廊下にて
「…やあ、ノギク。おはよう。」
「えっと…リーディアさん?どないしたんですか、その格好!」
廊下でかちあったリーディアさんの服装に驚いてそう聞くと、横からエルちゃんが「リーディア様はこの国の騎士として活躍なさってるんですよ」と付け足してくれた。
「ええっ、綺麗で強いとかリーディアさん恰好良いっ!!」
「あはは、本当かい?ノギクの後ろに居るエルネラも、中々強いんだよ?」
「あらリーディア様ったら、…うふふ。」
最後のうふふでエルちゃんが大物だと言う事が分かった。
エルちゃんから視線を外してもう一度前を歩くリーディアさんを見る。
肩につくかつかないかの赤みの強い金の髪の毛先は緩く波打って、正面に回ると凛とした深い瑠璃色の二つの宝石が嵌っていた。
この世界には美男美女の層が濃いなと思っていると「ここだよ」とリーディアさんが扉を開いた。
そこにはうちら以外の三人が席に座って微笑んでいた。
「おはよう、ノギク。」
「おはよう、ライオス。アーリアさん、ライオンキング。」
最後の言葉に全員が吹き出した。
「素晴らしい愛称だな!」
「まあ、ライオンキング様ったら」
「兄上、似合ってるじゃないか」
「いいですね、ライオンキング。私もその様に恰好良い愛称が欲しいです!」
くすくす笑いながら、うちも席に着く。
「よく眠れたか?」
「うん!ベッドすっごい広かったからちょっとヒマやったけど。」
「そうか。」
にっこりと微笑んだら、ライオスもエルちゃんの淹れた紅茶を飲みながら笑った。
「今日はもう帰るんでしょう?ライオス」
「まあ、もう帰ってしまうの?」
寂しそうに言うアーリアさんに「まあ、ちょうど急ぎの依頼を受けたからな」とライオスは答えた。
「それなら私の職場を見学してからでも良いでしょう?
きっとノギクも楽しめると思うんだ!」
「勘弁してくれよ姉上。ノギクを不特定多数の男の視線に晒すのは俺としては思わしくない。」
きっぱりと言うライオスの言葉に、リーディアさんは「あら…ようやく素直になったんだね」と口角を上げた。
「仕方無い、今回は可愛い弟に免じて止めておこう。
ノギク、また暇を見て会いに行ってもいいかな?」
「もちろん!うちもまたリーディアさん達に会いたいし!」
うちの答えに満足した様に頷くとリーディアさんも食事を再開した。
そして微笑む美男美女に囲まれて、少しだけモゾモゾする居心地の悪さをごまかしながら目の前のパンに手を伸ばした。
朝食を食べ終わってティータイムを挟む間に、リーディアさんは「それじゃあまた来るんだよ、私の可愛い妹ちゃん」と語尾にハートを飛ばしながら兵舎へと去って行った。
いつの間にうちはリーディアさんの妹になったんやっけと首を傾げたが、ライオンキングもアーリアさんもにこにこ笑ってたからそれ以上はつっこまん事にした。
「ライオス、ノギクにも会いたいし父さん達に紹介もしたいからまた来いよ!」
「お仕事の都合がつく時で良いから、なるべくいらっしゃいね?」
豪快に笑うライオンキングと、控えめに…だけど断ったら泣き出しそうなアーリアさんが続く。
ライオスは面倒臭そうに「都合がつけばな」と答える。
「…そう言えばライオンキングの名前ってなんて言うんやっけ?」
「俺か?カズィルド・トレイル・フィズルーンだ。
公式の場で会う方が少ないかもしれないが、それでも一応覚えておいてくれ」
苦笑と共に言うライオンキングの名を二度心に刻み付ける。
うちがこっちにおって、ライオスになんかあった時はこのカズィルドさんに助けてもらおう。
私は一つ頷く。
「カズィルドのお兄さん、うちこんなんで何も技術も無いし何も出来へんしライオスにお世話になりっぱなしやけど、よろしく」
ぺこりとライオンキングにお辞儀をして、そのままライオスの背を押しながら廊下を走り去った。
後ろ目に驚いた表情の二人が見えたけど、スルーした。
帰路につく馬車の中でライオスが含み笑いで「カズィルドのお兄さん、ねえ?」とからかって来たので顔を隠しながらライオスの足の脛を思いっきり蹴ってやった。