S1,アロドフの勇者
人族領『トルツゥーマス』
その中で最大級の面積と技術を併せ持つ国『アロドフ』で今日勇者召喚の儀が執り行われた。
過去一度しか使用しても成功することがなかったこの儀がこの日ついに成功する事となる。
「ようこそ、勇者様。私は王家第二王女のウィアと申します。これから状況説明ならびに国王の元までの案内をさせて頂きます。お名前を伺っても?」
「あぁ、雄也だ」
目の前に来た少女の言葉に相槌返しながら、僕、増渕雄也は状況を再確認する。
僕は先ほどまで神という子供から異世界へ召喚され勇者として魔王を倒すように言われこの世界に送られた。
友達で幼馴染である花識真希と田中隆も同様に召喚され、先にこちらに来ているはずだ。周りには少女とローブを被った男達が数人いるだけで二人の姿がない。
「あの僕以外は?」
「はい。お二方、マキ様とリュウ様はすでに来て案内を受けております」
「そうですか」
一瞬全員別々の場所に召喚されたかもと思ったが杞憂であった。
彼女からはここがアドロフという国の王城であること以外あの部屋の中で言われたことだったが情報を比較する意味も込めて黙って聞いていた。
(城を歩くのもだけど武器を掲げて隣を歩く兵士には居心地が良くないから少し下がってもらいたいなぁ)
そんな考えをしていると他の部屋の扉とは作りから違う大きな金属でできている扉の前まで来ると、
「こちらになります。すでに案内されている勇者様方と同じようにしてお待ちください」
その扉は甲高い音を立て開くと兵士と王女様は下がり俺だけが中へと入った。
「おう雄也、遅えぞ」
入ってすぐ聞き慣れた声が聞こえてきて少しほっとする。
流石に知らない場所に一人でいるのは緊張していたようで身体から力が抜けるのが実感できた。
中はテレビの中で見る中世の宮殿のようで最奥には豪華な造りの椅子たぶん王座があり、その少し前の位置で二人は待たされていた。
「やっと最後かぁ、私こんな所でずっと待たされてるから早くしてほしいなぁ」
「しょうがねぇだろ、順番はあいつが決めたんだから」
真希は最初に召喚されたのもあってか待ちくたびれたと愚痴をこぼすのを隆が窘める。
「そのことなんだがな」
僕は神から聞かされたその最後の一人についてを神から言われたことそのままに話した。
神曰く、本来召喚されるはずだったのは僕たち三人だけあの男の人は僕らの召喚場所に偶々居合せて巻き込まれただけの存在で呼ぶ必要のなかったこと。
そして俺が召喚後そのことを打ち明け元の世界に戻す予定でいると言う事。
もし仮にこちらに残ることを望んでもただの一般人としてもう僕らとは関わらない生活を過ごすことになるだろうことを言い渡された。
その話をすると隆が口を開いた。
「それじゃあやっぱし勇者は俺らだけって事か」
隆の言葉に頷くと二人とも納得した顔をした。
聞かれた時の僕が思ったことと同じ反応だ。
まぁ当然と言えば当然か。
「なんで一人だけ関わりのない人が混じってるのかなって思ったよ」
「あのオッサンなんて名前だっけか?」
「名乗ってなかったと思うよ」
「ほんとに赤の他人だったな」
本当に冴えない男だったと思うよ。僕らとは違う人種と言ってもいいぐらい底辺に見えたからなぁ。
暫く巻き込まれ男を肴に笑い合ってお互いの緊張をほぐしながら話していると入って来た扉とは別の扉が開いた。
いきなりで吃驚しながらそちらへと視線を送ると、「国王様入場」と共に何人もの人々が扉から入ってくる。
隣の二人は緊張した顔をしている。
かく言う僕も緊張して同じような顔をしてるだろうけど。
最初に入ってきた人は上質だが派手さが少なく堅い感じが強く伝わってくる。
たぶん貴族という奴だろう王族がいるのだからいてもおかしくない。
後から入ってくる程服装は派手さが増していき、途中から明らかに年齢が若くなる。その中には僕を案内したウィアもいたので王家の王女、王子達だろう。そして最後の中年の男性が王座に座ったところで扉が閉められた。
座る国王の左右に立つのが重臣で宰相や将軍といった地位を持った人たちかな?
「よく我が国へ召喚してくれた勇者方。こちらの都合で呼び出して悪いが、お主達には魔王を討伐して頂きたいのだ」
国王のその挨拶の後、隣に立つ禿げ面の男性から現在の人族の現状についての説明がされた。
この世界全体の事『ガイアース』と呼び、人族領を『トルツゥーマス』、亜人が納める『レオリア』、魔族領『イビル』が領土を持ち統治している。
この三つの中で亜人族とは領土が海で別れていることもあってか今まで争うことは一度もなかったのだが領土が重なっている魔族とは過去幾つもの戦いがあり、前回の戦争では50年もの長い戦いで全人族滅亡かと思われるほどに激しい戦いにまで発展したという。前回は前任の勇者を召喚し魔王を討伐に成功したことにより戦争は不可侵条約を結んだことにより停戦となった。
しかし停戦から200年たった今、魔族の動きが活発化し出していて国境付近では小規模だが町や村同士の争いが起こっており、我々はこれを魔王復活を意味し再び戦争を起こすと考えている。
魔族は人族より強大な魔力と優れた身体能力を持っていおり、個々としての力も高いが何より脅威となるのは高位魔族。
彼らは一体で高ランクの冒険者や国の聖騎士達を入れた一部隊と同等かそれ以上が普通のような連中ばかりで複数現れた場合軍で当たる必要がある。しかしそれでは奴らの戦力を削ぐ前にこちらの被害が尋常じゃない程出てしまう。
そこで前回と違い早い段階で勇者を呼び戦争開始になった段階ですぐに投入できるようにしてしまうことにした。
「ちょっと待てそれじゃあまだ戦争が始まっていないのか」
「そうですが?」
「それじゃあ俺達は魔王が攻めてくるまで待てっていうのか?」
隆も気づいたのだろう。
あの神からの帰るための条件は魔王討伐、そして今は戦争状態ではないとなると仮に魔王が進軍してこなければ討伐できない。
つまり帰れないんじゃないかと、
「早く討伐したいというのは大変喜ばしいことですが前任勇者様方も召喚から討伐をする力つけるまでには相当の時間と鍛錬を有したとあります。戦争が始まってから魔王を倒すほど強くなるのを待てば前回の二の舞になる。勇者様方には申し訳ありませんがその辺はご勘弁を」
「魔王が攻めてこないと言う事は考えにくいことだが確証となるものを提示することも出来ん。すまんな」
国王が頭を下げて謝ったことで周囲からざわめきが起こった。向こうも被害拡大を防ぎたいのだろうこれ以上この件で文句を言うわけにもいかない。
「分かりました。今はあなたたちを信用して言うことを聞きましょう」
「感謝する」
「それでは勇者様には騎士魔法学校への入学をしてもらいたいと思います」
学校と聞いて隣にいた真希が顔をしかめた。自分もそれなりだけど真希は勉強が嫌いだからなぁ。
僕としては師匠とか付けられてワンツーマンで指導とかじゃなくってよかったと安心したんだが、
「それから勇者様のサポート役として数名付けようと思いますが、どんな人物かも分からず押し付けられてもそちらに迷惑を掛けるだけでしょう。
入学手続きが終わり通えるようになるまで5日間宴の席を用意していますので各時で気に入ったという方をスカウトして頂きたいと思っております。
付けないのも良いですが皆様こちらの事について知らないことだらけだと思います。付けた方が何かと問題は起こりにくいかと忠告しておきます」
そう締めくくられ、拝謁は終了。
入って来た時とは逆に国王から順に退出して行く。
残ったのは俺達の他に最初に案内してもらった王族の人達が残り、この後に場内を説明を受けながら見て回った。
夜には宴が開かれて安全な異世界生活が始まった。




