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彼女の場合

公園のベンチでの考え事

ふと、隣を見た。

ここは住宅に囲まれた公園の隅の日の当たらないベンチ。

今風の青年がタバコをふかしていた。いつもなら毛嫌いするその姿がなぜか羨ましかった。彼はとても自由だった。別段、何か特別な行為をしているわけではない。タバコだって、茶髪だって、この歳になれば誰にはばかることなく出来ることだ。ただ、それでもその行為が私には何とも自由に映った。彼には何のしがらみもないように感じた。それに引き換え、私は。私はなんと多くの鎖に繋がれているのだろう。今日、またその鎖が増えた。

3時間ほど前のこと。些細な事で母親と喧嘩をした。こういう時の仲裁者は決まって父親なのだが、あいにく今日は出勤していた。きっかけは何だったか思い出せないくらいの喧嘩。一方的に悪いのは母親だと思っていたのは3時間前、ちょっとは私も悪かったかもしれないと思い始めたのは2時間前。全面的に私が悪いと気づいたのはついさっき。いや、ずっと分かっていた。でも、認めたくなかった。意地を張っていた。意地を張っていることに気がついていたたまれなくなって家を飛び出してきた。そして、辿り着いたのがこの公園。昔はよく遊んだな。ここで遊んでいた頃は悩みなんて吹けば飛ぶようなものだった。今日の夕飯にピーマンは出ないだろうかとか、明日のプールは級を合格できるだろうかとか。それでも、当時の私にとったら一大事だったな。


ころころころ

こつん


足に黄色いボールがぶつかった。

「まってー」

舌足らずな声がそれを追いかけてきた。

はい、と手渡すとその幼子は満面の笑みでそれに手を伸ばした。が、すぐに引っ込めてしまった。いくらか表情が強張っているようにも見える。私の顔はそんなに怖かっただろうか。いや、いくら今落ち込んでいるからってそこまでひどくない。と信じている。

「む、虫さんが……。」

よく見ると彼女に向いたその面に2センチほどの小さな黒い虫がいる。何という種類かも知らないその虫。それでも、今重要なのはこれが少女を怖がらせているという事実。私はその虫を指でつかみ、ひょいと後ろの植え込みに投げてやった。少女は羨望の混じった眼差しで私を見ていた。

「ピーマンたべたら、おねえちゃんみたいにつよくなれる?」

ははは。その的はずれな疑問に思わず笑みがこぼれた。こんなに小さな少女でも立派にしがらみを抱えているではないか。なんと大きくてなんとかわいいしがらみだろう。

くくく。隣から小さなおしころしたような笑い声が聞こえる。振り向くと、あの自由青年と目が合った。

彼女の場合でした。

次話は彼の場合です。

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