嫌がらせにて
「ライオスー、ライオスー!なんかめっちゃ荷物届いてるんやけどっ」
朝起きて庭先へ花を摘みに行くと、家令のコーレンさんが馬車から大量の荷物を運び出していた。
手伝おうと駆け寄ると、未だ眠っている主人を起こしてほしいと言われたので一も二も無く飛び出した。
そしてベッドへダイブしてこの屋敷の主人を無理矢理に起こした次第だ。
「なあっ!ライオス!ライオスってばあ!!」
「うっ、あ…今起きる、起きるから…」
うちの下で苦しそうに言うライオスに「はよぉ!」となおも言い募る。
ベッドからもそりと起き出したライオスは「誰からだった?」とまだ眠そうに目をこすって聞いて来た。
「なんか、ゲードランドッド伯爵様からって言うてたけど…」
「ゲードランドッド!?」
さっきまでのノロノロ差とは打って変わってバビュンッと起き上ったライオスに、いつは驚いてころりと転がった。
…ライオスの足の方へ座ってたから、結構転がったけど…さすがキングサイズのベッド。
うちが転び終えるまでベッドは続いてた。
「ああ、すまない…今何を運んでいた?」
「えっと…なんかちっこいもんをコロコロ…いっぱい?」
「あいつ…また余計な事を…出所は兄上か」
「ライオス、顔怖いで。それから、おはよう」
眉間を撫でると、ライオスは深呼吸をして私を抱きしめた。
「…おはよう、ノギク」
この家に来た時から、ライオスと家の朝の挨拶はハグ付きだ。
もちろんエルちゃんともやけど。
「コーレンさんが荷物運んでくれてると思うけど…あれ、なんなん?」
「恐らくノギクへの貢物だろうな」
一息付いたライオスの口調からはとげは取れていた。
ベッドから降りて支度を始めるライオスに「よー分からんけど取り敢えずリビングおるでー」と声を掛けて部屋を出た。
「…あら、ノギクちゃん」
「エルちゃん…それ、勝手に開けていーのん?」
嬉々としておはようのハグをするため駆け寄って来たエルちゃんに抱きついて「おはよう」と声を掛ける。
「こちらの品々は全て、ノギクちゃん宛てよ?」
「さっきライオスも言うてたけど…なんでうちなん?」
こっちの世界にうちは知ってる人もおらんし、ライオンキングの名前も聞いたけど…。
「厳密に言うと…そうですね、旦那様のお友達の嫌がらせかしら」
「友達?嫌がらせ?」
二つの意味が示す理由があまりにも相異しないんやけど…。
「友達なもんか。奴は俺に嫌がらせしかしたことが無い」
「ライオス…」
やさぐれ具合が半端ない。
リビングのソファにどかりと音を立てて座るライオスは、両手を広げてうちを呼ぶ。
しゃーないからゆっくり歩いてぎょーっとしたる。
後ろからエルちゃんが「あらあら」と笑ってる声が聞こえたけど。こんなに苛立ってるライオスもまあ珍しいから、ここはうちの広い心で癒してあげよう。
ぎゅうぎゅうしていると、後ろからコーレンさんが「旦那様」と呼ぶ声が聞こえた。
「ゲードランドッド伯爵様よりお手紙です」
「くっそ、奴め先手を打ちやがったな」
「わお。ライオス口悪なった!」
目付きも恐ろしい事になってて、側におったうちまで怖い。
「この時期ですと…パーティーの招待状ではありませんか?」
「…ふむ、どうやらエルネラの言う通りらしい」
コーレンさんから受け取った手紙に目を通しながら、ライオスは苦々しく頷いた。
パーティー…うわ、面倒臭そう!
一目うちの方を見てライオスが笑う。
「残念ながら、お前を伴って出席して欲しいとの事だ」
「ふおっ!?なんでうちまでっ!?」
「どうせ王太子殿下からノギクちゃんの存在を知ったからでしょう?」
「だろうな…全く、下らん。」
ライオスはそう吐き捨てて手紙を放り投げる。
またうちをぎゅうぎゅうして、そのすきに手紙を拾ったエルちゃんが「あら?」と首を傾げる。
「どうしたん?」
首を傾げられないので声を向けると、苦笑したエルちゃんが「どうやら強制参加らしいですわよ、旦那様?」と返した。
そしてこの言葉により、一ヶ月後に開催されるゲードランドッド伯爵様のガーデンパーティーへ出席せざる負えない状況に追い込まれたのである。