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スナック  作者: ヤマダ
20/22

猫式

小説サイト『セルバンテス』及び、自身のtwitterにて掲載。

 ある日、同居人が猫になった。

 それは紛れもなく一瞬の事で、食事中の会話の途中でにゃあにゃあ言い始めた彼は、みるみるうちに縮んでいきキジトラの子猫になってしまった。

着ていたトレーナーの中から出て来た彼はか弱くみいみいと鳴き、甘いミルクの香りがした。

 まず私は彼の仕事先に連絡した。すぐに彼の上司へと繋がり、猫になった事を話せばとても同情された。

 次に、彼の実家へと連絡した。話した途端、受話器の向こうから落胆が漏れ聞こえる。やはり、猫憑きの血筋だったか。

 彼を養いたい旨を伝えると、すぐに了承してくれた。

最後に、私の両親へと電話した。誰よりも悲しんだのは母だ。二週間後に控えた結婚式は、これで取り止めとなった。

 すぐに別れなさい。

 決まり文句を告げられる前に、手早く通話を切る。

 電話コードにじゃれつき絡まっていた彼を救出し、新たな生活を始めるために大屋さんの元へ急ぐ。

 今は猫になった人向けに手厚い保証もあり、結婚のために蓄えがあった私たちはこれで何も困ることはない。猫化した人はペットの扱いにはならないので、追い出されることも無かった。

 これは、猫化人のために権利を争ってくれた過去の先人たちに感謝をしなければならない。ありがとう、ありがとう。

 彼は人の時の記憶もちゃんとあるらしい。勝手にスマホを取られて、肉球を器用に使い『すまん』とだけ打たれた時はつい笑ってしまった。

 伏せた耳も垂れ下がった尻尾も、申し訳なさを感じさせ、人だった時には無かった哀愁が漂う。

 何が、と尋ねたがそこは教えてくれなかった。

 周りからは非常に同情された。新郎を失った悲劇の花嫁、なんだそうだ。彼が猫化した後も、彼を引き取り働きに出る私を、健気だと涙する人さえいた。

 しかし、誤解しないで欲しい。彼は姿が変わったが傍にいるし、心も通じる。基本的に私たちの関係は何一つとして変わっていないのだ。

  美談にすり替えるような話ではない。少しライフスタイルと食べ物の好み、行く病院の種類が変わっただけで彼は彼のままだ。

 代わりに一緒にいる時間も増えたし、近所の猫たちとも仲良くなった。部屋に虫が出たときも、持ち前の素早さですかさず退治してくれる、頼りになる旦那様だ。

 つい先日のことである。神妙な面持ちをした彼が、私の前にすいと前脚を伸ばす。脚を上げるとそこには、銀に輝くプルトップのリングが置かれていた。

 あまりにも真面目な顔に吹き出しつつ、エンゲージリングを嵌めた薬指に通せばぴったりと嵌まった。

 それだけで、十分に幸せだった。

〈了〉

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