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19世紀、産業革命あたりの某ヨーロッパをイメージしていただきたい…そして、ご都合主義。ごめんなさい…

正午の鐘がなる。

休日の正午ともなると、飲食店であるこの店は混み合って大変だ。

集中しなければと思っても、待ち焦がれていた音が聞こえて、ドキリと一つ胸がなる。

ご飯が待ち遠しいわけではない。

むしろこの時間は店が一番混み合うので、私の昼食はまだ先である。

忙しくお客の間を抜いながらも、視線はどうしても入口に向いてしまう。


今日は来てくれるかな、それともこないだろうか…


期待と不安がグルグルと心の中を巡る。

しかし、それは決して表情には出さない。

笑顔で接客に勤しむ。


ここは産業の栄えるウェルバー王国、その王都にある駅の近くにある飲食店『コール』。

私はそこで、接客の仕事をしている。

田舎…とは言い切れないが、それなりに穏やかな故郷から、王都にある学校に通うため、私は王都に越して来た。

平日は学校に通い、学校が終わった後と休日にここで働いて、生活費やらを稼いでいる。

実家は決して裕福ではないから、このくらいは自分で補わなければならない。


王都に来て慣れない一人暮らしの中、探し出したこの仕事は、想像以上に大変だ。

お客に注文を聞いて料理を運ぶ、お客が食事を終えたら会計をしてテーブルを片付ける。

他にも手が空けば、皿洗いや盛り付けを手伝ったりする、その繰り返し。

とても大変な仕事だし、学校の勉強だって大変だ。


けれど私はラッキーだった。

小さな頃からだが、私はよくよく小さなラッキーに恵まれていると思う。

自分で言うのもどうなのとは思うけど…

例えば、誕生日にそれまで大切に育てていた花が満開に花開いたり、お使いに行けば丁度その日にとれた新鮮なものを買えたり。


だから、とは断言しないけれど。

仕事は大変ではある、けれどそこにいる人は皆明るく優しい人達ばかりだ。

王都に来て慣れないことばかりだった私にたくさんのことを教えてくれた。

私は学校で勉強を学び、『コール』で生活を学んだ。

故郷と王都の生活はやっぱり違っていて、慣れるのが大変だったけれど、『コール』に働く仲間のおかげで要領を得て、王都に越して来た3ヶ月たった今は割と上手くやれていると思う。


「すみませーん、注文いいですかー?」

「はーい!ただ今まいります、少々お待ち下さい!」


食事を終えた木製のテーブルを綺麗吹き上げ、注文を取りに行く。


「お待たせしました、ご注文はなんでしょう?」

「えっとね〜…」


注文をとっていると店のドアが開き、カランっと軽やかなベルの音が響く。

新しいお客が入ってきたのだ。

入ってきた人物を横目で見て、また心臓が大きく鳴った。


『彼』だ…



『彼』は、休日のお昼によく来店するお客様

金色に近い茶の髪に、優しげな顔立ちと濃い茶の瞳、

スラリとした長身が身を包むのは駅員の制服で、よく似合っている。


『彼』は多くの人が集う王国一の駅に勤める駅員さんの1人。

今日は仲間の駅員さん三人と一緒に、談笑しながら店内に入ってきた。

そんな『彼』に、しばしば見惚れてしまった。


「お姉さん?おーい、大丈夫ですか?」

「はっ!あぁ!すみませんっ!」

「あはは、別に大丈夫ですよ。それにしても、賑やかな街ですね。王都って言っても…毎日こうなんですか?」

「え?あぁ、いいえ、もうすぐ建国祭があるんです。それで今は準備だとかもあるんですけど、なにより他国のお客様や国内中の人が集まってくるので、そのせいですよ」

「へー、それは知らなかった」

「結構大々的にやってるし、有名なんですけど、初めてですか?」

「はい、旅人やってるので、この国に来たのが初めてなんですよ。でも、いきなりこんなに賑やかだからビックリしました。けど、お祭りがあるんですね」

「明後日から始まるので、楽しんでいってくださいね」

「うん、ありがとう」


それでは少々お待ち下さい、と断ってからテーブルを離れる。

注文を渡しにキッチンへ行きつつ、『彼』を盗み見た。

四人掛けのテーブルで、メニューを眺めている姿にも、ドキリと胸を打つ。

しばらくすれば、『彼』らからも声がかかるだろう。

そう思うと、少し息が詰まってしまう。

小さく小さく息を吸って、吐く。


スー… ハー… スー… ハー…


息を整え終えた時、丁度声がかかった。


「すみません」

「はい!ただ今まいります!」



読んでいただきありがとうございます。

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