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タペストリー  作者: 桜ネズミ
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ある日突然

突然猛烈に編みものがしたくなった。理由は全く分からない。元々手芸好きなわけでもファンシーな雑貨を集めて喜ぶタイプではないのだ。ただの暇つぶしといえば簡単だが

はるかにその領域を超えている。毎日ほとんどの時間をソファの上で過ごすのだ。


2年前に長年勤めた会社をやめてから、専業主婦をやっている。

夫は単身赴任で高校生の2人の息子達はバイトやら音楽に夢中でほとんど家にはよりつかない。


仕事を辞めたのも、なんとなくで

なんとなく嫌になって

突然辞表を出した時上司は慌てた。

今やめられたら困るだの

次に引き継いでからにしたらどうだとか。

押し黙る私に、悪い病気でも見つかったのかと

最後は腫れ物を触るようにして見送られた。


夫はしばらくの間私が仕事を辞めた事にも気づかず、最近家事がマメだねと機嫌が良いためそのままだまっていた。


上の息子はバイトから帰るのが深夜になり、食事も済ませてくる事が多い。そのせいだかなんだかガリガリに痩せている。


下の息子もバイトだが、こちらはベースギターを抱えては朝から夜中まで何をしてるんだかさっぱりわからない。


2人とも質問されると明らかに機嫌が悪くなるので弁当渡して、何時に帰るの?晩御飯は?とだけ聞く事が増えた。



帽子がほしいな、と

ゴミ出しの時耳が寒いので思った。

夫のお古が押入れにあったような気がして、何年も開けていないプラスチックのケースやらダンボールをほじくっていたら

大きな紙袋がゴロンと手元に落ちてきた。

開けてみると赤やら黒の丸い玉が覗いている。

チサから貰った毛糸だ。20年以上ナフタリンまみれでしまいこまれていたが殆ど新品だ。


チサはなぜだか彼氏ができると必ず毛糸を買ってきてセーターを編み始める。そしてその彼氏と一ヶ月経たずして別れる。

編みかけのセーター(5センチくらい編んでる)と、残りの糸もろとも

「ハイ、桜ちゃんにあげる」と私にくれるので

私の手元には売るほどの毛糸の山が残された。


チサはある日私のマンションに泊まりに来て

私の1番良いワンピースを着たまま彼氏を追いかけて大阪に行ってしまった。

チサの着ていた、ピンク色のゆったりしたヒラヒラのワンピースは一応ブランドものだけど、

私には全く似合わないので結局着ないまま何年も私のクローゼットにかかっていたけど

何度かの引越しと、チサから連絡が途絶えたので行方不明のままだ。


私も編みものは好きじゃないけど、チサの言い方には有無をいわさないものがあったのだ。


帽子は出てこなかったけど、毛糸と時間はたくさんある。


私は自転車を漕いで近所のスーパーに行ってみた。

手芸品のコーナーには様々なジャンルの品物が積み上げられている。

刺繍、ビーズ細工、フェルト人形に布地

小さなキューピー人形やリボン


かつての私なら素通りしていただろう品物を一つ一つ眺めながら、バカにならない値段に驚く。毛糸もひと玉100円のものから

千円以上する高級なものもある。チサのくれた毛糸はかなりよいものばかりだと言うことが分かった。


私はメモしていた毛糸の種類に合うかぎ針と、帽子ののっている本を一冊買った。


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