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スナック  作者: ヤマダ
3/22

メイキング!!

 「夏樹センパイ、だいじょうぶですか」

 他大学との合コン中、酔いのせいで突如の吐き気をもよおした夏樹に加奈は肩を貸しながらようやく化粧室へとたどり着いた。夏樹は加奈よりも背が高くのしかかられるような形になり加奈は随分と体力を消耗してしまった。ちょうど気になる男子といい感じだったのにと悔しい気持ちでいっぱいだ。

 女子トイレは「女子」とは名ばかりで殺伐とした空気が漂っている。個室の中からは嘔吐の叫びが聞こえ、化粧台は乙女たちが黙々と次の戦いへの戦化粧を施している。中にはメイクをしながら戦況報告、情報交換までこなすつわものもいる。

 先ほどまでたくさんいたはずのきゃぴきゃぴっとした女の子たちはいったいどこへ消えてしまったのだろうか。


 へとへとになりながらも先輩を気づかう健気な加奈だったが、夏樹をみると先ほどまでの状態が嘘のようにぴんぴんしている。

 「ちょっと加奈、もっと早く歩いてよ。時間がもったいない」

 やはり芝居だったか。トイレへ行くのに名指しで指名してくるなんておかしいもんな。保険係りじゃあるまいし。

 「まさか、私が男の子とうまくいってることへの嫌がらせですか?」

 「ぴんぽーん!!」

 心配して損した。そんな脱力感に駆られる加奈だったが更なる悲劇が彼女を襲う。

 「なんで!?それ私の化粧ポーチ!!」

 「忘れちゃったから貸して☆」

 「なんで事後承諾なんですか!!」

 実は合コンを抜ける際、夏樹は加奈の鞄から化粧ポーチを抜き取っていたのだ。 すべては自然に化粧直しをして場に戻るための夏樹の策略なのである。

 「ちゃんと言ったんだからいいじゃない」と男心を打ち抜くような可愛らしい  ウィンクでごまかそうとする夏樹に対して「いや、完璧に泥棒ですから」と加奈は全力で阻止する。

 しかしそこは先輩と後輩。夏樹は上下関係を盾に力づくで化粧ポーチを奪い取り、素早く化粧台に陣取りメイクを始めた。


 「この前買ったばかりのリップ、使ったらぶっ殺しますからね」

 「ぶっ殺すだなんて女の子が使う言葉?化けの皮、かぶりなおした方がいいんじゃない?」

 なんて反応速度だろう。加奈はあきれるのを通り越して感心してしまう。

 「ぎやぁ!!虫ぃ!!」

 そういった途端、夏樹はポーチを放りなげる。宙に舞うポーチの中から零れ落ちる黒い物体X。

 化粧台周辺の女子は夏樹の雄たけびと謎の物体によりパニックを起こし、たちまち悲鳴とともに化粧室から逃げ去ってしまった。

 「失礼な、よく見てくださいよ」

 床に散らばった化粧道具を集めながら、加奈は謎の物体を夏樹に見せ付ける。

 「・・・・・・つけま?」

 そう、一見ゲジゲジともとれる毛の束は、のりで貼るだけでおめめをパッチリ見せる魔法のようなアイテム、付けまつげこと略して『つけま』であった。

 「アンタ、こんなもの使ってんの」

 少し馬鹿にしたような言い草に「先輩には関係ないじゃないですか」と加奈は言い返す。

 わかってないんだから、と夏樹はため息をついて加奈から化粧道具をふたたび奪い取る。

 「そんなつけるタイプの魔法ごときじゃすぐに剥がれちゃうわ。魔法は手を抜かず、しっかりとかけるものなのよ」

 そう言いながら念入りに化粧をする様子は、言うだけのことはあり、様になっている。

 「ほらね」

 勝ち誇ったように微笑む夏樹は、それこそ魔法でもかかっているかのようにきらめいている。

 ものすごくむかつく先輩ではあるが、そこのところは加奈も認めざるを得ない。


 「早く行かないと、またヒゲがのびますよ」

 悔し紛れにそう言ってやると「合コン中に言ったら殺す!!」と重低音ボイスで返された。

 鏡を見ながら口まわりのファンデーションを塗りなおしているあたり、自分でも気にしているようだ。

 ま、この化け具合じゃ絶対分からないだろうな。オカマ魔女め。

 素性を知られていない合コンに参加しては男たちの心を奪っていく、夏樹にはぴったりの渾名だ。

 言いたい事は山ほどあるけれど、どうせ言い負かされてしまうのでそっと胸にしまっておく。

 ここはやはり、いい男をGETして見返すしかない!!

 加奈はそう心に決め、夏樹こと夏樹大五郎とともに戦場へと戻るのであった。


〈了〉

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