018 Final Round
Final Round
会場全体をサンサンと日射しが照りつける。国内最大の格闘ゲーム大会「怒号戦戯」それ自体の熱気も相まって観客ともども燃えてた。今年の決勝トーナメントは屋外での初開催ということで筐体が熱暴走するなどトラブルがあったものの例年にない盛り上がりをみせてる。
都内の大公園を貸し切った会場は人で埋め尽くされていた。千人近い人々の眼差しは壇上へ注がれてる。いつ日射病で倒れてもおかしくないのに、タオルを頭に乗っけたり水分補給をしたりして必死にしのいでる。それもこれもトーナメント最終日のこの決勝戦を観るためだ。
壇上の僕はさっきから震えが止まらなかった。
「勇輝、リラックスするのだ」
隣の武上瑠羽が肩に触れてくる。決勝トーナメントは二対二のタッグ戦だ。組むのは誰を選んでもいい。僕は彼女へ肯くものの、こうも大勢に見られてるとつい弱気になってしまった。
しかも対戦者は案の定、月山涼太君だ。ペアは長髪の大男である、まさかこの人まで格ゲーをやるとは思わなかった。彼らの本性を知ったいま、苦手意識がある。
実況解説の男が二人にインタビューをし、例によって涼太君のユーモアある返しに笑いが起きた。どんなことをしゃべってるかは僕の耳には全然入ってこない。
遠くに小さく見えるコズミックタワーを眺める。あの日以来、人を修羅とする電波は発されなかった。警察は暴徒騒ぎを原因不明とし、タワーの仕業だとは疑ってない。神谷卯葵子さんが犯人だと言ったって信じる者はいない。一般人の逮捕者が出たぐらいで、呆気なく完成披露されたのである。予定通りに運営は開始され、想定以上に人気が高くて連日盛況とのこと。
「対するは、浅海勇輝選手と武上瑠羽選手! 意気込みをどうぞ!」
とうとうこっちにマイクが向けられる。慎重にそれを持ち、唇を小刻みに震えさせた。なにをしゃべろう。いつもみたいに頭真っ白で言葉が一つも浮かんでこなかった。
そんな僕の目線に合わせ、瑠羽が一方を指差す。それを辿っていくと中央のあたりで一生懸命に手を振る青年がいた。目を凝らし、それが多田勝也だと知る。元気な姿からは、とても心臓が止まってた奴には見えない。傷だってまだ塞がってないってのに、ジャンプまでして応援してくれてた。柴村源校長の心臓マッサージがだいぶ効いたとみえる。
見れば、その周りにも見知った顔がちらほらあった。勝也の友達が僕へ歓声を上げてる。こんなこと、人生で一度もなかった。ゲーマーだなんだと気持ち悪がられ、いつも一人でこの舞台に立ってたんだ。
今日は違う、みんながいてくれてる。そう思ったら、いつしか緊張が消えてた。手足も正常になり、マイクを握る手にも力がみなぎった。
ありがとう、みんな。ありがとう、瑠羽。
彼女と視線を合わせて肯く。格ゲーをやってきて良かったと心底感じられた。
僕は涼太君へ体を向け、肺いっぱいに空気を詰めこむ。
「優勝したかったら、僕を倒していけっ!」
いま決勝戦が始まった。
<了>
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