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スナック  作者: ヤマダ
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繭玉

 これは私が子供のころの出来事です。

 まだ小学生だった私は友達と一緒に学校から帰る途中でした。夕方なのに日は高く、やたらと暑い日だったのを覚えています。

 遊びたいざかり私たちはランドセルを家に置きに行く時間も惜しくて、学校が終わるとそのまま遊びにいきました。あの日も蝉を採るために皆で裏山へと急ぎました。裏山は蝉を採るのに恰好の場所で、早く行かないと人でいっぱいになってしまうのです。

 いつも子供たちでにぎわっているのに、あの日は私たちのほかには誰もいませんでした。当時はラッキーだとしか思いませんでしたが、今考えるとその時すでにおかしかったのかもしれません。

 蝉は大量に採れ、私たちは大いに興奮していました。そして、気分の大きくなっていた私たちは、祠まで行ってみようということになったのです。

 祠は裏山の少し奥まった所にあり、決して行けないということはありませんが浮浪者がいたりすることもあり親や教師からはきつく止められていました。普段は出来るだけ離れて遊んでいたのですが、この時ばかりは好奇心を抑え切れませんでした。そして、あれを見つけてしまったのです。

 祠の前にあったのは丸まった毛布でした。何の変哲もない家庭用毛布で、中に人一人がくるまっているかのように膨らんでいました。粗大ごみなどを裏山の奥へばれない様に捨てに来る人はよくいるのです。見つけたときこそどきりとしましたが、布団だと分かりなあんだと帰ろうとしたときでした。

もぞり、と動いたのです。

 私たちはお互いに顔を見合わせました。見たか?見た見た。各々が同じように青ざめていました。そんなとき、友人の一人が拾った木の棒を持って布団に近づいていきました。私たちは声をあげ彼を呼び戻そうとしましたが無駄でした。

 布団を棒でつつくと何の反応もありません。そのときは残念な反面とてもほっとしました。しかし、次の瞬間、彼は棒を布団へと強く打ち下ろしたのです。

 布団はぐしゃりと形を崩し、布団の下からはどろどろとした体液のようなものが流れ出し、肉が腐ったような匂いが立ち込めました。

 その後のことはあまり詳しくは覚えていません。私たちは叫びながら無我夢中で裏山を駆け下りました。とんでもないことをしてしまった。誰かにばれるのではないかとしばらく怯えていましたが、その心配は杞憂に終わり私たちの間でも徐々に忘れ去られました。


 あれから随分と時が経ち、裏山での出来事などすっかり忘れていました。そんなつい先日のことです。興味深いことを耳にしました。蝶や蛾の幼虫が生態へと成長する際、蛹や繭の中で神経や呼吸器系以外の組織をどろどろに溶かして身体を作り変えるそうなのです。 

この話を聞いたときに、真っ先にあの丸まった布団が脳裏に鮮明に浮かび上がりました。

 あの時私たちが見つけたあれは一体なんだったのでしょう。今となっては確かめるすべもありませんが、私たちが気づかずにあのまま成体になっていたらと思うと今でも背筋が寒くなるのです。


〈了〉

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