな。
「確かにそれなりにはあるけど、この所持金はギルドかギルドから下ろせるお店でないと使えない物だからここでは意味がないよ」
「キャッシュカードって事か?」
「キャッシュカード?」
マリアの不機嫌さが逸れたところで話を戻す。
「いや、何でもない。それで魔族ギルド?」
「そうですね。冒険者ギルドってわかります?」
「この世界のは分からないけど冒険者が依頼を受けて達成報酬を稼ぐその元締めってイメージだな」
俺の大雑把な説明にマリアは頷いてくれた。
「そんな感じで問題ない。細かいことは各支部によって様々だから深く考える必要はない」
「それじゃあ魔族ギルドは冒険者ギルドってことか?」
「人族が設立しているのが冒険者ギルドで魔族が設立したのが魔族ギルド」
また不機嫌そうな表情になった。
区別されている事に何か意味があるのか聞こうとする前マリアは勝手に語り出し始めた。
「元々冒険者ギルドは魔族、人族領両方にあったんだけど、戦争開始時本部を仕切る人間側が魔族領支部への援助を一切打ち切ってギルドからの依頼が出来なくしてしまった。
それで大半の魔族冒険者が依頼が出来なくなり稼ぎがなくなって冒険者を辞める人が多く出たの。
でも全員がそうはならない路頭に迷ったり山賊になっていった者もいた。
人族領でも冒険をしていた魔族パーティーが宣戦布告の勧告を国民に告げると同時に捕らえられて殺され見せしめにされた。
その後も冒険者がいなくなってそれまで任せていた方面の対処ができず住民からの反発が起き、その対処に魔族軍がかなりの人員を割いて当たらないといけなくなった。それでも足らずに魔物による被害も増加の一途で関係ない住民が多く亡くなった報告は各地から届いた。
そして止めとなったのは魔族領にいた人間の冒険者は魔族を狩りながら祖国に帰ってくれて・・・・」
マリアの表情はさらに険しくなるのがどれだけ厳しかったかを物語っている。
こっちの人達よ、流石にやり過ぎだろ。
「・・・ふぅ。そんなことがあって魔族の冒険者ギルドは取り潰し、代わりに国が認めた新たなギルドが設立されたの。
それが魔族ギルド。
私が封印される前には全魔族領に広まってた」
「画面を見て理解したってことは今も続いているって考えていいって事か?」
「そうね。・・・長くなったわ。
本題のこのカードについてだけど、なんであのゴブリンが驚いたのかの答えは私が最高ランクの冒険者だったからよ」
マリアは吹っ切りながら自慢そうに胸を張る。
ギルドランクSってことでそんな予想していたことだが、話を折る気はないため、何も言わずに話を聞き続けた。
だいぶマリアの凄いには慣れたのだ。
「冒険者って言っても役割ってあるじゃない?
討伐だったり、護衛だったり、探索だったり?
それを旧冒険者ギルドの時は一纏めにランクを付けたんだけどそれだと戦闘バカが護衛につく事やランクだけ高くて戦闘できない腰抜けが緊急討伐のメンバーに入ってたりしたの。
だから魔族ギルドはその各分野ごとに階級を付けてその人の得意不得意を分かりやすくしたの。
戦闘冒険者は赤、護衛は黄、探索が青って具合にね。」
「なるほど、Sランクでも階級が赤の冒険者は戦闘の技能がSであると分かり易きしたと」
「えぇ、そのおかげで依頼失敗数は減少したわ。
試験もあったからパーティーメンバーが底上げするなんてこと出来ないようにしたから信頼出来ると市民からは好評。
一部の冒険者は反発してきたけどね。
・・・で、階級だから段階があって二つ以上のランクを上げるとその二つを意味する階級が与えられていく。
そしてその最上位階級が白!
その中でもSランクは当時両手で数えるほどしかいなかったんだから」
「そいつは凄いな」
というかホントにマリアって封印されるまでどんな立ち位置だったんだ?
情勢が入ってきてその対処も入ってくる。場合によっては意見しているような言い方だ。
話だけでも相当偉くても不思議じゃない。むしろ納得してしまうんだが、
「ヤシャ、あの店じゃない?
ゴブリンが言ってた換金してくれる店って」
マリアについて疑問は膨らむが今は関係ないなと内側にしまい込んでマリアの指す方を見ると服屋と何の店か分からないが店っぽいのが見えてきた。